タケミカヅチは、オオクニヌシの言葉を額面通り受け取り、まずはオオクニヌシの長男である八重言代主神(やえことしろぬしのかみ 以下:コトシロヌシ)の所にカチコミました。
あまりの剣幕にビビったコトシロヌシは、タケミカヅチの言葉に「いいですよいいですよ、持ってって下さい」と答えます。
しかし、コトシロヌシは、結構陰険でした。実際にタケミカヅチにカチコまれた時にはへこへこしたものの、いざタケミカヅチが帰ると、ふつふつと愚痴を言い始めます。
そして、ふてくされたコトシロヌシは、船に乗り込み、手の甲で手をパン! と叩き、船をガコン! と踏みつけます。
前に、イザナギがイザナミから逃げる時、十拳剣を逆手に持って逃げたのを覚えていますか? あれと同じ感じです。要するに「いつもと逆のやり方」をすると、悪い縁起を相手にぶつける事が出来るのです。現代風に言えば、お客様にお茶漬けを出したり、お客様が帰る時に塩をまいたりするあれの意味合いがあります。
そして、コトシロヌシは、そのままずーっと船の中にひきこもってしまいました。そして、二度と出て来る事はありませんでした。神様は、何か気に入らない事があると、すぐにひきこもる習性があるようです。
続いてタケミカヅチは、オオクニヌシの次の息子である建御名方神(たけみなかたのかみ 以下:タケミナカタ)の所にカチコミます。
しかし、これがクセモノでした。このタケミナカタ、流石はスサノオの七代孫だけあって、中々気合いが入った神様だったのです。
「ヤクザめ。武の力を思い知らせてやる」
「”上等”じゃん? ”タケミナカタ”ァ……! 気合いブリバリだぁバカヤロウ!!」
──!?
こうして、タケミカヅチとタケミナカタは、DOHYOUという神聖な場所の上でRIKISHIとRIKISHIが己の誇りと命を懸けてBUCHI-KAMASHIあい、HARITEやHADOU、TSUPPARIなどを駆使し勝利を収める、最強の国技「SUMOU」で決着をつける事にします。
「ドーモ。タケミナカタ=サン。タケミカヅチです」
「ドーモ。タケミカヅチ=サン。タケミナカタです」
HAKKEYOI終了から0.02秒。タケミナカタは跳んだ。後悔は死んでからすればよい。今は目の前の敵を倒さねばならない!
ところが、タケミカヅチはチートしました。手を氷の柱の剣に変化させたのです。こんな手でHARITEやTSUPPARIをされたらひとたまりもありません。
タケミナカタは恐れをなすと、その隙を見逃さなかったタケミカヅチが、タケミナカタの手を、凍っていないもう片方の手で掴みました。そして何と、力任せに握り潰してしまったではありませんか。要するに握撃です。
「実際強い」
これに慌てたタケミナカタは、すたこらさっさと逃げ出します。しかし、タケミカヅチは下衆でした。逃げ惑うタケミナカタを執拗に追い回し、両腕を氷の刃で斬り落としてしまったのです。流石はヤクザです。
「参った、参った! もう私はしゃしゃり出ません! センセンシャル!」
タケミナカタは、すっかりタケミカヅチに降参しました。こうしてタケミカヅチは、強引にオオクニヌシの子供達に納得させました。
タケミカヅチは、オオクニヌシの子供達にも納得させた事を、オオクニヌシに報告しました。
ああ言った手前、タケミカヅチがちゃんと約束通り息子達から納得を得た以上、国は譲らなければなりません。ここで「だまして悪いが」とかほざいたら、絶対小指を詰められます。
しかし、それはそれで困るのです。そうなれば、オオクニヌシがこれまでに得た信仰は、全て天上世界の神々のものになります。そして神は、信仰がなければいけません。そうなれば、オオクニヌシは信仰を失い、居場所を失ってしまうのです。
困りに困ったオオクニヌシは、タケミカヅチに懇願しました。
「国は差し上げましょう。天上世界の神々が統治していただいて構いません。しかし、私が祭られる祭壇も残していただけませんでしょうか? そうしていただかなければ、私は居場所がなくなってしまいます」
これを聞いたタケミカヅチは、オオクニヌシや他の出雲の神々を哀れに思います。延いては、タケミナカタも居場所を失ってしまうのです。タケミナカタは、根限りのタイマンを張った相手です。つまり、ダチなのです。
「おっしゃわかった! ”テンジョー”の奴らに、このタケミカヅチが”物申して”おいてやるぜ!」
そう言って、タケミカヅチは、一度天上の世界へ帰る事にします。そして、ありのままの現状を、天上世界の神様に報告しました。
その後、ただ単純に天上世界の神様の聞き分けが良かったのか、それともタケミカヅチの表沙汰にならなかったブッコミがあったのかはわかりませんが、結果、オオクニヌシの主張は認められました。
こうして、遂に天上世界の神々の出雲へ降り立つ儀式「天孫降臨」が行われる事になります。