わたしの冒険はもう終わり。
白の部屋 第10話
「色彩の思い出」
目覚めたときには、わたしは教会の一番前のベンチで、
ふたつのぬいぐるみと座っていた。
仰々しく、お祈りするみたいに指を組んで、
喋る気もないのに自動的に唇が動き出す。
力が入らないのに指が力強く握られる。
ああ、かみさま、
わたし病気なんですって。
とっても大きな病気なんですって。
でも、手術をすればなおるって。
よく分からないけれど、「ごぶごぶ」で治るんですって。
ここで、大きくため息をついた。
わたし、まだ、
沢山やりたいことあるんです。
この子達と、まだ出かけたいところがあって…
経験したいことも…
あの、恋、してみたいな、素敵な人と手を繋いだり結婚したりするの。
そのときは、この子達ももちろん一緒で…
私の身体は冷たく沈んだこころと裏腹に、
羽のように軽く、暖かさを増してゆく。
だから、まだ、
わたしは、
ここで、ふわりと花の香りが、甘い香りが漂ってくる。
私はまるで、一時停止をされたように止められる。
二つの人形は、私の隣でいつの間にか見たことのある妖精に変わっていた。
「おねがいかみさま、あたいたちまだルリコといっしょにいたいの」
「すこしだけ、力を貸してください。
ルリコと話すちからを。」
「1時間だけでいいの、そしたらあたいたち、
もう一生心を持つことも、話すこともできなくたっていいから。」
その瞬間に、たくさんの光が私を包んで、
わたしは、こころが変わるのを感じた。
なぜならすべて思い出したから。
そうか、私の名前はルリコだった、
彼わたしの誕生日にやって来て、
彼女はクリスマスにやって来た。
一緒に様々なところをまわって、たくさんの思い出を一緒に過ごしてきた。
ああ、なんで今まで分からなかったんだろう!
わたしは右を見てみると、
ばっちーがニヤリと笑った。
わたしが左を見てみると、
ロゼがニコリと笑った。
2人と手をしっかりと繋ぐ。
もう大丈夫、私2人と一緒にいるよ。
その時に、空から光が降りてきて、
わたしもばっちーもロゼも、
真っ白になった。
白の部屋
色彩の思い出
白の部屋 第10話
「色彩の思い出」
「ねぇ、なんで邪魔するのエンサー。」
真っ黒な、枯れた木の枝の上、
エンサーと呼ばれていた彼は、
信じられないほどに鋭い目つきで
エンサーと呼ばれた彼女を睨みます。
枝に腰掛ける彼女は、くすくす笑いながら、
それは愉快そうにしています。
「だってあの子にカンセルを取られたくなかったんだもの。」
妖艶さすら感じる蠱惑的な笑顔が
さらにエンサー…いいえ、カンセルを苛立たせます。
「あの人形たちがカンセルを知っていたからぼくの名前を使ったんでしょ?
それにそこそこ手伝ったじゃないか。
ぼくに手伝うだけ手伝わせておいてポイなんて、
ほんと性格悪いよね。」
カンセルの表情は変わりませんが、
明らかに怒りを含んでいます。
「カラダでもなんでも、お礼してもらわなきゃ。」
エンサーはニヤニヤしながら、
カンセルをなめるように、愛おしそうに見つめます。
それに気づいてか、エンサーは闇に溶けてゆきました。
「もう、フフ、冗談だよ、でも、くくく、盗られたくないよカンセル、きみはぼくのなんだから…アハハ」
やがてエンサーも闇に溶けました。
-----
リコがその目をひらくと、
真っ白な天井が目に飛び込んできました。
次には薄い、真っ白な布団、壁、カーテン…
重たくて重たくてしかたのない体を無理やり起こして
やっとベッドの上にいることを認識しました。
腕からは変な管が出ています。
部屋の外には、人の気配がします。
リコはゆっくりと、今がなんなのか、分かってきました。
「白の部屋だ。白の部屋についたんだ。」
その時、ガラリと部屋のドアが開いて、
見たことのある人ーー
リコのパパ、ママが入ってきて、
2人は大きく目を見開きます。
「ルリコ!」
途端にこちらに走りよって、
たくさんの事を話しかけています。
パパはばっちーの声にそっくり、
ママはロゼの声にそっくりです。
リコは思わず、かすれた声で笑います。
2人は顔を見合わせて決まりが悪そうに笑いましたが、
ベッドの横にある丸椅子に座って、ナースコールを押してから、
調子はどう?とか、お腹はすいてない?とか
ゆっくりと聞き始めました。
ひと通り聞き終わると、
リコは一息ついてから、
「ロゼとばっちーはどこ?」
と小さく聞いてみます。
パパが、私の枕元を指さすと、
夢でみた、
いいえ、今までずっと一緒に過ごしてきた、
ふたつの人形がルリコを挟むように座っていました。
「なぁんだ、ずっとずっと、一緒だったのね。」
ふたつは、なんだかニコリと笑顔で返したように見えました。
「あのねパパママ、わたしばっちーとロゼに助けてもらったのよ」
ルリコは夢なのか現状なのかわからない、
不思議な体験を笑顔の両親に話します。
やがてルリコは白の部屋を出てから、
進学し、成人し、結婚した時も、両親の御葬儀だって、
彼らと一緒に時を過ごしました。
もう、あの時のように話したりはできないけれど、
それでも何か、繋がっている気がしたのです。
きっと、ルリコがカンセルやエンサーと出逢うのは、
命の灯火が消えるとき。
そして、もしかしたらそのときに、
ばっちーやロゼにも会えるのかもしれません。
青空の下、朝露輝く庭で、静かに私は呼吸をとめる。
待ち遠しかったそのときがきたの。
さあ、もう、いいでしょう?
彼らが守ってくれたいのちを、
きちんと全てつかいきったから。
「白の部屋」 完
「色彩の思い出」
「ねぇ、なんで邪魔するのエンサー。」
真っ黒な、枯れた木の枝の上、
エンサーと呼ばれていた彼は、
信じられないほどに鋭い目つきで
エンサーと呼ばれた彼女を睨みます。
枝に腰掛ける彼女は、くすくす笑いながら、
それは愉快そうにしています。
「だってあの子にカンセルを取られたくなかったんだもの。」
妖艶さすら感じる蠱惑的な笑顔が
さらにエンサー…いいえ、カンセルを苛立たせます。
「あの人形たちがカンセルを知っていたからぼくの名前を使ったんでしょ?
それにそこそこ手伝ったじゃないか。
ぼくに手伝うだけ手伝わせておいてポイなんて、
ほんと性格悪いよね。」
カンセルの表情は変わりませんが、
明らかに怒りを含んでいます。
「カラダでもなんでも、お礼してもらわなきゃ。」
エンサーはニヤニヤしながら、
カンセルをなめるように、愛おしそうに見つめます。
それに気づいてか、エンサーは闇に溶けてゆきました。
「もう、フフ、冗談だよ、でも、くくく、盗られたくないよカンセル、きみはぼくのなんだから…アハハ」
やがてエンサーも闇に溶けました。
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リコがその目をひらくと、
真っ白な天井が目に飛び込んできました。
次には薄い、真っ白な布団、壁、カーテン…
重たくて重たくてしかたのない体を無理やり起こして
やっとベッドの上にいることを認識しました。
腕からは変な管が出ています。
部屋の外には、人の気配がします。
リコはゆっくりと、今がなんなのか、分かってきました。
「白の部屋だ。白の部屋についたんだ。」
その時、ガラリと部屋のドアが開いて、
見たことのある人ーー
リコのパパ、ママが入ってきて、
2人は大きく目を見開きます。
「ルリコ!」
途端にこちらに走りよって、
たくさんの事を話しかけています。
パパはばっちーの声にそっくり、
ママはロゼの声にそっくりです。
リコは思わず、かすれた声で笑います。
2人は顔を見合わせて決まりが悪そうに笑いましたが、
ベッドの横にある丸椅子に座って、ナースコールを押してから、
調子はどう?とか、お腹はすいてない?とか
ゆっくりと聞き始めました。
ひと通り聞き終わると、
リコは一息ついてから、
「ロゼとばっちーはどこ?」
と小さく聞いてみます。
パパが、私の枕元を指さすと、
夢でみた、
いいえ、今までずっと一緒に過ごしてきた、
ふたつの人形がルリコを挟むように座っていました。
「なぁんだ、ずっとずっと、一緒だったのね。」
ふたつは、なんだかニコリと笑顔で返したように見えました。
「あのねパパママ、わたしばっちーとロゼに助けてもらったのよ」
ルリコは夢なのか現状なのかわからない、
不思議な体験を笑顔の両親に話します。
やがてルリコは白の部屋を出てから、
進学し、成人し、結婚した時も、両親の御葬儀だって、
彼らと一緒に時を過ごしました。
もう、あの時のように話したりはできないけれど、
それでも何か、繋がっている気がしたのです。
きっと、ルリコがカンセルやエンサーと出逢うのは、
命の灯火が消えるとき。
そして、もしかしたらそのときに、
ばっちーやロゼにも会えるのかもしれません。
青空の下、朝露輝く庭で、静かに私は呼吸をとめる。
待ち遠しかったそのときがきたの。
さあ、もう、いいでしょう?
彼らが守ってくれたいのちを、
きちんと全てつかいきったから。
「白の部屋」 完