「はぁ……っ、ん、あ……っ」
俺の下で、苦悶に似た表情を浮かべる彼女は、唇から荒い吐息を吐き出していた。なんだか無性にそれをうるさく感じ、乱暴に唇を唇で塞いだ。
「んっ、んふっ……ちゅ……」
腰と腰をぶつけあう様に、乱暴なストローク。上からも下からも水音がして、俺の体から流れた汗が、彼女の体に落ちる。
さすがに息苦しくなって、唇を離すと、彼女は
「そろそろ……イキそうっ……」
と言って、俺の背中に思い切り爪を立てた。
まるでそれが、引き金を引いたみたいに、俺も絶頂を迎え、彼女の中に、欲望を思い切り叩きつけた。
「んん……ッ!! はぁ、あぁー……」
ギリギリまで絞られた弓みたいに、彼女の背が反った。そして、思い切りベットに体重を戻し、ため息。
「あったかい……」
そう言って、汗でぬるぬるしているはずの腹を撫でる。ゴムをしていても、精液が流れでるのってわかるものなんだろうか。
「……っていうか」
彼女は、ジッと俺を見つめる。というか、睨んでいる。
「え、なに?」
「暑い」
「それ今言うのかよ!?」
季節は夏。
場所は俺が住んでいるアパート。
カーテンを締めてはいるが、それでも漏れてくる日差しで部屋の中は蒸し風呂状態だと言ってもよかった。そんな中、クーラーもつけずに肌を重ねていれば、そりゃあそんな言葉が出るのもわかるけれど。
「だから俺、言っただろ? 今、ウチはクーラー壊れてるんだから、出かけようって」
「暑い中出かけたら、結局暑い思いするじゃん。家にいたい」
「……外のが絶対涼しいと思うけど」
セックスしてたら声漏れるから、窓閉めなきゃいけないし。
「……抜いていい?」
「え、もっかいするの?」
「いや、そういう意味じゃない。チンコを抜いてもいいですか」
すっげえ怖い目で見られる中、俺は彼女の中から自分のブツを引っこ抜いて、コンドームを外して、結び、捨てようとする。
「あ、ちょい待って。それ貸して」
「はぁ?」
こんなもんをどうして貸してほしいと言い出すのか、さっぱりわからなかったけれど、俺は彼女に結び目の所を持って、手渡した。
それを受け取り、液溜まりの部分をふにふにと揉む。白く、細い、皿洗いすらしたことのなさそうな、手荒れのない指が俺の出したものにゴム越しとはいえ触れているってのは、なんだかエロい。いや、さっきまでエロいことしてたけども。
「たくさん出たね―」
「キミの体がエロかったからだよ」
俺としては褒めたつもりだったのだけれど、彼女は手に持った使用済みコンドームを俺の顔面に向けてぶん投げてきた。眉間に激突する。愛液なのか精液なのか、とにかくなんかベチョって音がした。
「きったねえ!! ふざけんじゃねえぞコラァ!」
「セクハラ!」
「セックスしてたんだから今更だろうが!」
俺は落ちたコンドームをゴミ箱に放り込み、 窓を開けた。閉めきっていただけあって、外からの熱風でも、充分に涼しく感じる。
ついでに、ベッドボードに乗っていたティッシュを取り、額を拭いて、丸めてゴミ箱へ放り投げる。
「お前、付き合いだしてもほんとに変わらねえな」
「そんなのアンタもじゃん」
彼女の名は
金髪のロングヘアー。毛先がちょっとカールしている、まあ中肉中背くらい?
顔はストレスなんてものに触れたことすらない、無垢な子供みたいにあどけなく、目は大きい癖に他のパーツが小さいのは、男の俺からしてもちょっと不公平だと思う。
かれこれ、生まれてから一七年ほど幼馴染をやっていたが、つい最近、俺こと
「愛宕さんよ、でかけようぜ。くっそ天気いいじゃん」
「嫌だ。夜になってからがいい」
「これだからインドア派は」
「
「お前、面白いと思ったらとりあえず口に出すその癖、やめたほうがいいぞ」
キメ顔を作る愛宕に、俺は先ほど向けられたのと同じような視線を向ける。具体的に言えば、なんだこいつと不審者を見るみたいに。
「つぅか、服着ろ」
「えー。汗かいてるし、着替えないし」
「エロスイッチ入ってない時のおっぱいは、なんかむかつくんだよ」
「ひっどぉ!!」
大きくもなく、小さくもなく、形のいい白いお椀みたいな胸を揺らし、ぷりぷりと怒る愛宕。悪いけど、それさっきまでじゃないと効果なかった。
「男はセックスが終わると、エロが敵に見える」
「えぇー……。すっごい理不尽なんですけど」
仕方がないからなのか、愛宕は掛け布団を体に巻く。
「いや、一応言っとくと冗談だぞ。見してくれ」
「普通に恥ずかしいから嫌だ」
さっきは普通に、俺の下でおっぱいを揺らしていた女のセリフとは思えなかった。
「っていうか、なんでクーラーぶっ壊れたのに修理してないわけ?」
「壊れたのが昨日だからだよ。さっき言ったろーが」
具体的には、愛宕が電話してきた時に、「クーラーぶっ壊れてっから外出ようぜ」と言ったのだが、愛宕は涼しい家でゲームをする事に生き甲斐を感じる人種なので、どっちかといえばアウトドア派な俺とこういう場面で仲が悪くなっちゃう。
「外出りゃまだ涼しいんだから、行こうぜマジで」
「いーやーだー。日焼けしちゃうぅー」
「お前が日焼け対策してるとこなんて、見たことねえよ」
去年海行った時、なんだかんだはしゃいじゃって、真っ黒になって帰ってきたのを俺は忘れていない。
俺は裸のまま、キッチンの冷蔵庫からペットボトルのスポーツドリンクを二本取り出し、一本を愛宕に放り投げてやった。
「おっ、サンキュー」
蓋を開き、まるで風呂あがりの牛乳みたいにぐいっと呷る愛宕。おっさんかテメェは。
そんな愛宕の隣に腰を下し、俺もちびりちびりとスポドリで唇を濡らした。
「さっきっから、暑いとか外出たいとか言ってるけど、今こんなに暑さに苦しんでいるのは、半分くらい三島の所為でもあるんだからね?」
「あん? んでだよ」
「家に来た瞬間に、私を押し倒したのはそっちのくせに」
それを言われると本当に痛い。
「三島は、私の体が体目当てなのね……!」
「違うわ! 一緒に居て楽しいからだ!」
「……そのリアクションも、ちょっと恥ずかしいんだけど」
俺は自分がどれだけ恥ずかしい事を言ったのか、顔を真っ赤にする愛宕を見て気づいた。
「覚えたては猿みたいとは言うけど、まさかここまで三島がハマるとは思わなかったよ、マジで」
「誰が猿だ。そっちだってノリノリじゃねーかよ」
「女の子にエロい言葉を向けない」
「なんなんだよ。さっきから出してくるその、無駄な乙女心は」
「乙女が乙女心持ってたっていいでしょーが!」
三日間飯にありついていない野犬みたいに、歯をむき出しにして威嚇してくる愛宕。
「あぁ、やめ。暑い……。溶けちゃうよ、バターになる」
「俺も似たような感じだよ……」
いい加減に、何かで涼しさを楽しみたい気分だ。汗だくでセックスするのは、愛宕にはあまり言いたくないが、結構興奮したので、それについて悔いはないが。
「よっし!」
「あん?」
いきなり立ち上がり、生まれたままの姿を晒す愛宕。
「お風呂に入ろう!」
「あ、そ。いってらー」
「アンタも入るの」
「マジか」
俺は立ち上がって、しょうがねえなあ、と頭を掻く。だが、立ち上がったのは体だけでなく、俺の息子もだった。それをガン見する愛宕。
……せっかく、『はあ、やれやれ。しょうがねえなあ入ってやるか』みたいな空気作ったのに。
「……元気ね」
「やめてくれる?」
「……不便ね」
「ほんとだよ」
意思に反して立つのほんとにやめてほしい。こういう時、エロいこと考えてたのがすぐバレる。自分の体なのに、思った通りにゃいかねえんだよな。
■
どうやら、愛宕は「クーラーが壊れてるなら水風呂だ!」という考えだったらしく、俺に水で風呂を溜めさせ、準備ができると、今度はシャワー前に陣取って「髪を洗って」ときた。
別にいいけど。
適当にシャンプーを手に出し、それを愛宕の髪で泡だて、頭皮をマッサージするみたいに洗ってやる。
「んっ……」
小さく息を漏らす愛宕。
「気持ちいいか?」
「なかなかー。いやぁ、三島もやるねぇ」
「そりゃどうも」
にしても、こいつ染めてるのに、綺麗な髪の毛してやがるな。
指通りがよくて、手に取ると水みたいに指の隙間を落ちていく。
俺のボサボサ頭とは正反対で、そういう、俺とは違う部分を見せつけられると、どうしても下腹辺りが熱くなってくる。
白い肌と、細いくびれ。その割に大きな尻。中心を走る背骨のライン。
それらすべてが、なんだか酷く愛おしく見えてくる。
「あー、流すぞ」
「ういうい」
無性に照れくさくなって、俺は急いで泡をシャワーで洗い流す。
幼馴染の服の下に、こんな魅力的な果実が詰まっているのだと知った日は、なんだか無性に嬉しくなったのを思い出し、流し終わったら、俺は無意識に、愛宕を抱き寄せていた。
「……こらえ性のない」
「お前が悪い」
「なにそれ?」
クスクスと笑う愛宕。
こういう時、こいつはズルい。普段はアホみたいな笑い方をする癖に、こういう時はまるで、大人みたいに笑うんだから。
「硬いのが当たってるよ?」
そう言って、硬くなった俺のペニスに、そっと指を這わせる。
「洗う前にしてくれたらよかったのに」
わかっちゃいたけれど、俺はもう止まる気はなかった。
胸に愛宕を寄りかからせるようにして、彼女の胸を、手の内に収める。温かな血の通った風船が、手の中で自在に形を変え、その度に愛宕は口から息を漏らす。
「ん、あっ……。なんかやさし……っ」
俺を感じてくれているのだと思うと、嬉しくなって、唇を寄せた。唾液がたっぷりと詰まった蜜壺を、俺の舌でかき回す。
「あ、んふっ……ちゅ……」
水がたっぷりあって、蛇口から溢れる水音もあるのに、俺と愛宕の口から鳴るピチャピチャとした水音は、なによりも命を感じさせる。
少し強めに、まるで自分の体に彼女を取り込もうとするみたいに、抱きしめた。
「い、痛いって……」
そっと、愛宕は俺の頭を抱き寄せるようにして、自分の額を俺の頬に押し付ける。
「別に、どこにも行ったりしないって……」
「んな心配してねえって……」
なんでも見透かしたみたいになる愛宕は、ゆっくりと立ち上がって、壁に手をつき、俺に尻を向けて、自らの花弁を広げた。とろとろに蜜の詰まったそこに、俺自身をゆっくりと押しこむ。
「んんっ……! あっ、ん……」
包み込むような優しさを全身に感じる。
すべてがわかるような全能感と、心が満たされる幸福感が、頭に薄い靄を作る。
「あ、んっ……ふっ――あ」
俺の腕の中で、くねくねと動く愛宕の事しか考えられなくなっていく。
「んんっ!」
大きなリアクションが返ってきた位置を、俺は丹念に攻め始める。
「ちょっ、普段そん、なっ……ねちっこい事しないくせに……ッ!」
「そういう気分なんだよ……」
ちょっと手前の方が弱いことは知っている。そこを突くことをやめて、単純にまっすぐ奥まで向かって突いてみたりする。
「あっ、んくっ、ぅぅ……!」
どんどん、二人の興奮が高まってくる。びくり、びくりと、中の痙攣が間隔を短くしていく。
「イ、……クッ」
小さな声がする。
そして、先ほどまで優しく包み込んでいた愛宕の中が、キュッと締まって、俺の興奮も一気に引き上げられた。下腹部に溜まった熱い物が出そうになって、俺は慌てて、ペニスを引き抜いた。
そして、愛宕の背中に、思いっきり精液を放った。
二人の荒い息が重なる。どれくらい、そうして無言のままいたかはかわらない。その無言を破ったのは、愛宕だった。
「……洗え」
「……はい」
ゴム忘れたのも、勝手にぶっかけたのも、どうやら愛宕さんは大層お怒りのようだった。
ボディソープを手に出して、それで愛宕の体を洗ってやる(ソーププレイをしようとしたわけじゃなく、単純にボディタオルに精液つくの嫌だっただけだ)。
そうして、二人で冷たい水風呂に浸かった。
俺を背もたれにして、体育座りのようにして座る愛宕。その様が、なんか狭い風呂だなと無言で抗議してきている様で、複雑な気持ちにさせられてしまう。
「今日何回ヤったんだ俺らは」
「さぁー」
汗は綺麗に流れたし、水風呂に使っているお陰で暑くもない。割りと快適に過ごしちゃいるが、なんだかセックスしかしていない。それはまあ、贅沢な日なんだけども、俺としちゃあ、もうちょっとこう。ねえ?
そんな、何か言いたげな俺の顔を察したのか、愛宕は
「はぁ、――わかった、わかった。午後から出かけようか」
「え、マジ?」
「そんなにデートしたいんなら言えよぅ」
「別にデートしたいわけじゃなくて、俺は外の方が好きなの」
「家だとヤりたい放題なのに? 私、外は絶対に嫌だよ」
「俺だってヤダよ! 捕まっちゃうし恥ずかしいだろうが!」
青姦して捕まりましたでは、両親にどんな目を向けられるか。っていうか、勘当じゃね?
俺は、こほんと小さく咳払いをして、「そんじゃあ、行くか?」と、愛宕の頭に顎を乗せる。
「んー……。もうちょい涼んでから」
「はいはい……」
本当に行くんだろうな?
と、言いたかったけれど、まあここまで来たら、どっちでもいいや。
クーラーもない夏にしては、涼しい日になったしな。