Neetel Inside ニートノベル
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『欠』能力者バトル
第一章 第一話『ディスアビリティ』

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「……」
 いったい何があった? オレの身に何が起きた? オレは……生きてるの
か?

「くっそ、あったま痛ぇ」
 周りを見回すオレ。辺りは地平線まで広がる草原。そんな中オレの周り
だけはまるで隕石でも落ちたかのように草がはげ土が見えている。ああ、
段々思い出してきた。ノーサイドと話していたら突然辺りが青色に変わっ
てまるで空を急降下しているみたいな感覚がしたと思ったら下に緑が見え
てきてそして……。

「……」
 つまり、オレは今ノーサイドの言っていたゲームの中に入った、という
か落ちてきたということか? オレは考えながら立ち上がる。体を持ち上
げるためについた手、そして立つために軽く力を入れた足には確かに、土
に触った感触が、地面に立った感触がある。
 少し歩いてみる。一面に広がる緑の地面へと足を踏み出す。するとサク
ッと芝生を踏みしめたときのあの芝生同士がこすれあう音。視線を上げれ
ば青い空とところどころに浮かぶ白い雲。それがゆっくりと流れていく。
頬にあたる感触、それは風そのもの。風に揺られ草原は大きく波打つ。ふ
と心地よいそよ風の中で生暖かい空気が肌にあたるのを感じる。当たって
いるのは首筋辺り。何気なく振り返ってみる。目の前に飛び込んできたの
はそれはそれは巨大なミミズ。

Encount:Ground Worm

「おお、まじか」
 我ながら感想がひどい。怪物が目の前に現れて、その第一声が『まじか』
って……

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA』
 響く怒号、揺れる地面にオレは思わず走り出す。
 なんなんだよ、いきなり目の前に怪物って。これがノーサイドの言うよ
うにゲームの中の世界だとしたらこんなん不親切設定すぎるだろ!? 操作
も何もわかんねえっつうのに、踏みつぶされて終わりとかシャレにならね
え。感覚が現実とリンクしてるって言ってたよなあ。じゃあこれ、死んだ
らやっぱり現実のオレも死んじまうんだよな?

 オレは走りながら対抗策を考えるがろくなものが思いつかないでいた。


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ノーサイド:サトシさーん。大丈夫ですかー?

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 突如、脳に響くノーサイドの声。何か脳に直接語りかけられているよう
で気持ち悪い気がする。そして、その声の主がノーサイドだと思うとなお
さらである。


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ノーサイド:無視ですか? 無視するんですね? サポート打ち切っちゃい
ますよ?

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 うぜーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
こっちは、応答するどころじゃねえっつうの。サポートするなら勝手にや
ってくれ。こんなことを考えている間にも怪物はオレを追ってきており、
ついには怪物から伸びる影がオレをとらえていたのであった。

「いいから、はやくなんとかしてくれ!!」
 肺に残るわずかな空気をすべて吐き出し、オレは全力でどこにいるとも
しれないノーサイドに向けて言い放つ。


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ノーサイド:えっ、今何か言いました?

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 言ったよ、チクショウ。ぜってえ聞こえてるんだろ? くそ、ほんとにも
う体力が……

「あっ」
 宙に舞うオレの体。どうやら道に突き出た石に躓いたようだ……って、
何だこれ、時間がゆっくり? 走馬灯!? やべ、死ぬ。死ぬって。


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ノーサイド:サトシさん、落ち着いてください。

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 ?

 なんだ? 時間がゆっくり流れている、というよりもあたりの景色が完全
に止まっている。


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ノーサイド:おっ、ようやく落ち着いたようですね。では、さっそくチュ
ートリアルを開始します。

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 ……チュートリアル? オレは、助かった、のか? 少しずつ冷静さを取
り戻してきたオレは辺りの状況を確認しようと頭を動かそうとする、が。


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サトシ  :体が、動かねえ。
サトシ  :って、なんだこれ。
ノーサイド:何だこれ、って。チュートリアルを始めるにあたってゲーム
内の時間を止めているだけですよ。
サトシ  :はあ?

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 ああ、もう。ノーサイドの言ってることは理解できるが、実際体験して
みると頭の混乱が収まらねえ。とりあえず、落ち着け、思考しろ。


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ノーサイド:チュートリアル1 『操作方法を覚えましょう』
サトシ  :勝手に進めんな!!
ノーサイド:……そうは言われましても、進行役の私が話を進めなくては
サトシさん、その滑空状態のまま1ミリも動けませんよ。

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 だめだ、奴のペースで話が進んでいく……そうか、ここはゲームの中の
世界。そしてチュートリアルと言えば、ただ画面に表示される説明にただ
従って動いていく段階だ。要するに、ノーサイドに従うのは癪だが、そう
しないとゲームが進まないわけだ……つくづく気に障るシステムだな。仕
方ない。

 オレは覚悟を決める。


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サトシ  :まだゲームの中に閉じ込められたこと自体納得してねえが、
チュートリアルとやら、やるならさっさとはじめてくれ。


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 そしてできることなら、この恥ずかしい姿勢を早く解かしてくれ。

     

**

Area STAGE 0

「うわっ」
 突然の脱力。オレは宙に浮いていた。


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ノーサイド:操作説明開始です。
サトシ  :って、また空から!?
ノーサイド:安心してください。前回の落下時はダメージが反映されない
設定でしたが今回はきっちりダメージ受けるようになってますので。
サトシ  :それなら安心……って、駄目じゃねえかっ!!

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 上空何メートルとか、そんなんはわかんねえけど少なくとも雲よりも上
から落ちてきてるし、一般常識で言えばこの高さから地面にたたきつけら
れれば、もれなく死ねる。


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ノーサイド:では、まず基本操作から。
サトシ  :ちょっ、マイペース!? グングン落ちて言っているんですけど!!
ノーサイド:ごめんなさい、ちょっと風切り音で何言ってるか…
サトシ  :だったら、この状況何とかして!!

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 落ちる、落ちる、落ちる!! この速さで落ちれば30秒後にはもうお陀仏
だろう。いやだぞ、こんな死に方。体を動かそうとするも風圧で可動域一
杯にまで押し込まれたレの関節は、オレの筋力程度ではびくともせずあが
くことすらできない。段々と息も苦しくなってくる。そして、目下に広が
る地面もだんだんと近づいてきている。



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サトシ  :ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

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 迫る、迫る、迫る!!
―パチン


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ノーサイド:お疲れ様でした、移動完了です。
サトシ  :ぎゃーーーー……ああ?

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 体への圧力が消え、周りの景色が止まる。眼下に迫る大地は木製の床に、
後方へと過ぎ去っていく青空は頑として動かしえない石壁に、天を仰げば
そこにあるはずだった太陽は隠され、代わりに人工的な蛍光灯の光がオレ
の周りを薄明るく照らしていた……間違いなくノーサイドの仕業であろう。
当のノーサイドは相変わらず姿を見せず、声だけオレの頭の中へと垂れ流
しているのであった。


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ノーサイド:では、ステータスウィンドウの開き方からお教……
サトシ  :うおおおおおおおい!!
ノーサイド:サトシさん、風になって興奮気味なのはわかりますが、はた
から見る限り完全な不審者ですよ?
サトシ  :うるせえ!! というかお前にだけは不審者呼ばわりされる筋
合いはねえ!!
ノーサイド:お気づきかとは思いますが頭上右側に白くて丸いアイコンが
あるのはわかりますね。では、それを触れてみてください。
サトシ  :……。

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 もう、疲れた。落下、巨大な虫との遭遇、そしてまた落下。精神的にも
声帯的にも限界が来ていた。

 ノーサイドの言うように確かにオレの頭上、右側には空中に浮かびオレ
と一定の位置を保っている白い球が存在していた。右手を伸ばしそれに触
れる、と。

―ヴーン

 起動音のようなものが鳴った後に、オレの目の前には半透明の黒いボー
ド状の物が現れる。


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ノーサイド:それがメニュー画面です。アイテムの使用、装備の変更、ス
テータスの確認など、何か行動を起こす際には必要となる機能ですので
開き方を覚えておいてください。
サトシ  :……。
ノーサイド:では、順番にメニュー画面でできることを確認していきまし
ょう。

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 オレの返事を待たずノーサイドの説明は続いていく。アイテムの使用、
装備の変更の仕方を教わった後、ノーサイドからメッセージ機能を利用し
文章と同時に送られてきたアイテムを開封。その中に入っていた

ロングソード[Long Sword]
木製鎧[Wood Armor]
とんがり帽子[Pointy Hat]

を装備。他に回復薬、毒消しが一つずつ、後は呪符パックと書かれたアイ
テムが送られてくる。



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ノーサイド:配布アイテムはメニュー画面のアイテムから使用可能です。
では実際に『呪符パック』と書かれたアイテムを使ってみてください。
サトシ  :……ああ。

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メニュー → アイテム → 呪符パック → 使用 → はい

 何を言っても無駄だろう。オレは抵抗をやめ、ノーサイドに言われた手
順で呪符パックを使用する。

Get:
劣化烈火[Infernity Inferno] × ∞
不倒業0[Split Spirit 0]     × 1


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ノーサイド:さあ、これでようやくメニュー説明は最後。では、今手に入
れた呪符の使い方を説明します。[Split Spirit]を使用してみましょう。

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メニュー → 呪符 → 不倒業0[Split Spirit 0] → はい

 呪符の使用と同時にオレの体が光のエフェクトで包まれる。眩む視界、
だがその光もすぐに消え失せ再び褐色の石壁が目の前に現れる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ノーサイド:今使用した呪符にはHPが0以下になる被ダメージ時、一度だ
けそのダメージを無効にしHPを1にするという効果があります。要するに
ピンチの時の保険ですね。またHPが低いほど威力が上がる武器、呪符と
組み合わせて使用する場合もあります。では、一通り通常時の説明が終
わったのでいよいよお待ちかねのバトルに移行します。
サトシ  :……。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 …………………………うぉおーーーーしゃあ、これでチュートリアルが
終わりならもう、こんな理不尽な思いしなくて済むはず。後は地道にモン
スター狩って、レベル上げて、装備を整えて、ボス倒してクリアだー!!


 と、まあ、もちろんそんなに甘い展開なわけがなく、この後オレはさら
に理不尽な展開に巻き込まれることになっていく。




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