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社説
2022北京オリンピックを観た

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令和4年2月7日(月)

 高梨沙羅のジャンプに泣いた。

 北京オリンピック スキージャンプ混合団体。今大会から新しく始まった男女混合メンバーで競う団体戦である。
 日本は、先の個人ノーマルヒルで日本勢としては船木和喜の長野オリンピック以来の個人ジャンプ金メダルを獲得した大エースの小林陵侑を始めとした男女それぞれ2名ずつの先鋭で臨んだ。各々が力を出し切れれば上位入賞が期待できるであろう陣容であった。
 私は一本目の高梨の大ジャンプを見た。彼女のジャンプはどこか原田雅彦のそれを想起させる。背格好は全く異なるのに不思議なものだ。踏み出しの際に浮き上がるように見えるからだろうか。大きく飛ぶ選手というのはやはり鳥のように浮く。
 高梨の大ジャンプに満足した私は、安心してチャンネルをBS1からBS-TBSに変えて『吉田類の酒場放浪記』を観た。月曜夜9時といえば、昨今フジテレビの月9よりも類さんである。特に再放送ではコロナ蔓延前の酒場の様子が映し出されており、憧憬の念に駆られることを禁じ得ない。
 ところが、なんでも実況版J(通称なんJ)の酒場放浪記スレがなんだか騒がしい。番組の内容でではなく、オリンピックの話題であった。
「高梨の一本目が失格になったらしい」
 私は焦ってチャンネルを再びBS1に戻した。
 高梨沙羅が、泣いている。
 アナウンサーによれば、他の国でも失格者が相次いでおり、そのいずれもが女子選手であるという。何が起きているのか──頭に疑問がもたげたが、仕方ないのでチャンネルを再びBS-TBSに戻した。
「高梨の2回目がそろそろ始まる」
 吉田類の熱い乾杯強要を見届けた後に、私はいよいよBS1に全集中することを決めた。
 高梨沙羅のスタート前の表情は、明らかに泣き腫らしたあとであり、こんな状態の選手に飛ばせてもいいのか? と不安になった。しかし結果としてそれは杞憂であった。彼女は2回目も見事なジャンプを見せ付けたのである。そして着地してすぐに顔を覆い、しゃがみ込んで泣きだす姿。
「あなたは悪くない。ベストを尽くした。泣くのは仕方ない。だけど自分を責めないでほしい……」
 心からそう思った。1日経った今でも思っている。あなたは悪くない。立派であった。
 他の選手の頑張りや、他国の失格ラッシュも手伝い、日本は最終的に表彰台まであと8ポイント差の4位まで順位を押し上げた。入賞のみでは何も残らないのがオリンピックであるが、しかし、令和4年2月7日の夜に、挽回に力を尽くした人達がいたことを、私は忘れないだろう。

       

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