Neetel Inside ニートノベル
表紙

『欠』能力者バトル
第二話 『出会い』

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Encount:Ground Worm

 視界が揺らぎ、さっきのでかぶつミミズの前に飛ばされる。


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ノーサイド:では戦闘方法の説明に入ります。

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 前回までで一通りの操作を習得したオレはとうとう実践練習に入ること
になる。ノーサイドの話では、よほどのミスがない限り敵には勝利できる
ということであったが、彼の言うことを鵜呑みにできないことは前回まで
で学んでいる。練習だからと言って気を抜かず全力で倒す!!
―ガブッ


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GroundWorm:『GIGA Bite』
ノーサイド:モンスターは本体グラフィック全域に当たり判定があります
ので、通常攻撃の場合、モンスターに向け切り掛かるイメージで攻撃可能
です。では実際にやってみてください。
サトシ  :……。
damage 3
ノーサイド:どうされました? サトシさん。
サトシ  :……。
damage 3

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 ノーサイドから説明を受ける間にオレはモンスターに食われていた。肩
から上を丸呑みされた状態なので周りの様子はうかがえないがこの周りに
まとわりつく粘液はミミズの体液であろう。ミミズのよだれまみれになり
ながらオレはその場に立ち尽くしていた。


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ノーサイド:ああ、それはGround Wormの攻撃技の一つ、[捕食]ですね。
効果は相手を束縛状態にし、毎秒固定ダメージ3を与える。
サトシ  :説明いいからどうにかして!!
damage 3

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 まさかの解説を始めたノーサイドに救援を求めるオレ。肩から上を固定
されている状態のため上肢も自由に動かすことができず、脱出を試みて暴
れるが一向に束縛が緩む気配はない。そうして時間が経過するごとに体力
が消耗し、徐々に疲労が蓄積する。


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ノーサイド:束縛は状態異常の一種。時間経過により一定確率で解除され
ます。ただ、それを待たず自力で脱出するには、自由な下肢でGround Worm
の弱点である腹部への攻撃が有効です。
damage 3
サトシ  :この状態じゃ見えないんですけど。
ノーサイド:……そこは気合で。

HIT 2
HIT 3
damage 3
HIT 3
MISS
damage 3
HIT 1
HIT 4
damage 3
HIT 2
HIT 3
damage 3
MISS
HIT 4
damage 3
HIT 3

サトシ  :疲れた……、息できん……、死ぬ……。
damage 3
ノーサイド:ああ、もう。何やってるんですか。大体腹の位置なんて説明
しなくても分かってくださいよ。いったいどこ蹴ってるんですか?
サトシ  :そんなん知るかよ。蹴るたびにミミズのやろうが暴れあがっ
て、こちとらもう平衡感覚狂いっぱなしなんだよ。というか、気もちわr
ノーサイド:ちょっ、サトシさん!?

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『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA』
 辺りに響くGround Wormの叫び。それとともに体内から吐き出されたオレ
は地面に打ち付けられ、もんどりうって倒れる。


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サトシ  :……気持ち悪くなって、もどしちまった。でも、なんとか脱
出はできたぜ。
ノーサイド:Ground Wormさん……、ご愁傷様です。
サトシ  :うるせえ!! 元はと言えばあいつがオレを飲み込もうとしたの
が原因だろうが!! 自業自得だ、因果応報だ。
ノーサイド:むずかちいよじじゅくご、いっぱいちってまちゅね
サトシ  :赤ん坊扱いかよ!! ……つうか、さっきのでだいぶHP持ってか
れたみたいなんだが回復方法とかはないのか? この勢いだと次の一撃で
ぶっ倒されるぞ。

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 頭上に浮かぶHP表示に目を向けるオレ。すでにHPバーは真っ赤である。
一方、Ground Wormは、精神的ショックによる錯乱状態からようやく正気に
戻りサトシめがけ進行を再開した。


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ノーサイド:この世界での回復手段は、回復薬・呪符による効果、宿屋の
利用、非戦闘区域での時間経過等があります。戦闘時に行えるのは、回復
薬・呪符を使用し回復を行う手段ですね。私がメールでお渡ししたアイテ
ムの中に回復薬があったと思うのですが。


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メニュー → アイテム → 回復薬 → はい 『!!!ERROR!!!』


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サトシ  :なんでだよ!!

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 ノーサイドの言うとおりに回復薬を選択したオレであったが、エラー表
示。ふざけんな!! 今の操作、ミス挟む余地はなかったはず。つまりどう
考えても原因はノーサイドだろ!!


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ノーサイド:いやいやっ、今回は私じゃないですって。多分システム上の
問題だと思います。
サトシ  :バグってことか?
ノーサイド:そういうことじゃなくて……ああ、原因がわかりました。サ
トシさん、ステータス画面開いてもらっていいですか?
サトシ  :ああ。
GroundWorm:『Terror Tail』
damage 38
[Split Spirit 0]
HP=1
サトシ  :って、うおお!! 油断した!!

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 ミミズからの攻撃が直撃。オレはおもくそ吹き飛ばされる。『不倒業0』
が発動したためHPが1残るが、いきなり窮地に立たされたわけだ。


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ノーサイド:掛けててよかった『Split Spirit 0』! ちゃんと私からのプ
レゼント、役に立ちましたでしょ?
サトシ  :今はそれどころじゃねえだろ!?
ノーサイド:そんなサトシさんに、さらに悲しいお知らせ。さっきサトシ
さんの『欠能力(ディスアビリティ)』をこちらで確認させてもらったと
ころ『HPを回復できない』でした。
サトシ  :………………………まじで?

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 欠能力と言えばゲームの最初で説明された、『何かができなくなる』と
いうプレーヤー一人に付き一つ与えられる枷。そして、それがオレの場合
『HPを回復できない』であるという。そして今現在オレのHPは1。そこから
導き出されることは、つまりオレはもう一発も攻撃をもらうことが許され
ない。


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ノーサイド:ちなみにここでの死は、現実世界に反映されますので。
サトシ  :最悪のタイミングで説明ありがとう、チクショウ!!

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 ほんと泣けてくるぜ。なんだよ、死ぬって。ノーサイドのやつ、簡単に
言いやがるが、これ以上にない重要事項だろ!? まず最初に説明しろよ。
オレとノーサイドのやり取りの間にもミミズはどんどんオレとの間合いを
詰めてきていて、とうとうオレの体がさっきの攻撃の射程範囲に入る。


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ノーサイド:サトシさん、回避を!!
GroundWorm:『Terror Tail』
サトシ  :わかってるよ!!

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 相手の攻撃、その直前にはしっぽが上がる予備動作がある。それに合わ
せ前転したオレはミミズの懐に飛び込み、薙ぎ払うようにふるわれるしっ
ぽを回避する。攻撃をからぶったミミズはその反動で動きが止まる。すか
さずオレはバックステップでミミズから距離を取った。


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ノーサイド:何やってるんですか、サトシさん。今の攻撃するチャンスで
したよ。
サトシ  :できるか!!

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 こっちは一撃でも攻撃をもらえば死ぬんだぞ。攻撃よけるので精いっぱ
いだつうの……とはいっても、攻撃しないことには状況を打開できないこ
とは確かだ。オレの武器は手に握る剣のみ。これを投げて攻撃すれば、少
なくとも安全には攻撃できるだろうが、一撃しか放てず、かといって直接
切りつけに行ったんでは戦闘経験も何もないオレのことだ、何度かするう
ちにへまをやらかしやられてしまうだろう。幸い敵の攻撃にはすべて予備
動作が伴うため、距離を取ってさえいればつかまることはまずないだろう
が、それも集中力が続く間の話。気を抜けば一発だ。


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ノーサイド:だから攻撃しないと。
サトシ  :うるせえ!! 分かってるよ!!

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 だめだ、集中を途切れさせたらマジで死ぬ。剣を握る手に力が入る……
やるしかないか。オレは敵の動きを注視する。奴の攻撃パターンは今まで
出てきた中で2種類しかない。対象の上半身を飲み込むことで、溶解液によ
るダメージを与えるとともに、敵の動きを束縛する[捕食(GIGA Bite)]。
しっぽを地面にたたきつけて攻撃する[狂尾震震(Terror Tail)]。捕食の
方は使用後、硬直時間があるものの時間が短い。その一方、しっぽでの攻
撃は大きく体勢が崩れ、なおかつこちらに背中を見せる体勢となるため、
攻撃するならこの隙しかないだろう。ミミズが息を吸い込む。これは捕食
の予備動作。オレは即座に後ろに下がる、それと同時にミミズの頭がさっ
きまでオレがいたところの地面を穿つ。


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ノーサイド:今チャンスですって!!
サトシ  :うるせえっつってんだろ!!

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 次、やつがしっぽを振り上げたとき、それが勝負の時だ。

     

**
 
 巨体をくねらせ襲いくるミミズ。その威圧感はとてつもなく大きく、オ
レの足は自然と後ずさる。ミミズの顔が上がり大きく息を吸い込む、これ
じゃない。オレは側方に回避、ミミズの口が地をえぐる。こんなやつの攻
撃をさせて、奴に一太刀浴びせる……考えただけで恐ろしい。体も自然と
硬くなる。だが、やらなきゃやられるんだ。その恐怖がオレを前へと押し
やる。

「ミミズ野郎!! さっさとしっぽを、出しあがれ!!」
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA』

 もちろん言葉が通じるなんて思っていない。声をだし挑発したのはオレ
の気持ちの問題だ。恐怖して、縮こまってちゃ肝心な時に力は出せない。
敵を見据え、声を出すことで恐怖を、緊張を、吹き飛ばす。大声に驚いた
のか奇声を上げた後、土煙をあげながらミミズのしっぽが上がった。今こ
そすべてで迎え撃つ!!


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GroundWorm:『Terror Tail』

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 相手の技が発動、今だ。オレは側方へ跳躍、振り下ろされるしっぽを大
きくかわす。時間がないんだ、本当だったらすぐにとびかかれるよう最小
限でかわす方がいいんだろうが、攻撃がかすっても即死なこの状況。保険
は大目にかけておいて損はないだろう、死んだら元も子もないんだ。オレ
は飛び退いた分含め、ミミズに駆け寄りながら両手で剣をしっかり握り頭
の上まで振り上げる。

「おらあああああああ!!」

 ミミズは目の前、しかも背を向けている。オレはその背に向けて剣を振
り下ろす。

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HIT38

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 一撃、当てた。確かな手ごたえ、ミミズからピンクの液が噴き出る。歓
喜。回避を……


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GroundWorm:『Transit Acid』
サトシ  :えっ……

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 このタイミングで攻撃!? 何だよそれ、よけきれねえ……

    剣で防ぐ     横に跳べば      死ぬ

来るな       何とか回避を   死んだ    なんで

     恐怖   攻撃          やめろ

   オレが    動け    ミミズ        助けて

      アイテム       やだ

  回復できない               呪符

       考えろ        近い

    走れ       ノーサイド

                       死

         HP      
  
                 動かない

     やめてくれ   
               
              怖い

  死ぬ?             こんな

          ダメ    
            

























「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」








 








 暗転する視界の中でオレは空を舞う男の姿を見た。

     

**

「危ない!!」

 吹き飛ばされる体、土の上を滑る音、オレの上に何かが覆いかぶさる。
とっさに目をつぶると金属同士がすれる音、オレの体に重さが加わり、
『それ』は地面に倒れるオレを押しつぶした。

「痛っ、重っ」
 後頭部に走る痛み……って、今どうなった? 状況は……、オレは目を
開ける。視界に最初に映ったのは人間の顔。まったく見覚えがない男の顔
であった。

「よかった、間に合ったようですね」
 男は明るく笑うと倒れているオレに対し手を差し出した。その手を取り
立ち上がりながらオレは目の前にミミズがいることを確認。突如現れた男
に混乱は収まらないが、彼について考えるよりも、ミミズを倒す方が先決
だ。剣を構えなおしながら考えを巡らせるオレを見て、男が口を開く。

「勝手に飛び出してきてごめんなさいね。でも、ピンチっぽかったから助
けに入っちゃいました」
「いや、ありがとう。おかげで助かった。あんたが助けてくれなかったら
死んでたところだ」
「そうですか? なら、いいです。じゃあ、このままミミズ退治手伝わせて
もらってもいいですかね?」
「あ、ああ。でも、いいのか?」
「はい、困ったときはお互い様ですから」
「そうか……って、おい、後ろ!!」
 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
GroundWorm:『Terror Tail』

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「っ、あぶなかった」
 オレの声で振り向いた男。両手に持った二つの盾で間一髪、敵からの攻
撃を受け止める。ミミズはしっぽ攻撃の後、硬直する。よし、今がチャン
スだ!!



「てか、なんで両手に盾装備してんだよ!!」
 ……いかん、空気読めてなかった。絶対ここ、つっこむタイミングじゃ
ない。

「初期装備がこれだったんですよ」
「ああ……そうですか」
 男は普通に答えてくれた。やだっ、この人優しい。



「僕がこのままミミズ押さえておくんで、攻撃お願いします」
「ああ」
 ミミズの巨体、当然一人の力では押し負ける。盾の人、頑張って。オレ
はその横をすり抜けてミミズの後ろを取る。


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Hit30

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『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA』
背後からの強襲。ミミズは悲鳴を上げ大きくのけぞる。手ごたえはあっ
た。もう一撃入れば……

「ナイスです。おそらくミミズの攻撃対象があなたになっているので一旦
離れてください。僕が注意を引きます」
 男からの指示。ここは従った方がいいだろう。

「わかった」
 オレはミミズの方を向いたまま後ずさる。一方、盾男は逆にミミズの方
へ走りよる。


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HIT2

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 盾男は走り寄った勢いそのままにミミズに突進。盾を前にぶちかますが
効果はミミズの反応から見るに効果は薄い。さらに盾男からの攻撃により
ミミズが動き出す ―― ガキンッ

 男の構えた盾にミミズが突っ込む。金属音が辺りに響き、盾男が吹き飛
ばされる。
「僕は大丈夫です、それよりも早くミミズの死角に」
 駆け寄ろうとするオレを制し、盾男が声を出す。盾男の声がオレの思考
を正常に戻した。そうだ、焦っちゃいけない。すでにオレのHPは1。一
発もらえば死ねる計算だ。一方盾男は何度か攻撃を食らってはいるものの
見た目にたがわぬ防御力で敵からのダメージを最小限に抑え戦っている。
今オレができること、それはミミズのすきを突き攻撃することだ。そのた
めには焦ってはいけない。まずは移動、ミミズの背後へ。できる限り姿勢
を落とし、音を殺し、剣を構え、息をひそめ、隙を窺い、走り寄り……

 突き立てる!!


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CRITICAL 82
BREAK:GroundWorm
EXP:33
GET:???

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 目の前を舞う光の球体。これはモンスター死亡時のエフェクトか? そ
してその光越しに盾男の姿が現れる。

「おめでとうございます」
「お、おう。いや、それよりもさっきは助けてもらってありがとう。危う
く死ぬところだった」
 突如、見知らぬゲーム世界に飛ばされたオレには、盾男の笑顔は優しく、
いままで張りつめ縮みきったオレの心をほぐしていくのであった。

     

**

「僕、来杜 大洋(らいと たいよう)って言います、サトシさんと同じ18
です」
 盾男、もといオレの命の恩人。彼もこのゲームには突然連れてこられた
という。けれども状況はオレと異なり公園で彼女との待ち合わせの最中、
気づいたらここにいたそうだ。話を聞いた中でオレとの共通点を挙げると
すれば、

・男であること
・18歳であること
・公立に通う高校生であること
・連れ去られたときの服装が学生服であったこと
・家族構成(父、母、弟2人)
・連れ去られたときに誰かと会う約束をしていたこと
・連れ去られてからゲーム開始までの記憶が飛んでいること
・連れ去られた日が2014年であること(日付はサトシ8月3日 タイヨウ8月
14日)
・帰宅部であること
・好きなアイドルが小野軒 譜杏(おののき ふあん)であること(←二人
で熱く語り合った)
・日本人であること(サトシは首都の某所、タイヨウは某片田舎育ち)

 まあ、このぐらいか。もちろんタイヨウ(←話すうちにこう呼ぶように
なった)が嘘をついている可能性もある。また、本人はそのつもりがなく
とも勘違いということもあるから一概に情報が正しいものだとは言えない
が、こんなしょうもない嘘をついても仕方がないだろうし、ほかに情報も
ない。つまりはタイヨウの言葉を信じるしかないわけだ。それに、タイヨ
ウはオレの命の恩人だ。心理的にも疑うことはしたくない。

「でも、これだけじゃどうしてオレ達がここに連れてこられたか、とかは
分からねえな」
「そうですね。別に何か悪いことした覚えもないですし、サトシさんもそ
うですよね」
「ああ。まあ、そうだな」
 人間だれしも生きていれば多少、悪事を犯してしまうものだ。けれどこ
のように不当に監禁されてしかるべき行為をした覚えはない。タイヨウだ
って受けた印象からすれば善良な部類に入る人間だろう。……本当ならこ
こに連れてこられた理由をノーサイドから聞ければいいんだが、何度聞い
てもはぐらかされるんだよな。今はタイヨウのサポートであるスーサイド
と言う女と話しているようであるが、別段オレとタイヨウの会話を規制し
ないところから見るに、ここに連れてこられた事情を詮索することは自由
なのであろう。

「考える材料が足りないな。一つ気になることがあるとすればオレとタイ
ヨウで連れ去られた日付が11日ずれていることか」
「そうですよね。サトシさんの話ではゲームが始まってから数時間ほどし
か経っていないということですし、僕自身も同じぐらいだと感じています。
なのでゲームが開始した時間は同じだと思うのですけれどそうなると11日、
ともすればそれ以上サトシさんはどこにいたのか、という話ですよね」
「こんなゲームを作れる団体だ。オレ達が考えている以上のこともできる
かもしれない。たとえば記憶操作とか、タイムスリップとか」
「時間の操作っていうのはさすがに信じられませんが、確かに記憶操作ぐ
らいならやってきてもおかしくはないです……よね。ただそれにしても、
記憶のつなぎ目がきれいすぎる気もしますが。忘れているっていう感覚も
ないですもんね」

 その後も、いろいろ二人で考えを巡らせるが結局結論は出ないまま、時
間だけが過ぎていった。




「ああ、もう。やめだ、やめ。どうせこれだけの情報量じゃ推理なんて出
来ねえよ」
「そうですね。これだけ大規模なゲームですからほかにもプレーヤーはい
そうですし。この話は情報が集まってからにしましょうか」
 ミミズ撃破から一時間。ゲームに入ってからは3時間ほどになるだろうか。
時計が確認できないため正確な時間はつかめないが、空のグラフィックが
赤く染まりだしている。現実世界と空の景色がリンクしているのだとした
ら時刻は4時過ぎぐらいか。

「そろそろ暗くなってきそうだな」
「確かに、暗い中ではさっきみたいなモンスターに襲われたとき対処でき
ないですもんね。それにスーサイドさんの話によると夜は昼間に比べ強い
モンスターが出現しやすいそうです。ですけど幸い一時間ぐらいでつける
距離に街が出現しているみたいですよ」
「街が……出現?」
「ああ、この世界では街が移動するみたいなんですよね。36時間ごとに座
標移動が行われ、移動元の街と移動先の場所は街が移動する前後10分は進
入禁止エリアとなるみたいです。それで今ちょうど街が北西の方向に出現
したみたいなんですよ」
「……さっきのモンスターの話もそうだけどなんでタイヨウはそんなにゲ
ームのこと詳しいんだ?」
「えっ、詳しいというかヘルプを読んだだけですよ」




メニュー → その他 → ヘルプ

 タイヨウに教えてもらいメニュー画面からヘルプを呼び出す。
「……本当だ」
 確かに開始して3時間たつのにメニューの確認もしてないオレが悪いの
かも知れないが、ノーサイド……それぐらいは教えてほしかった。

「まあ、確認は移動中でもできますしとりあえず街に向けて移動開始しま
しょうか。1時間はかかるわけですしそろそろいかないと暗くなる前につ
かなくなってしまいますから」
「ああ、そうだな」
「地図の見方分かります? これもメニューから行けるんですけど」
「悪いがわからん……」

 その後もタイヨウからいろいろ教えてもらいながらオレ達は街を目指す
のであった。

       

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Neetsha