Neetel Inside ニートノベル
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『欠』能力者バトル
第五話 『VS.二頭牛』

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「いよいよ、ボス戦ですね」
「おお、サトシィ、気い抜くなよお」
「なんでオレだけ!?」
 泡牛撃破後、ウシトラの呼び出すコマンドが復活するまで休息し、ケル
ベロスに乗り移動する一行は順調にコールドブートの最奥部、ボスのいる
空間の前まで来ていた。

「この先ですね、『二頭牛ダブル 』がいるのは」
 スーサイドからの情報によるとこのコールドブートのボスは名を二頭牛。
名前の通り二つの頭を持つ闘牛だそうで体躯は通常の闘牛の数倍。規格外
のでかさ。けれどもそのでかさゆえ自立歩行できず洞窟の奥で普段は眠っ
て過ごしているよう。攻撃手段としては左右の首から放たれるブレス攻撃
がメインであり、右の首が雷、左の首が炎の属性を持っているそうだ。

「話を聞いた限り動かない分、今までの闘牛に比べて倒しやすそうではあ
るが」
「油断すんなよお、なんといってもボスだあ。一筋縄ではいかないだろう
なあ」
 突き当りを右に曲がればボスのいる空間へと出る。三人は緊張の面持ち
で歩き出す。先頭を行くのは盾役であるタイヨウ。ウシトラは素早さ重視
脱兎ラピッド・ラビット に乗り換えタイヨウの後に続く。最後尾を
呪符係のサトシが固め、一路、二頭牛戦へ。




 感じる威圧、角を曲がるとひしひしと感じる圧迫感。三人が目にしたのは
今までの闘牛など目ではない超巨体の闘牛。吐きだす息が辺りを揺らし、
大きな4つの目が今しがた現れた侵入者に向けられる。

『ブルブル、客人とは珍しい』
『これは丁重に出迎えせねばならんな』
「しゃべるのかよ!!」
 モンスターが話す初めてのパターン。サトシ達はおどろき身構える。そん
なサトシ達を見ながら二頭牛は伏していた顔を上げつつ、その口からそれ
ぞれ炎と雷の息を吐き出す。二頭牛のその巨体は巨大な山を連想させ、そ
の獲物を見つめる鋭い目つきはサトシ達の体を硬直させる。

「ははは……これは想像以上だね」
「ああ、でけえって程度のもんじゃねえなあ。本当にこんなやつ倒せるの
かあ?」
「だが、もう退くわけにもいかないしな。行くか」
 最後尾を行くサトシが部屋の中へと入り、これで全員が二頭牛と対面する。
盾を構えるタイヨウ、呪符を構えるサトシ、ウシトラは兎の背の上で体勢を
落とす。
 ガタン。背後から突如聞こえた衝撃音に一同が振り向く。すると、どう
だろうそこにあったのは壁、入り口があったはずの場所に周りと同質の石
の壁がせり出してきていたのだった。

『ブルブル、出入り口はふさがせてもらった』
『材質は石、破壊できないことはないだろうが我らとの戦いの間に逃げ出
すことはできないだろう』
「けっ、これで本当に退けなくなったな」

 二頭牛の言う通りこの程度の壁、時間があれば掘り進んで出られそうでは
ある。だがそれには時間がかかるし、その間にも二頭牛たちは攻撃を仕掛
けてくるだろう。つまり、サトシ達には逃げるという選択肢を奪われたわ
けである。

「元から逃げるつもりなんてねえんだしい、むしろ背水の陣ってやつだあ、
士気も上がるってえもんよお」
 ウシトラが吠えるもそれをああ笑うかのように二頭牛は言葉を継ぐ。
『ブルブル、果たしてそうであるかな』
『人間というのは面白いものよ、逃げないと逃げられない、今の状況では
同じように感じるこの言葉だが、この死ぬかもしれない空間ではその些細
な違いが大きくのしかかってくるものだ』
 三人を見下ろす二頭牛。彼らの口から発せられら言葉は真をついたもの
であった。背水の陣とは自ら死地に立つことで決意を固める兵法であり、
今回の場合とは根本的に異なるのである。ただでさえ、命がかかり張り
つめた心。その状態に更なる心的負荷が加えられた場合、いともたやすく
心というものは揺れてしまう。そして、事実。先頭に立つタイヨウは自身
の体に異変を感じていた。盾役として一番先頭に立っているのだ、心的負
荷は一番高いであろう。そして先の泡牛との命を懸けた死闘。彼の精神は
確実にすり減り、そして出入り口がふさがれたことが引き金となり彼の心は
悲鳴を上げていた。理由はわからないが体が震える。動けなければ殺され
るという恐怖がさらにタイヨウから冷静さを奪う。
 後ろからタイヨウの様子が見えていたサトシは、タイヨウの異変にいち
早く気付く。

「タ……」
 タイヨウの名前を呼ぼうとするサトシであったがそれを思いとどまる。
すでに戦いは始まっているのだ。動きの鈍ったタイヨウの名を読んでしまっ
ては、相手に異変を伝え攻撃するよう促しているようなものだ。タイヨウ
には何とか自力で立ち直ってもらうしかない、だが、その間、その間だけ
でも。


劣化烈火インフェルニティ・インフェルノ
 サトシは決意のもとに動き出す。

     

**


「サトシ、ダメだ!!」
 一人、飛び出し二頭牛へと攻撃を仕掛けるサトシ。その姿を見たタイヨ
ウは彼の後姿にとっさに叫んでいた。
 
 事前の打ち合わせでは、タイヨウが盾となり二頭牛からの初撃をかわす。
続いて、機動力のある兎に乗ったウシトラが二頭牛への背後に回り込む。
その際、サトシは呪符でウシトラを援護。背後に回ったウシトラは二頭牛
の攻撃が届きづらいその位置から攻撃をつづけ、タイヨウとサトシで二頭
牛の注意を引きHPを削っていく、という作戦であった。
 けれども二頭牛の初撃の前に飛び出したサトシ。その行為が自分のため
に行われたということにタイヨウはすぐに思い至る。
 
 サトシは僕のせいで、僕をかばって飛び出していったんだ。僕が震えて
いるのを見て自分に注意を向けるために。サトシは僕を命の恩人と言った
けれど、本当はそんなものじゃない、そんな立派な物じゃないんだ。だか
ら、僕なんかのために危険を冒さないでくれ、だって僕にはそんなことさ
れる価値なんてないんだから。こんな世界に来て、意味の分からい状況に
戸惑って。本当の僕は、君が思っているような僕じゃないんだ……
 タイヨウは静かに震えていた。

 
 サトシの放った呪符による攻撃が二頭牛の顔面をとらえる。手順は違っ
てくるがサトシに注意が向いたのを見てウシトラは、二頭牛めがけ兎を跳
ばす。当然、迎撃の構えを取る二頭牛であったが、再び放たれたサトシか
らの攻撃により注意が逸れ、その隙にウシトラに背後へと回り込まれてし
まう。

「ウシトラ、無事か?」
「おお。サポートサンキューなあ」
 背中に乗り、鞭による攻撃を始めるウシトラ。二頭牛は背中からウシト
ラを振り落とそうと体をゆするが足場となる兎が上手くバランスを取って
おり一向に落ちる気配はない。

『人間ごときが我らの手を煩わせるな!!』
『仕方がない。先に下の人間どもから始末するか』
 二頭牛は動きを止めると、一方の首がサトシに、もう一方の首がタイヨ
ウに狙いを定める。

 それを見たサトシは、呪符を構えつついつでも逃げ出せる体制をとるが、
タイヨウはいまだ動けずにいた。

「おい、タイヨウ!!」
 たまらず叫ぶサトシだったが、タイヨウには届かない。そうする間にも
息を吸い込んだ二頭牛は、それぞれサトシとタイヨウに向けて炎と雷の息を
放つのであった。

 放たれる雷の息、タイヨウは自分に向かいくるその攻撃を前に相変わらず
思考を続けていた。
 


 僕のせいでみんなの策を狂わせてしまった。ほら、今だってサトシは僕の
ために叫んでいる。自分のことを気にしていればいいのに僕がこんな風だ
から迷惑をかけてしまっている。ウシトラだってそうだ。僕が盾をやれて
いればもっと安全に二頭牛の背中に回り込めたはず。みんな頑張っている、
それなのに僕はその輪を乱してしまっている。僕がいなければ、僕のせい
で。

 向かいくる攻撃がタイヨウの視界に入る。
 そうか、このまま死んでしまえば皆に迷惑をかけず、に……!?

 タイヨウめがけ放たれた雷撃、けれどもそれはタイヨウに届く前に阻ま
れる。


「はあ、はあ、なんとか間に合ったぜえ」
 現れたのはウシトラ。二頭牛の背中から兎の跳躍で飛び降りてタイヨウ
に迫る雷撃との間に滑り込み兎を盾に攻撃を防いだのであった。

「悪いなあ、兎ぃ。戻ってゆっくり休んでてくれえ」
 雷の直撃を受け黒兎となった脱兎であったが、ウシトラが召喚を解除し
霧散する。

「ウシトラさん、どうして」
「そんなもん、おめえがピンチだったからに決まっているだろお」
「でも……」
「おーい。タイヨウ無事か?」
 ウシトラに助けられ困惑するタイヨウの前に、呪符により二頭牛からの
攻撃を相殺したサトシが駆けつける。

「おう、タイヨウならあ、大丈夫だぜえ。けど代わりに俺様の兎ぃがのさ
れちまったけどなあ」
「そうか、でもよかった」
「よくありません!!」
 安心するサトシとウシトラであったが、その二人になぜかタイヨウは詰
め寄る。

「ウシトラさん!! 今、二頭牛を倒す絶好のチャンスだったじゃないです
か。それをどうして降りてきちゃうんですか。サトシさんもそうですよ!!
HP1しかないんですよ? それなのに僕の心配なんかしてないでください!!」
「お、おい。タイヨウぅ」
「何ですか、ウシトラさん!!」
 突如、どなられたまらず声を上げるウシトラであったがそれすらもタイ
ヨウの腱膜に押し戻されてしまう。

「どうして助けたんですか、どうして僕なんかを……僕なんて、僕なんて。
僕に生きている価値なんてないのに!!」
 突如涙ぐむタイヨウ。どうやら精神的にも不安定である様子。今まで無
理をしてためてきた感情がタイヨウの口から堰を切るように溢れ出してい
た。
  
「それは違うだろ」
 タイヨウの目の前に立つサトシ。タイヨウが顔を上げるとサトシと目が
合う。サトシはしっかりとタイヨウの目を見つめながら両手をタイヨウの
肩に置く。


「どうしてそんな卑屈になるのか、オレには分からないけどさ。価値の無
い人間なんてこの世にはいないと思うんだ。現にタイヨウが助けてくれた
からオレはここにいる。だから少なくともオレの命の価値分ぐらいはタイ
ヨウにだってあるんだぜ。だから、タイヨウがオレを助けてくれたように
オレやウシトラだってタイヨウを助ける。犠牲にしていい命なんてないか
らな」
「……」
 サトシの言葉に押し黙るタイヨウであったが、彼が紡ぐ言葉を考える間
にも二頭牛との戦いは続いていた。


『ブルブル、我らを相手に背を向けるとはなめられたものだ』
『文字通り一息に葬り去ってやろう』

 右の首は雷を、左の首は炎を。二つの息が合わさって、大きな球となる。

『『合成奥義 火葬行列エレクトリカル・パレード』』

 威力は通常の息の1.5倍。普通に放った方が強いんじゃないかという突っ
込みはさておき二頭牛最強の一撃がサトシ達めがけ放たれたのであった。

     

**

 二頭牛からの攻撃がサトシ達へと迫る。




「来い、ケルベロスう!!」
 そのまま行けば直撃するであろう二頭牛からの攻撃。それをウシトラは
召喚したケルベロスを盾にすることで回避する。

「くそお、ひでえ威力だあ」
 跪くケルベロス。ウシトラはケルベロスの召喚を解除する。

「盾に使っちまって悪かったなケルベロスう……すまねえが、これでオレは
召喚できるモンスターがいなくなっちまったあ」
「いや、守ってくれてありがとな。ここからはオレがアタッカーとして動
くぜ。タイヨウは気持ちの整理がつくまで少しの間休んでてくれ」
「……僕も、行きます」
 タイヨウが一歩前へ出る。

「大丈夫か? 無理するなよ」
「……大丈夫です。あと、この戦いが終わったら皆さんに話たいことがあ
ります。聞いてください」
「……そういうのは戦いの後まで大丈夫なやつが言うセリフじゃない気が
するが、まあいいか」
 タイヨウの隣に並び立つサトシ。二人して二頭牛の下へと突っ込んでい
く。

「ブレス攻撃が来ます。サトシさんは僕の後ろに」
「おう」

 炎と雷二方向からくるブレス攻撃をタイヨウは両手に装備する盾でいな
す。

「サトシさん、お願いします」
「まかせろ」
 駆け出すサトシ。二頭牛の側面へと回り込んでいった。










「いやあ、勝ててよかったな」
「本当ですね」
「くそお、剣振りすぎてもう手が動かねえよ」



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ノーサイド:サトシが頑張り二頭牛を倒したわけであるが、あまりにも地
味な戦いなのでカットいたしました。
サトシ  :誰に何を言ってるんだ、お前?
ノーサイド:こちらごとですので気にしないでください。

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 無事、アイテム「エリクシル」をゲットした三人。一路、「流転の衣」
と交換してもらうべくリバーズダウンを目指すのであったが、

「そういえばタイヨウ。話したいことってなんだったんだ?」

 サトシは立ち止まりタイヨウの方を向く。つられてウシトラも立ち止ま
る。

「そうですね、今言っておかないと言える自信もないですし。話しておき
ます」

 タイヨウはうつむきながら話し出す。




「サトシさんには僕のことについて多少は説明しましたよね。でも、あれ
ほとんど嘘なんですよ」
「はあ!? うそって、おまえ……まあ、いいや。とにかくどこが嘘なんだ?」
「僕高校生って言いましたけど、あれ嘘なんです。僕、実は中学生のころ
からひきこもりで、フリースクールに通っていたこともあったんだけど、
どうしても人間関係をうまく作れなくて……と言っても別にいじめられて
たわけじゃないんだよ? でも、なんか人と壁を作っちゃうというか……
そういうわけで高校にも通ってなくて」

 タイヨウの表情は暗い。サトシはそんなタイヨウの話を聞き声をかけよ
うとするが、ウシトラがそこに割って入る。

「ああ? 話聞いてるとお、今あ、目の前にいるタイヨウとずいぶん印象が
違う気がするけどなあ。おめえと話していて、違和感感じたことなんかね
えしなあ」
「それは、これがゲームの中だからですよ。RPってわかりますかね? ゲー
ムの世界で特定のキャラクターになりきって行動する事なんですけど。
ここがゲームの中の世界だと思うと習慣というか、自然と自分の中の勇者
像になりきってしまうんですね。それで、元の性格が臆病者な性でそのこ
とを言い出せず、今まで来てしまったんですが……やはり、ああいった危
険な場面でさっきみたいな状態になったら皆さんにも迷惑をかけてしまい
ますし、今話しておいた方がいいかと思いお話ししました」

 タイヨウの話が終わり、しばしの沈黙。サトシが話し出す。
「うん、わかった。でも、別にオレは今までと接し方を変えなくてもいいん
だよな?」
「えっ、はい。むしろ今まで通り話してくれた方がこちらとしてもうれし
いです」

「ならいいよ。勇者になりきっていたからと言ってタイヨウがオレを助け
てくれたという事実は変わらないしな。ただ、無理だけはするなよ。頼り
ないオレだけど、頼れるときは頼ってくれればいいんだからな」
「サトシさん……はい!! ありがとうございます」

「俺様は別におめえの性格とか元から説明されてないから今の状況も実は
いまいちよくわかってないけど、とりあえずおめえらには助けられたから
なあ。恩を返すまでは行動を共にさせてもらうぜえ」
「はい、ウシトラさん。よろしくお願いします」

 秘密を打ち明けたタイヨウ、それを受け入れたサトシ、ウシトラ。絆を
確かめ合った三人は改めてエリクシルを届けるべくリバーズダウンを目指
すのであった。






















~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ノーサイド:タイヨウさん……あのことは言わなくてもよかったんですか?
タイヨウ :言えませんよ。だってそのことを言ったら……


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第一章完 
第二章へ続く

       

表紙

滝杉こげお 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha