Neetel Inside 文芸新都
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LOWSOUND 十字路の虹
25 The Cutter

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 ノア・メドウズが家に来て、今度ライブやるので来ないか、と言ってきたが、その日は重要な用事があるとマリアは断った。
 彼はマッチ蟻の駆除をやめた後スーパーで働き始めたが一週間でやめて、それから冷凍倉庫での作業を始めたが、それも寒くてきついのでやめるかもしれないと言っていた。
 マリアは適当に、でもそういう状況のほうがいいブルースは作れるんじゃない、と言ったが、彼は、いや何を作るにしても心労とかないリラックスした状態のほうがいいよ、と言った。マリアもそうだと思った。
 表ではまたぞろ交戦である。どうやら魔女と〈銀の教団〉の狩人が戦っているようだ。彼らが撃つのは〈タリスマン〉と呼ばれる大口径リボルバーで、撃たれるとその部分が吹き飛んだり破裂したりする危険な威力であり、流れ弾で死者が今週も何人か出ている。近所のコンビニに牛乳を買いに来ただけの人とかが。そしてこの前飲み会のときに見たような、地面のひびからいきなり肉塊が覗くという案件が周囲で三回あり、不安な気持ちにさせる。西の城壁では大ナメクジが大量発生し、ジャックはそちらへ応援に行っている。怪物を狩り尽くす心配というのはどの従事者も一度もしたことがない。マリアも、銃士隊の仕事をしていると、無限に〈霧溜り〉を始末しなくてはいけないのかと絶望的な気持ちになったりする。しかし、それは継続的にこの業種を続けられるということで、決して悪いことではないはずだ。商店経営者が、毎日客が来るのを心配しないように。もし途絶えてしまったら膨大な失業者が現れることになる。
 この前録音したテープをアン部長に聞かせたところ、「ああ、いいんじゃない」と言って、次の部のイベントに出させてもらうことになった。しかし、その次のイベントってのはなかなか開催されないままだった。時は真夏。とても暑い。ロウサウンドは夏は涼しく冬はそこまで気温が下がらない、という街だったがそれでも暑い。内陸部の砂漠とかに比べたらまだましなんだけど。
 アパートにはこの前の謎の集団のメンバーが何人か出入りするようになった。〈リンドブルム陰謀団〉名義で一階の部屋を借りていた。よく見かけたのは、コドニア系の少年バルクホルンと、魚肉ソーセージを食べていた男、エリクソンだった。赤毛のフォードや、暗めのキャシディ、弁護士のロバーツ、といった人々もいた。廊下で会うたびにこの集団の秘密を尋ねたが、正しい答えは返ってこなかった。ただ、やはり何らかの現象型害獣を倒すために色々やっているようだという風にマリアは推察していた。
 同じころ街中で恐ろしい殺人鬼、〈切り抜き屋〉が現れた。警察は日々、海に捨てられた犠牲者の名前と、どの部分が切り抜かれたかを発表するだけだった。報道官の男性は太っていて、ものすごく態度が悪かった。世間は殺人鬼に対して無関心だ。もっと危険な怪物、怪人が日々通りをにぎわしているので、ただ人を殺すだけの犯罪者は警察がいずれどうにかするんじゃないですか? という感じで。
 結局、〈切り抜き屋〉はおもちゃ屋の店長のおっさんで、その最期は牛蛭が媒介する病気での死、死後自宅から殺人記録が出てきたので発覚した。それを発表する報道官の男性は相変わらず不機嫌そうだった。

       

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