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学者が助走をつけて殴るレベルの「古事記」
第四章「国造り編-彼の名前はオオナムヂ」-その1

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 スサノオがヤマタノオロチを成敗し、出雲を旅して、須賀の国を始め様々な建国を成し遂げてから、長い時が経ちます。

 ある所に、八十神と呼ばれる、沢山たくさんの兄弟神様がいました。彼らは、スサノオの六代孫です。
 八十神と言っても、八十の神というわけではありません。当時、「八」という文字は、「8」という意味とは別に「沢山」という意味でも使われていたのです。ちなみに現代でも「八百屋」とか「嘘八百」とか、そのような意味で使われていたりします。これってトリビアになりませんか?
 八十神は、神と呼ばれるだけあって、それぞれがガチムチの逞しい神様でした。頭もいいです。全員が優等生でした。
 そんな中、末っ子の神様だけが落ちこぼれでした。大穴牟遅神(おおなむぢのかみ 以下:オオナムヂ)という名前の、気弱そうで引っ込み思案の華奢な男の子です。
 またある所に、 八上比売命(やがみひめのみこと 以下:ヤガミヒメ)と呼ばれる、それはそれは美しい女神様がいました。どのくらい美しいかと言うと、八十神全員がヤガミヒメに惚れるくらい美しい女神様でした。
 ある日、八十神は、何と全員でヤガミヒメの元へ赴き、結婚を申し込もうと思い立ちます。そして全員で揃って、ヤガミヒメの住む因幡(現在の貨幣価値で換算すると鳥取県である)へ旅立ちます。
「やい、オオナムヂ! お前は俺達全員の荷物を持って、一番最後について来い!」
「そうだそうだ! ヤガミヒメに結婚を申し込もうなんて、オオナムヂのくせに生意気だぞ!」
 そう言って、兄神達は、オオナムヂに荷物を放り出し、自分達は楽々と旅をします。
 オオナムヂは、文句も言わずに、黙って兄神達の荷物を持って歩きました。しかしそれは、兄神達が怖かったのではなく、「これを僕が全部持てば、お兄ちゃん達は助かるに違いない」という優しい心からの行動でした。
 そんなオオナムヂの気持ちなど知った事ではないとばかりに、兄神達はズンズン先に進みます。当然、オオナムヂは、みるみるうちに置いて行かれてしまいました。

 所変わり、因幡地方の近く淤岐島(おきのしま)。
 そこに、稲羽之素兎(いなばのしろうさぎ 以下:イナバ)という名前の兎が住んでおりました。
 イナバは因幡地方に憧れており、いつか自分も因幡に行ってみたいと思っていました。しかし、因幡と淤岐島(おきのしま)の間は川で遮られており、イナバは渡る事が出来ません。
 そこでイナバは一計を案じます。その川に住んでいるワニに向かって、イナバはこう言いました。
「君達ワニよりも、私達兎の方がずっと沢山いるわ」
「そんな事はない。兎よりもワニの方が多いに決まってる」
「じゃあ、数えっこしよう。この川にワニを整列させて、ビールでも飲んでリラックスしな。数は私がしっかり数えてやるよ」
「面白い奴だな。気に入った。齧るのは最後にしてやる」
 そう言って、ワニは仲間を集めて、ずらーっと一列に並べました。そうして、淤岐島(おきのしま)から因幡地方に通じる、ワニの橋が出来たのです。
「しめしめ」とイナバは、ワニの数を数えるフリをしながら、ピョンピョンと因幡地方に渡ります。そして、今や因幡地方は目の前です。
(だ…駄目だ まだバラすな…こらえるんだ…し…しかし…)
 あともう少しの所でこらえきれなくなったイナバは、大笑いしながらワニに「嘘ぴょーん(兎並感)」とネタばらしをしてしまいました。
「お前は最後に齧ると約束したな。 あ れ は 嘘 だ 」
 そう言ってワニ達は、イナバを齧りつくしました。哀れイナバは、あと少しという所で、ボロ雑巾のようになって転がりました。でも一応、因幡地方には渡る事が出来ました。

 舞台は再び八十神の行列に戻ります。
 八十神が、出雲から因幡への旅路を急いでいると、そこに、ボロ雑巾のようになって倒れているイナバを見つけました。
「旅の御方、助けて下さい。ワニに齧られた後が痛くてどうにかなってしまいそうです」
「それはいけない。それでは、海水を体中に塗りたくって、陽に当たりなさい。そうすれば治るでしょう」
 イナバは言われた通り、海水を体中に塗りたくって、陽に当たりました。
 ところが、傷は治るどころか、皮膚が乾燥してますます痛むようになってしまい、イナバは激痛に転げ回ります。
「本当にやってしまったのか?(ニヤリ)」
「普通はやらないだろ常識的に考えて……」
 そんなイナバを嘲笑いながら、性悪の兄神達は、さっさと行ってしまいました。うーんこの。

 あまりの激痛に「痛いですね、これは痛い……」と意識が遠くなるイナバ。しかしそこに、今度は兄神達に随分離されてしまったオオナムヂが通りかかります。
「旅の御方、助けて下さい。ワニに齧られた後が痛くてどうにかなってしまいそうです」
「それはいけない。それでは、淡水で体についた海水や砂利を綺麗に洗い落として、蒲の穂の花粉の上をゴロゴロしなさい。そうすれば治るでしょう」
 イナバは言われた通り、淡水で体を綺麗に洗い、蒲の穂の花粉の上をゴロゴロと転がりました。
 するとどうでしょう。あれほど苦しんでいた激痛がみるみるうちに治まり、傷がすっかり塞がってしまったではありませんか。
「お急ぎの所助けていただき、ありがとうございます、旅の御方」
「いいんだよ。どうせこんなに遅れてしまっては、もう間に合わない。それに、優等生のお兄ちゃん達だから、きっとヤガミヒメはお兄ちゃん達を選ぶさ。そんな事よりも、君の怪我が治って良かった」
 そんなオオナムヂの格好いい言葉に、イナバは感動します。よく見れば、オオナムヂは結構イケメンでした。どのくらいイケメンかと言うと、並の女性なら話しかけられるだけで失神するくらいイケメンです。
「ヤガミヒメは、あんな意地悪な兄神達を好きにはなりません。貴方のような優しく慈悲深い人を選ぶに違いありません(※ただしイケメンに限る)」
 イナバは、オオナムヂにそう言いました。しかしこれは、ただの慰めや励ましではありません。立派な「予言」でした。イナバには、そういう力があったのです。
「ありがとう。きっとそうだといいね」
 そんな事は知らないオオナムヂは、最後まで爽やかなスマイルで、イナバと別れました。

       

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