Neetel Inside 文芸新都
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アルミニウム
分娩室

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妻は機械を出産した。
それは体液でコーティングされ、金属光沢と混ざり合い奇妙に、テカテカと、生理的嫌悪をもたらす光々を、天井に点対称で配置された6つの照明から無秩序に反射していた。私はその眩しさからか目を少し逸らし、音を聴いた。スピーカーからは白々しくも生まれたばかりの赤ん坊のような泣き声を再生している。その声は明らかに2回でループしていた。安物スピーカー特有のこもったような低音質が妙に腹立たしい。医師は苦々しくも元気な赤ちゃんです、と虚空に向かい言いはなった。分娩室は赤ん坊の泣き声以外にはしんと静まり返り、人の生みだす物音がかえって静寂を強調した。
男は憤りを感じた。しかし、何に怒っているのかは分からない。逆にこの世界のすべてに怒れるようにも感じた。出産という出来事は無条件に尊いものだったのではないのか。生命の誕生とはもっと感動的な情景であったはずだ。いや、そうでなければならない。それなのに。
そのうち、この部屋のこの雰囲気に憤った。医師たちは言葉にはしないものの、微妙な心情を、表には出すまいと努力しつつもその表情やギクシャクした動きとして滲み出していた。そういった空回りの努力に憤慨した。生まれたのが機械だなんて普通のことですよ、と思ってもいないことを態度では示そうとしていることに怒った。相変わらずの耳障りな泣き声にうんざりとした。怒りの正体が、人間は人間を生むはずだという自分の期待を裏切られたからだということに、男は最後まで気付かなかった。

       

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