「と、まだそんなバカげた妄想をうわごとのように繰り返していたんですよ」
そう笑いながら、体重200キロの巨漢が誰かと携帯電話で話している。
太っちょのその指は4本しかない。
結局、俺はヤツに捕まってしまった。
今は荒縄で亀甲縛りにされ、猿轡を噛ませられ、一寸も身動きが取れない。
「よっぽど、あの客にされた事がショックだったんじゃないですかねー?」
客…?
一体何のことだ。
ううっ頭痛が痛い!
「早く売り専ゲイ風俗の刃企画のキャストとしての自覚を持って頂きたいものです!」
そう言って、巨漢はにたぁっといやらしい笑みを浮かべた。
あ…
ああああ!!!!!1!!
思い出した…。
そうだ、俺は研究者でも何でもない。
そういう「設定」で、白衣を着た眼鏡男子という格好で、あの変態の元へ送り届けられたしがない男娼なのである。
この巨漢はゲイ風俗店・刃企画のS副店長なのだ。
大きな借金を抱えていた俺は、借金返済の為に、この刃企画で働く事になってしまった。
俺自身はゲイでも何でもない。
だがそういうノンケの男を征服したがる客は多いらしいのだ…。
何人かの接客をこなし、絶望的な気分になりながらも慣れつつあった俺は、いつしか現実逃避のような妄想に耽るようになっていた。
そして先日、超がつくど変態の客に出会い、遂に自我が崩壊寸前となり、そこから逃げ出したのだった。
「今から帰社します。もう一度、こいつに再教育をしないとねぇ…」
副店長がにたりと笑う。
い…いやだ!
再教育だって!?
またあいつの元へ行くなんて…!!
今日ついた超ど変態をも上回るモラルハザード野郎。
刃企画のN店長の下へ行かねばならんのか…!?