Neetel Inside ニートノベル
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白の部屋
漆黒の友達

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悲しいことも苦しいことも、痛いこともひとつもない。
さあ、怖くなんかないんだよ。わたしはみんなのそばにいる。



白の部屋  第三話

「漆黒の友達」



リコは思わずハッとしました。
何かが自分に語りかけてきたような気がしていたから。
でも、どうやらそれは夢だったようです。
大きなあくびを一つすると、周りを見回します。

墨で書いたような樹、そのくぼみにリコは寝ていました。
すぐそばには崖があります。
崖と言っても、空間がそこで終わっているようでした。
エンサーがその淵で風に吹かれています。
ばっちーがあくびをしながら、上の枝から降りてきました。

「おっ、リコおはよう。」
「おはようばっちー。」
「ゴホーッ!ゴホッゴホッ!」
「きゃっ!」

突然、どこからか誰かが咳をする声が聞こえてきました。
ばっちーでもエンサーでももちろんロゼでもないようです。

「ど、どこから聞こえてくるのかな・・・」
「ああ、オトナリさんだよ。」
「お、オトナリさん・・・?」
「うん。まあ、そのうちわかるよ。」

ばっちーはリコの隣に座ります。
そしてもう一つ、大きなあくびをして、エンサーをじっと見つめます。

「・・・なんかさ、エンサーってちょっと変な奴だよなあ。」
「そんなこと、ないよ。」

リコはムッとします。
なぜそんな表情をされたのか、ばっちーにはわかりませんでした。
困惑するばっちーが次に見たのは、両手いっぱいにちょっと不気味なものを抱えた
ロゼの姿でした。
幸せそうな、満面の笑みです。

「じゃっじゃーん!おいしそうな果物みつけちゃった!」
「おいしそう・・・?」
「花の妖精のあたいがいうんだから、間違いないよ!
エンサー!エンサー、ご飯だよ!」

大きさは大きめのイチゴくらい。色はブルーベリーのようですが、
なんだかデコボコしていて、くぼみが人の顔に見えなくもありません。
ロゼは一人2つずつ渡していきます。
リコもばっちーも顔を見合わせて、嫌そうにその果物を見つめます。
それでも、ばっちーはとりあえずかじってみるのでした。

「どっちかっつーと、デザートっぽいな。」
「エンサー?はい!甘くておいしいって!」
「ああ、ありがとう。でも僕、今食欲ないから・・・」
「うん?そうかい?じゃああたい、食べちゃうね。」
「うん、どうぞ。」

三人は意外とぺろりと食べ終わり、
リコは思わず手をまっ白なワンピースで拭いて、
青い模様を作ってしまい
もう!ママにいっつも手はハンカチで拭きなさいって言われてるのに!
と、ロゼに怒られてしまいました。
四人は笑いあいます。楽しい食事となりました。

「ね、ばっちーは蜂なのに、はちみつを集めないの?」
「だって、リコがおれのはちみつのつぼ、壊しちゃっただろ。」
「・・・?そうだったっけ・・・」
「うん。」
「さて!いきますかあ!白の部屋を目指せ目指せー!」

食べ終わったロゼが立ち上がります。
他の三人もそれに続きます。

「・・・ね、エンサー、手つなごう。」
「うん!」

リコとエンサーは仲良く手をつなぎます。
ばっちーは何だか不安になりました。
その不安がどこからくるものなのかはわかりませんが、
なんだかとっても嫌だったのです。

「おれも!おれもリコと手つなぐ!」
「・・・?うん!」
「えーっ?あたいは?あたいは?」
「お前は道案内でもしてろ!」
「ええーっ!」

ロゼはしぶしぶ先頭を歩きはじめ、
三対一と言うなんだか不自然な隊列で進みます。、
無限に明るい赤の妖精はずっと喋り続けます。
ほとんど切れ目が無いので、何度もうるさいだのだまれだの、
ばっちーに怒られましたが、
そんなことはちっとも彼女の反省点にはなりませんでした。

「・・ね、ロゼ、あとどのくらい歩くの?」
「そうだねえ、もう少しでここを抜けて、もうすぐ【灰色の世界】に到着するよ。」
「【灰色の世界】?」
「そう!白の部屋に続く空間だよ。そこに着けば、白の部屋までもうすぐ!」
「じゃあ、【灰色の世界】についたら、カンセルはもう来ない?」
「うーん、来ないとは、言いきれないかも・・・」

ロゼは少し困った顔をしましたが、すぐに笑顔にもどって引き続き案内をします。
四人は白の部屋に到着しようと、足早に進みます。
すると、なんだか砂嵐のような音がしはじめます。
空気が一気に重たくなって、妙な緊張感が張りつめます。
ばっちーがリコの肩を引き寄せると、ロゼもリコに寄り添います。
エンサーが一点を見つめていると、赤黒い空間のゆがみがこちらにポッカリを口を開けています。
みんな、ざわざわと鳥肌が立ちます。
なぜか急激に眠たくなります。

「み、みんな、先に行って・・・」

エンサーが空間のゆがみに立ちふさがります。
ロゼが彼の腕をつかんで引きとめます。

「で、でもエンサー、カンセルだったらどうするの・・・!」
「だ、だいじょうぶ、ここはぼくがなんとかするから・・・
すぐに追いつくようにするから、先へ・・・!」

つよいエンサーの口調と意志に、ばっちーはリコとロゼの腕をつかんで、
一目散に走りはじめます。

「先に行くぜ!」
「エンサー!いや!エンサアー!」

あっというまにエンサーがちいさくなります。
リコには、赤黒いものにエンサーが包まれていくように見えました。
涙が止まりません。
ああ、エンサーが居なくなってしまったらどうしよう!
悲しくて仕方がありません。
ばっちーは無表情で走ります。
ロゼは少し悲しそうな顔で、それに従って走ります。

きっと扉はもう少しです。
三人は前へ進むしかありません。


やがて、大きな壁が目の前に現れました。













     

悲しいことも苦しいことも、痛いこともひとつもない。
さあ、怖くなんかないんだよ。わたしはみんなのそばにいる。



白の部屋  第三話

「漆黒の友達」




「あれえ、扉がない・・・?」

森にそびえたつ大きな壁が冷たく立ちはだかって、何故か絶望的な気持ちになります。
ロゼはというと、ぶつぶつ呟きながら壁のさまざまをたたいたりなでたり。
特に変化も反応もありません。
リコはぜえぜえと激しく息をしながら、真っ黒な木の根元にぺたりと座り込んでしまいます。
エンサーはどうしたんだろう、まっくろで怖がりで気の弱い彼。
けがをしたり、苦しくなったり、していないだろうか。

「エンサー、大丈夫かな。」
「大丈夫だとおもうけど。」

隣にばっちーが座ります。
不思議な事に、妖精の二人はまったく息が上がっていません。
なんだかこころがもやもやします。

「なんで大丈夫だってわかるの・・・?」
「・・・だって、エンサー自分で大丈夫って言ってただろ。」
「そっか、そうだよね・・・。」

リコはうつむいてだまります。
隣の蜂はたちあがって、赤い妖精と壁の調査を始めます。
たたいたり、念じてみたり。それでも変化は有りません。
――どうしてふたりは心配じゃないんだろう?
もやもやが大きくなっていきます。
でも、バッチーの言う事も確かです。
信じてあげなきゃ、友達じゃありません。
疲れてしまったのか、なんだかまぶたが重たくなってきました・・・

・・・とんとん、と優しく肩が叩かれます。
驚いて振り向くと、樹の幹からのぞきこむ、笑顔のエンサーではありませんか。
リコはめいっぱい驚いて思わず声を上げようとすると、
彼は”シーッ”と人差し指を薄いくちびるに当てます。

「ふふ、おどろかせようとおもってこっそりついてきたよ。」
「だいじょうぶだったの?」
「うん、消えろ、消えろって念じたら、少ししてからきえてなくなったよ。
・・・ところで今、何してるの?」
「よかった!・・・あのね、扉が見つからないんだって。」
「扉が?うーん・・・ここに来る途中で見たあれかな?」
「見かけたの?」

うん、と彼はうなずいて、

「こっちだよ!」

とリコを案内するのでした。
足取りはとても軽く、走ってきた道から少し外れた所に
まっ白で金の装飾の入った扉が見えてきました。

「ね、きっとあれだよね!」
「うん!きっとそうだ!素敵な扉!」








「オッカシーなあ、ここら辺にあったよね、扉・・・」
「・・・あれ?リコ・・・?」

ばっちーは周りを見まわします。
リコの姿が見当たりません。
さあっと、二人の血の気が引きます。

「や、やだ、リコ?どこにいるの!」

ロゼの悲鳴にも取れる一言をきっかけに、二人は当てもなくリコを探し始めました。
自分が目を離したからだの、手をつないでいなかったからだの、
後悔ばかりが口から落ちて行きます。
ばっちーがふと、リコの居た木の根元をみると小さなの足跡が続いているのが見えました。
二人は今までにないくらいの速さで、
その足跡を追うのでした。

















       

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Neetsha