Neetel Inside 文芸新都
表紙

クロカミとヤマガミ
そして確信へ

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 翌朝。俺はまだ本調子じゃないと家族に告げ、朝飯だけ食べるとベッドに戻っていた。
 そして皆が出払った頃を見計らって、昼前から支度をする。
 本来なら学校に行くべきだが、今はそれどころでないほど確かめたいことがあった。
 ──黒髪の少女。彼女は何者なのか。
 彼女は俺が一度死んだといったり、あの大樹の前で佇んだり。
 そして更には夢の中にまで出てきた。記憶の中に深く刻まれる、不確定な存在。
 それの正体を確かめないことには俺の日常は戻ってこない、そう感じていた。

 履き慣れたスニーカーを履くと、扉を空けて例の公園へと駆け出していた。空は若干陰っているが降ってはいなそうだ。天気予報も雨が降るとしたら夕方だと言っていた。今なら大丈夫だろう。
 絶対にあの場所にいるなんて限らないのに、何故かいるような気がして。逸る気持ちで走ったからか、公園にはすぐに付いた。
 目の前の石段を見上げ、全ての元凶と対峙する場面へと向かう覚悟で進もうとした時だ。
 昨日や夜は気づかなかったけど、石段の横の壁には奇妙な印があった。
 意味のありそうな記号に、文字のような図形。術式の一種だろうか。無意識に指でなぞりながら考えていた。
「……」
 いかん、つい無言でまじまじと見てしまった。こんな様子を人から見られたら、おかしな奴だと思われるだろう。
 昨日の夢のせいだ、魔法とか意識しすぎだな。
 気を取り直して、俺は石段を駆け上がった。

 ◆

「いない……か」
 そう上手く会えるわけがない。石段を上がってすぐに少女の姿を探したが、いないようだった。
 最近は子供が公園も遊びにくい場所になってると聞く。
 遊具の側に人の姿はなく、哀しそうにブランコが風で少し揺れていた。
 しまったな、ちょっと冷静じゃなかったかもな。時間帯も違う時に、同じ場所で約束もなく会えると思うなんてどうかしていた。
「しょうがないな、今からでも学校に行くか」
 衝動だけで動いていた照れ隠しのようにそう呟いて石段に足を向けた時だった。
 いた──あの黒髪の少女だ。
 遊具があるわけでもなく、そこに続く道があるわけでもない。公園が山の上にあるために、高いところから落ちないように張られている水色のフェンスの前に佇んでいた。
 なぜそんなところにいるのか、そうは思いつつも偶然会えたことに驚きを感じていた。
「あ……」
 すぐに声を掛けようと思ったのだが、少女の名前を知らない。だから言葉につまってしまった。
「お兄さん、こんなところでどうしたの?」
 それを知ってか知らずか、不意に少女のほうから声が掛かる。その言葉で、少し我に返る。
「ああ、いやまた会った……ね? えーと、君の名前を教えて欲しいんだけど……」
 飛び出した文節は滅茶苦茶で、これじゃ挙動不審だ。不審者で通報されてもおかしくない。ちょっと怪訝そうな顔をした彼女は言った。
「それならお兄さんの名前が先じゃない?」
「ああ、俺はサクライキョウ。君は?」
「……教えない」
 その答えは卑怯だろ。
「いやいやそれは」
「教えない」
 またか。あの会話にならない会話を思い出す。
 しかし意地悪そうに言うでもなく淡々と言う彼女を見ていると、何か理由がありそうな気がしてきた。
「何か理由があるのか?」
「…………ない、けど好きに呼んで」
「そ、そうか」
 どうも調子が狂う、こんな年端もいかない少女相手に。
「そう言われるとなぁ、じゃあ好きに呼ぶけど」
「どうぞ」
 反撃とばかりに意地悪そうに言ったんだが、意に介さないかのようにそれを承諾。
 あっさりと返されてしまった俺は呼び名なんて決めてなかったんだが、妙案はすぐに思いついた。
「じゃあ、クロカミ。クロカミって呼ぶぞ」
「どうぞ」
 黒髪の少女は、この瞬間からクロカミと呼ぶ存在に変わった。苗字らしい呼び名だし違和感ないと思うんだ。
「よし、じゃあクロカミ、昨日のことを教えてくれるか?」
「何のこと?」
「いやさ、俺が……一度死んだとか何とか」
 声に出していうと恥ずかしいな、ますます頭がおかしいやつのようだ。見ると少女の顔もますます不審者を見る顔になってる。
「……何のこと?」
「いやいや、だから俺が一度死んだとか言ったじゃないか」
「んー……」
 改めて問いただしても、思い出すかのようにちょっと首をかしげて唸ってしまった。
 こいつ、いやこのクロカミ、とぼける気か?確かに昨日言ったよな。
「いやさ、君が言ったんだから。間違いないよ」
 俺がハッキリと言うと、彼女はああ、という具合にこう言った。

「それ、言ったのは私じゃないけど私のことだと思う」


       

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