フェデリコ・ゴールドウィンによるアンジェへの中出し未遂事件は村人の知るところとなった。獣人だけでなく、遂にエルフにまで強制猥褻的行為を働いたとなっては、それまで我慢汁をグッと堪えていたウエストエルフ族の村人たちも怒りという名の射精や潮吹きを
我慢出来なかった。
「こンの……ッッッ!!大馬鹿者がぁぁあッッツ!!!!!」
シャロフスキーは、フェデリコの顔をみるなり張り手を3発見舞った。
「げぼひゃ!!」
しばかれた衝撃で頬の内側のありとあらゆる肉を歯で噛み刻み、
潮吹きのように血潮を 無理やり口内射精されて精子を吐き出した哀れな生娘のように口から吹き出しながら、
フェデリコは盛大に転んだ。
基本的にエルフは人間よりも怪力であるとされており、
通常のエルフの張り手でもそこいらの扉を凹ませるぐらいは可能である。
エルフの怪力を知らせるこんなエピソォドがある。
かの有名な甲皇国のユから始まってスで終わる4文字の某皇太子殿下殿(以下4文字)が
エから始まってンで終わる8文字某皇太子殿下の弾劾裁判において、エルフの音速弓を引こうと
したところ、まっっっったくビクともせず、弦を引くことすら出来なかったとされる。
4文字は、後に西方戦線においてアルフヘイム西方軍を苦しめた軍将であり
武勇に長けた人物である。なにせ、公にはされてはいないがあのゲオルクの血を引く人物なのだから。
だが、そんな4文字にすら引けない弓矢をエルフは引くことが出来るのだ。
ましてや、軍人で日頃から竜人族を含む獣人族と渡り合ってきたサウスエルフ族出身の
シャロフスキーとなれば、その威力や絶大だった。
殴られたフェデリコの方も、エルフだったから血潮を女の潮吹きのように吐くレヴェルで
済んでいるが、もしこれが人間だったら顔はトマトを叩き潰すかのようにグチャミソになっていただろう。
だが、さすがのフェデリコもやはり叩き上げの軍人の張り手というハンデもあってか
歯を2~3本吐き出し、顎がズレてしまっている。
「おどれェ……何処まで俺の足を引っ張れば良ぇんじゃ!!!!」
怒りを抑えきっていたシャロフスキーも思わず、サウスエルフ方言が飛び出すほどの怒りようだった。
「……うぅっ……伯父上……だって……っ!! だって……っ!!」
「だって…ぇっ! 違うやろが ワレェ!!!!!
おドレのタマは女犯す以外に使い道無ェのか!! アァッ!!!???」
サウスエルフ方言丸出しのシャロフスキーの剣幕に、フェデリコは堪らずおしっこを漏らしていた。
ブチキレた叔父の怖さは、彼自身がよく分かっている。
おまけに怒るリアクションをやらせたら右に出るものはいない職業NO.1の「軍人様」というステェタスが
付いているのだから、フェデリコにとっては泣きっ面に勃起チンコのような気分だった。
「ふぅぅぅ~~~~~~~っっ…‥…」
シャロフスキーはこれ以上、怒るとフェデリコの金玉を潰して殺しそうになりかねないと悟ったのか
それとも、持病の過呼吸が悪化しかねないと悟って自制したのかは知らないが、
目を閉じ、大きく深呼吸をした。
仮にもフェデリコは甥っ子とはいえ、義理の息子同然に可愛がっている身内である。
怒りに任せて暴力を振るうのが得意な軍人様の身分だとはいえ、身内をこれ以上痛めつけるような真似はしたくないはない。
「……ともかく、まずいことになった……これまでのレイプ行為が許されたのは
ミハイル陛下が
『獣人もとい亜人の女どもがこのアルフヘイムで役に立つことがあるというなら、エルフの男どもの慰み者ぐらいであろう』
と有難い言葉を発してくれていたお陰だ。
これはすなわち、エルフが亜人をレイプするのは許容されるということだ……
陛下も女とはいえ、戦場における兵士の士気向上の一環に性欲の発散というのは理解しておいでであったからな。
だが、今回のケェスは違う……エルフの男がエルフの女を慰み者扱いしたら、さすがの陛下も激怒なさるだろう……」
フェデリコは完全に自身が意味を取り違えていたことに青ざめた。
サウスエルフ軍のレイプ行軍がこれまで許されていたのは、亜人の女性たちを標的にしていたからだ。
もし、エルフ族を標的にした場合は 話は違う。叔父のシャロフスキーがあれほど口を
梅干のように酸っぱくして、膣圧のキツイ女のアソコの締めつけのようにキツく警告していたのは
ただ単にシャロフスキーの主義主張信条だけでなかった。エルフ至上主義を掲げるミハイル4世の下で働くからこそのものだったのだ。
もし、フェデリコがウエストエルフ族の女をレイプ未遂したとミハイル4世が知れば、
ミハイルは不快感を露にしながらこういうだろう。
『我らエンジェルエルフと思想を違えるウエストエルフといえど、
高潔なるエルフの血を引いている。そんなエルフの女を亜人の女どものように使うなど言語道断である。』
そう言いながら、フェデリコが去勢され宦官にされるのは目に見えている。
事実、ミハイルはエルフ族女性を強姦した獣人族の男性たちの金玉を切り取って串刺しにしたことがあるほどだ。
「ひぃぃいいい……どうすればいいんですかぁぁぁ~~~~っっ 伯父上ぇぇ……っっ」
フェデリコは泣きながら、シャロフスキーに懇願した。
もはやしばかれて歯をへし折られた痛みよりも、あの女帝ミハイルに金玉をくり抜かれることの方が痛かった。
正直、シャロフスキーもフェデリコがこんな同族の女をレイプするようなクズだったことに
激しい失望と落胆を隠せずにいたが、どうにも見放すことは出来なかった。
「……何も心配することはない。フェデリコ。私がなんとかしてやる。」
シャロフスキーは先ほどとは打って変わって、泣き縋るフェデリコの背中を優しく叩き、
慰めてやった。出来が悪い甥っ子もとい義理の息子とはいえ、可愛いものである。
シャロフスキーは結婚して子供を作ることを弱点を作ることととらえ、自分の実子を作ることはしなかった。
だが、愛する妹に息子(フェデリコ)をよろしく頼むと託されてはどうしようもなかった。
亡くなる寸前に、無念だと何度も呟きながら息子フェデリコの将来を託した妹の顔を思い出しては
たとえ出来が悪くとも見放すわけにはいかなかった。
それから数日後のことだった。
ロー・ブラッドの村が焼き払われたのは……シャロフスキーは部下たちに甲皇国軍の変装をさせ、村を焼き払った。
そう、全てはフェデリコのレイプ未遂事件を揉み消すためだった。
いかにも甲皇国軍の仕業に見せかけるためにも、女たちはエルフ獣人関係なくレイプされ証拠隠滅のために殺された。
そう、木を隠すには森という言葉に従うかのように、
レイプ未遂を隠すためにジェノサイドレイプを行ったのだ。
これまでエルフの女は犯さず危害を加えずの誓いを遵守するようにと徹底していたサウスエルフ軍の中でも、
正直獣人の女たちは食い飽きたと不満の声を漏らす兵士たちが続出していたので、
その兵士たちの不満を発散するのには好都合だった。
たとえ、エルフの女たちの死姦死体が転がっていても甲皇国軍の仕業と言えばアルフヘイム人ならば誰でも信じただろう。
調査委員会などシャロフスキーお得意の権力を使えば、一瞬で懐柔出来る。
無秩序な暴徒と化したサウスエルフ族兵士は貞操帯が外れたかのように、
一応は同族になるウエストエルフの女たちを犯しまくった。
特に、アンジェはエルフでありながら獣人であるローの妻に成り下がっているとしてサウスエルフ族兵士の格好の餌食となった。
ローは、エルフ侮辱罪と宣告されて手足を鎖で繋がれ、激しい拷問を受けた。
子供は目の前で切り刻まれ、奴らは目の前でそれを貪った。
「亜人の肉ってなかなか美味いよなぁああああ~~~~」
ローとアンジェは発狂した。
愛するわが子がまるで食肉のように屠殺されていくのが信じられず、
泣き叫んだ。そこから先はもうどうなったかローは覚えてはいない。
抵抗するも、ひたすら殴られては気絶しを繰り返した。
正直、もう死んだほうが幸せだと思うほど胸が張り裂けんばかりの苦しみだった。
だが、神様は残酷だ。何度もローは現実に引き戻され、そこであまりにも辛い光景を
目にすることになった。
「ローぢぁ……っ……あう゛!!う゛っ……!!」
釣竿に乱雑にかけられたボロ雑巾のように、両手を木々に結んだロープで吊り下げられ、
裸に向かれたアンジェは股を押し広げられ、性欲のはけ口にされていた。
「う゛……っ!! ロー…ぢぁ……っ 見ないで……見ないでぇっ!!」
犯されながら、アンジェはローに懇願した。
あまりにも惨めすぎる自らの姿を愛する男に見られることが何よりも辛かった。
「おおおオオおオ゛ォォ゛ォおお゛おオオおォオおォオッ!!!!!」
愛する妻の凄惨たる姿にローは、身体を内側から切り刻まれ、内臓を引きずり回して食い破られるほどの
これまでにない心の激痛を味わった。泣きながら怒り狂うことが容易に出来てしまうほど、
ローの精神はズタズタに切り裂かれた。狂乱になったローは足を切り刻まれ、身動きがとれないほど痛めつけられ、
妻が犯されている目の前の木に縛り付けられた。
「便所のゴキブリ並の品位しかねェ獣人のオスの分際で、いっちょ前にエルフの女と犯ってんじゃあねェぞ。」
「うるせぇぞ、亜人のクソカス野郎ォがァ~~ 俺たちが
エルフのオマ〇コ正しく使ってやってるッつーのに無礼な野郎だぁ……ちゃんと躾ねぇとなぁあああ~~~」
サウスエルフ族の兵士たちはそう言うと、ロー・ブラッドの両目を切り刻んだ。
妻の死をこの目で見ることが出来なかったのが不幸だったのか、それとも幸いだったのかは
分からない。だが、むしろそれが逆に妻の断末魔の声を彼の耳に染み付かせた。
「ぁぐ」
ロー・ブラッドは聞いた。妻が最期にあげたうめき声を。
その声の後、確かに聞いた。妻の首が地面に落ちる音を。
グチョ
その音が何度も何度も彼の耳で共鳴した。
その音をかき消すかのように彼は大声で叫んだ。
気が付けば、彼はサウスエルフ兵を皆殺しにしていた。
「はぁ……っ はぁ……っ」
亡き妻の首を抱き抱えながら、ローは吠えた。
体中から血を噴き出しても、彼は死ぬことは出来なかった。
それは彼のアドレナリンがそうさせたのか……アルフヘイムの大地に根付く呪いの類か……
その根源は分からない。なんにせよ、彼はそのお陰で生き延びることができたのである。
当時、彼は妻を殺したのは甲皇国軍だと勘違いしていた。
悲しみの中、西方戦線で甲皇国軍の兵士たちを八つ裂きにし続け、
自分たちの村を襲った部隊の生き残りを探し求めていた。
だが、その全てが味方であるハズの同じアルフヘイム人であるサウスエルフ軍によるものだと
クラウスから聞かされた時のローの怒りはどれほどのものだったか。
そして、その真実を自分に打ち明けたばかりに親友のクラウスを殺した
シャロフスキーとフェデリコへの怒りはどれほどのものだっただろう。
そんな連中が今祖国を見棄てて亡命しようとしている。絶対に見逃すことなど出来なかった。
だが、そのロー・ブラッドの執念は実を結ぶことになる。
フェデリコを暗殺したとニッツェやニコロからの連絡を受け、ローと黒騎士はフェデリコを殺した場所に
たどり着く。そこから、ローはフェデリコの遺体に本物のシャロフスキーの臭いを嗅ぎつけることに成功した。
その臭いを辿り、シャロフスキーは意外なことに一般群集の中に紛れ込んでいたことが発覚した。
レジスタンスと合流したアルフヘイム軍兵士の一人に変装していたのだ。
そう、鉄道へと向かい、逃亡を図ろうとしていたのは偽物だったことが分かった。
「……見つけたぞ シャロフスキー。」
不倶戴天の敵シャロフスキーを誰にも横取りされたくない気持ちから、
ローと黒騎士は彼を見つけるなり、人目につかない路地裏へと連れ出した。
「どうしてだ……? どうして分かった?」
裏をかいたつもりだった。まさかあのシャロフスキーがこともあろうに、
敵側であるハズの陣営の雑魚に成りすますなどとは誰も思うまい。
もし、目に頼りきっている者であれば絶対にわからぬほど、シャロフスキーは服装どころか顔にまで変装を施していた。
用心深いシャロフスキーはもはや、かつての面影は無いほどの醜い顔になっていた。
顔を何度も整形したせいだろう。顔にはいくつも蛇が這ったような傷跡が刻まれ、
頬や口は2倍に腫れ上がっていた。口ひげはみっともない乞食のように生え、
何処をどう見てもあの権力者らしい軍人などには見えなかった。加えてまるで膿がにじみ出たような凄まじい悪臭まで
漂わせ、皮膚は粉を吹くほど真っ赤にカサカサに荒れ果てていた。これも用心深いシャロフスキーらしい徹底ぶりだった。
「貴様の顔は見えないが、その拙い言葉から見て唇か歯を舌を相当傷つけたようだな……
俺の目をそこまでして誤魔化したかったのか……だが、盲目の俺の前では無駄な努力だったな……
まあ、様々な薬品や薬草を身体に浴びて、皮膚を腐らせた努力は報われたようだが。
正直、臭いだけでは貴様だと突き止められなかった。
貴様の皮膚から滲み出る膿と薬品が邪魔をして、貴様の臭いだという確信が持てずにいた。」
宿敵のシャロフスキーを前にして気持ちが高ぶり、ただで殺すのは惜しいと思ったのか
ローはいつもより口数が多くなっていた。早く殺せばそれで終わるのだが、妻と子供を嬲り殺しにした
この男をあっさり殺すなど我慢がならなかった。
そう、まるで半年以上女を抱いていない男が 絶世の美女とのセックスにおいて
じっくりじっくりと前戯に時間をかけて 我慢汁を滴らせながら、とっておきの射精(ショット)の時を待ちわびるかのように、
ローは言葉という名の前戯でシャロフスキーを弄び遊んでいた。
ロー・ブラッドは手首を切り、動脈を傷つけるとそこから噴水のように溢れ出す
血から自身の手足の代わりとなる血手(ブラッディハンド)を生成した。
シャロフスキーの足元に目掛けて血手を地面に這わせていくと、やがて
その手はシャロフスキーの胸に聴診器の如く、当てられる。
「貴様の心臓の鼓動までは誤魔化し切れなかったようだ……
貴様の血の滲む努力は……実に無駄な徒労に終わったというわけだ。」
筋骨隆々の大男にレイプされる寸前のか細い少女のように、シャロフスキーは
絶望で膝をついた。元より獣の血を引くロー相手に並みの変装で太刀打ちできるなどとは思っていなかった。
だからこそ、薬品で身体を苛んでまで必死に偽装したというのに、全くの無駄だったとは。
目の見えないローは、そのシャロフスキーの怯える顔を見ることが出来ず
残念だったが、その怯え震える声に歓喜のあまり、射精していた。
妻の仇を取れる嬉しさを超え、憎き仇が恐怖のあまり自身に震えている快楽で震えた。
「……とはいえ、俺の鼻もまったくの無駄だったわけではない。貴様の身体からかすかに臭う
貴様独特の体臭……それを教えてくれたのは貴様の足手纏いの甥っ子だった……
殺される前に、こいつは貴様と会っていたようだからな。」
そう言いながら、ローはシャロフスキーの足元に包帯でぐるぐる巻きにした塊を
ゴミでも投げ捨てるかのように叩きつけた。その塊はグチョという鈍い音を立て、地面に転がる。
「こいつの逃げてきた道を辿れば、いずれお前と最後に分かれた場所に着く。
後はそこからお前の臭いだけがする道を選んで辿っていけばいい。
微かな臭いだったが、犬の鼻を持つ俺には可能なことだ。」
熊と犬の混血獣人のローにとって、フェデリコの逃走経路を逆算して
そこからシャロフスキーと離別した地点を特定し、シャロフスキーの経路を逆算、
引き続き追跡することは可能であった。
「ばかな……そんな……うそだ…‥」
シャロフスキーは、這いつくばりながらその塊の包帯を剥がしていく。
震えを止めることが出来ず、何度も手や爪や指を滑らせながら必死で包帯を剥がしていく……
彼の嫌な予感はあたっていた。
「お……ぉオオオおおおおオオおおおおオオおおオオオオおおオオォオオぉォ!!!!!!!!!!」
包帯からは愛すべき甥のフェデリコの顔が覗いていた。
塊の正体は、フェデリコの生首であった。
両目はくり抜かれ、大きく開いた口にはフェデリコ自身の目玉が銜えられていた。
そう、かつてシャロフスキーがローの妻や息子たちにした仕打ちが
自身の愛すべき甥っ子フェデリコに返ってきたのだ。
「おぉ……フェデリゴ……っ フェデリゴォオオぉお……っ!!!」
シャロフスキーは変わり果てたフェデリコを抱きしめ、泣いた。
殴ったこともあった、怒鳴りつけたこともあった。
出来が悪く腸が煮えくり返るほどの怒りを覚えたこともあった。
だが、それでも愛おしかった。獣人に両親も姉も殺され、2人きりで生きてきた妹が
命を賭けて託してくれた甥っ子をこの手に抱いた時、シャロフスキーは初めて心の底から泣いた。
愛しているからこそ、感情を露わに冷静で居られなくなるほど叱りつけたフェデリコに
心の底から何度も謝罪の言葉を重ねていた。だが、言い出すには不器用すぎた。
正直、シャロフスキーはフェデリコと共に逃げ延びたかった。
だが、フェデリコはこの危機的状況で遂にシャロフスキーに絶縁状を突きつけた。
「もうあんたの言いなりになるのはウンザリだ!!
いい機会だから、ここであんたとはお別れだ!!」
それが最期に交わした言葉となってしまった。
フェデリコはその後、下水道に逃げ、ニコロやニッツェに殺害されたのだった。
そして、その遺体はニコロたちの連絡を受けたローの手によってバラバラにされた。
ロー自身、自分の妻を犯そうとし、かつ親友のクラウスの暗殺に手を貸した
フェデリコに一矢報いたかった。だが、それは自分よりもクラウスと
付き合いの長いニコロに譲るべきだ。ならば自分は命を奪うより、その誇りを奪ってやろう。
かつて、フェデリコが妻の誇りを奪おうとしたかのように。
「ぅぁあ……っ そんな……!!嘘だ……嘘だぁ……っ!!
フェデリゴ……っ!! フェデリゴぉお……っ!!」
哀れなフェデリコ・ゴールドウィンは死者の誇りすら奪われ、
生首にされるという最も屈辱的な死を迎え、
肉親のシャロフスキーの手許に流れ着いたのであった。肉親として耐え難い屈辱の死だった。
「ぞんな……っ!! どうじで……俺じゃあない……んだ!
報いを受けるべぎは……俺だげだっだ……!!」
シャロフスキーはフェデリコの生首を抱きしめ、ローを憎みながら悲痛に叫んだ。確かに自身の命が惜しかったのは認めよう……だが、それでも
もし甥の命が助かるなら 後悔はなく差し出していただろう。
薄汚れた生き様だったが、それだけは譲れはしない。
「…おまえを殺すなど生温い。
おまえには死ぬより辛い 生き地獄を味あわせてやる。」
ローはシャロフスキーを殺す気などなかった。
いや、殺してしまっては復讐にはならないと悟ったのだ。
ならば、その報いはどうすべきか。
それは、シャロフスキーのこれまでの報いを別の誰かに擦り付けることだ。
人が自身が犯した罪に耐えられるのは、自身が報いを受けるからだ。
罪の報いも、自分に返ってくるからこそ耐えられる。
だがもし、それが別の誰かに……それも自分の愛すべき者に降りかかってしまったら
人は自身が犯した罪に耐えられはしない。そして、無残な死に様をした
愛すべき者を自分の胸で抱いた時、もはやその苦しみは一生心に刻みつけられるのだ。
「家族の生首をその手に抱いた感想は……どうだ?
家族の生首が地面に叩きつけられる音は……どうだ?
お前の心から、そして耳から……一生離れはしないだろう。」
フェデリコの生首を抱き抱えながら、泣きじゃくり慟哭するシャロフスキーを見下しながら、
ローは笑っていた。これこそが、ローの復讐だった。
復讐の真の境地とは仇を殺すことではなく、その仇の家族を殺すことだ。
自身が、仇に家族を殺されたからこそ その境地にローはたどり着くことが出来た。
「おまえには安らかな死などない……
家族の死を一生引きずりながら 生き続けろ……
醜いケダモノに堕ちたおまえにはそれがお似合いだ。」
薬品で皮膚も顔面も崩壊し、泣き崩れるシャロフスキーに踵を返し、
ローは血手を引っ込めると、黒騎士と共にその場を去った。
「しかし、どうするのだ? 奴を生かして返したことが知れたら
ただでは済まんぞ。」
黒騎士は問いかけるようにローに言う。
今ならば踵を返してシャロフスキーを殺すことも出来る。
後から殺しておけば良かったなどと後悔しても後の祭りだ。クローブに問い詰められて暗殺対象を逃がしたと知られれば背信行為と取られて処刑されかねない。
「……クローブには影武者の首を手土産にしよう……今、逃げてる方も追い詰めて殺す。そいつにしよう。殺した権力者が偽物だったと 後世になってほざく輩が湧いてくることは歴史が証明している……これから先、シャロフスキーの名前を騙る奴は全員殺す。クローブに何を聞かれようとも、影武者だと押し通せばいい。偽物だろうが、一度権力者の首を掲げれば 歴史は決まる。」
まるで自らに言い聞かせるかのようにローは言った。
「それに……あの姿で本物だと名乗り出たところで誰が信じる?
いずれにしろ、俺の知るシャロフスキーは死んだ。」
彼は自身の復讐劇に幕引きを急かしているように見えた。まるで、自身の心から湧き上がる何かを必死で誤魔化しているかのようだった。
「まあ、それもそうだが……いずれにせよ、シャロフスキーを生かしておいては後々に障害になる……つまり……」
「報復か? 心配するな……もう俺に失うものは何もない。」
家族を失い、失う者が失くなった彼だからこその答えだったのかもしれない。たとえ、シャロフスキーが報復に出ようとも もうローをどん底に突き落とす者はもうこの世には居ないのだ。………むしろ、ローは報復を望んでいたのかもしれない。
だが、果たしてそれが正しい復讐の形なのだろうか。
黒騎士はどうにもローの復讐が正しかったようには思えない。
それは、仇を生かして見逃したことではないような、だが何かうまく言えぬ違和感であった。
黒騎士は尋ねた。
「……胸は晴れたか?」
「……ああ」
ローはうなづく様に静かに答える。
まるで、自分は正しいのだと言い聞かせるかのような返事だった。
「…………」
無言ではあったが、黒騎士は分かっていた。
ローの目から血の涙が流れていたことに。
黒騎士はローの涙を見過ごした。
男の涙を責めてはならぬ。せめてもの情けだった。
「……黒騎士。」
「……どうした?」
ローはため息を吐くと、暫く無言になった。
1時間にも2時間にも思えるほどの沈黙の末、ローは言う。
「復讐は自分を見つけるためにあるのかもしれない。」
それ以来、ローは口を開くことはなかった。
その後、ローはシャロフスキーの名を騙る影武者を血祭りにあげた。
その数は12人にも及んだという。それは終戦間際まで続いたとされ、
シャロフスキーの名を騙る者はこの地上から消え失せたのだった。
そして終戦となり、戦後ミシュガルドへ渡り余生を送った
ローは二度とシャロフスキーの話題を口にすることは無かったという。
自分と同じ苦しみを背負ったシャロフスキーの姿に、
ローは自分の何を見たのか。
今となってはもう知る由もない。