六月に一度ライブをやった。このときジャックは調子がよく、普段はかなり消極的なギターソロが、大暴れし、ほとんど音楽の体をなしていなかったが、客には好評だった。このところの流れはそうで、帝都においてパンクスはいかに下手にやるか、というのを競い合うようになっているのだという。マリアは末期的だな、と思った。ある程度の期間続いた文化は、やがて枠にはまって新しいものが見込めなくなる。マンネリしてきたところで誰かがその枠を壊す必要があるが、まずいのは肝心な土台も含めて考えなしにぶち壊すことだ。それは簡単だが、飽きが来るのも早い。そんなことを考えた。
客として仕事帰りのコルヴォが来ていたが、挨拶もせずに帰り、後日なにか感想を言うこともなかった。他にはアン部長とホールデンが来ていた。エリザベスも誘ったが個展の準備で忙しいと断られた。
終わった後、革のジャケットを着た、やや背の低い小父さんが挨拶してきた。カレンの父親のコールドウェル氏で、髪は彼女と同じオレンジがかったブロンドだった。
「ああ、どうもマリアさん。うちの馬鹿娘がお世話になっています。下手でしょうが我慢してください」
「ちょっと! いきなり何言ってるのよ!」カレンが言う。「そういう挨拶の仕方はないでしょ!」
「いやマリアさん、うちの娘は奇行ばかり目立って。カラミティなんて名乗ってるそうですがまさにその通り。これは下手したら作らないほうがよかった。まあでもできてしまったんだからしかたない」
「最悪なんだけど!」
「カレン、バンドの皆さんにあまり迷惑をかけるんじゃないぞ。お前が馬鹿なことをするたびに我が一族の評判に影響が出るんだ。イカれた娘を育てた親だなんてオレも母さんも思われたくないからな。もっともすでに手遅れだが……」
「いい加減にしろよ、クソ親父!」
「いいかカレン、先月みたいなことをまたやったら、勘当も考えるからな」
「もう帰れよ!」
「それじゃあ皆さん、お疲れ様です」
コールドウェル氏が帰った後も、カレンは怒り狂ったままだった。マリアが「先月なにやったの?」と聞くと、
「ただ隣家の犬小屋を燃やしただけなのに皆一族の恥とか言うんだから! もちろん犬がいないときにやったのよ。散歩に行ったのを見計らって灯油撒いて燃やしたから、犬は無事だったんだけど、すごい怒るんだもの。放火魔とかイカレた小娘とか」
マリアは「なるほど」とだけ答えた。