Neetel Inside ニートノベル
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スライムさいきょうでんせつ
スライム最強伝説

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 原因はかなりくだらないことだったと思う。
 20の誕生日を迎えた俺は1人でバカのように酒を飲んでぐでんぐでんに酔っぱらっていた。意識は……少しあったかも。なんか眠たくて、身体がうまく動かせなくて……そうそう、吐きたくなってちょうど崖?……うん、プラットホーム、白線の内側まで行って……落ちたっけな。
 悲鳴と、電車のガタンガタン音だけ聞こえて……そこからは記憶にないな。


 たぶん俺は死んだんだと思う。手足の感覚がないし回りは黒一面だし。まぶたも、一生懸命動かしてるんだけどやっぱり映るのは黒一色。
 意外と、その事実を俺は受け入れてるんだけど次に問題になるのがなんで俺には意識があるんだ!ってこと。死んだらこんなものなのかなぁやだなぁ。
「じゃあさ!もう一度人生やり直してみない?」
「え!?ってうわぁぁぁぁぁぁ……」

 うぅ、痛てぇなぁ。まぶたを開くと一面を緑の木葉が覆っていて薄暗い。背中……いや、頭に冷たさを感じた。相変わらず手足の感覚がなくてこれどうやって起き上がれば良いのかなぁ。
「やぁ!グッドモーニング。調子はどう?」
「あっ!さっきの声!おい!どこにいるんだよでてこい!」
 ひゅんと風が吹き森全体がざわめきに包まれる。なぜだかバカにされてるような気がした。
「それよりもさ、今は君の現状を知るべきなんじゃない?」
 目の前でフラッシュが焚かれて、思わず目を閉じる。光が弱まりゆっくり目を開けると地面に倒れている青くて、ぶよぶよして可愛らしい……スライム……うん、スライムがのびていた。
「弱そうだなこいつ」
「これが今の君だよ」
「へぇ……」
 感心して顎に手を添えようとしたけど感覚がないからできない。そりゃそうか……スライムだもん。
 ……は?機能停止状態の脳みそが急激な速さで立ち上がり光の速さで現状を処理していき導き出された答えは。
「ふ、ふざけるなあああぁぁぁ!!!」
「仕方ないだろ!頭しかパーツが残ってなかったんだから!」
「そういうことじゃなくて!」
「あっごめん。魔力切れそう。戻すよ」
「ぎゃあああああ!」
 森のなかに無数の羽音と俺の絶叫が響きわたる。それで俺はというと、上空を飛んでいた。そして……
「お、落ちるぅぅぅぅぅ!!!」
 そのまま地面にキス。痛てぇ……
「じゃあ、頑張ってね。バイビー」
 返す気力がなかった。

     

 とりあえず森のなかをぴょんぴょん弾み回ることにした。だんだんと回りが暗くなる。あぁ、このまま夜になるのかぁ、野宿はやだなぁ、スライムにされた上に獣の餌になるのはやだなぁ。獣がスライムを食べるのかはわか らないけどそんなことを考えながら10分くらい弾み回って出た結果。
「つ、疲れたぁ」
 全身がだるい。なれない動きをしてるからだと思うけど……なれるのかなぁこれ。
このまま寝ようかなぁ 、そうしようかなぁ……光?赤い光の点が大きくなりながら近づいてくる。おいおい火の玉のお化けとか勘弁してくれぇ……
「おい、そこのスライム」
「ひっひぃ!」
 高めの……少年の声が俺 に突き刺さる。命乞いのセリフと般若心経?とりあえず幽霊に利きそうな呪文を頭のなかで呟く。
「悪いが死んでもらう」
 ありったけの叫び声をあげつつ逃げるという選択肢。後ろからはがさがさ草を踏みつける音が聞こえる。ひぃ!足の生えてるお 化けだぁ。ち っちゃいという特性を生かして、効果があるのかわからないが少なくとも俺より大きい生き物は通 れない道を選んで逃げ続ける。
 次にお化けと出会ったのはちょうど月明かりが差し込む広場だった。ちなみにお化けは誤解で、俺を追い続けていたのは……人間だった。ただ、俺の認識とちょっとだけ違うのはファンタジーマンガにでてくる旅人Aのような服装に……俺を殺すためのザ・銅の剣、これを持っていた。
「ハァハァ、ちょこまかちょこまかとぉ……」
「た、頼むよぉ命だけはさぁ」
「問答無用だ。魔王を倒す勇者としてスライムごときに遅れをとるのは不覚だが……今ここで叩き割ってやろう!」
 なんか無理して勇んでる感あって笑えるが、下手したら本当に殺されそうだしこれRPGでいう「しかし回り込まれてしまった! 」を延々に続ける可能性も視野に入ってきた。だったら逃げられるようにするまでさ。一か八かで!俺は再び森に潜り込む。案の定旅人君は突っ込んできた。いいぞ!もっと近づいてこい。
「どこだスライム!」
 よっぽど頭に血が昇っているんだろう。足音大きく不用意に近づいてくる。
「坊主!後ろだぜ!」
 軍配があがったのはこっちだった。まさに作戦勝ち。旅人君が後ろを向いた瞬間ありったけの力で彼の背中に飛び付く。まさか木のくぼみに、しかも力をためながら隠れているとは思わなかっただろう。グヘっていう声をだしながら顔面からスライディング。ただ、これで終わりじゃない。
「ちょーっと痛い思いをするけど、殺されるよりはましだと思えよ!」
森に絶叫が響く。今度は俺じゃない。旅人君のだ。口の中が血と……恐らく肉の味でいっぱいになる。あぁ、やべぇやり過ぎたか?骨も見えてるよ。
「あぁ……うわぁぁぁぁぁ」
 血の線を引きながら俺から逃げるように這いずりだした。
「そんな!スライムがこんなに強いなんて聞いてない!」
「よぉ!狩られる側になった気分はどうだ!」
ぴょんと旅人君をまたぎ同じ目線になった旅人君ににんまり笑う。
「……このまま殺すのか?」
「お前ならどうしてた?」
 黙る旅人君、ちょっと意地悪したかもしれない。
「とりあえず俺を逃がして……いや」
 ここで俺はひとつ思い付いた。
「なあ、俺をさ、村でも町でも良いから人のいるところに連れてってくれよ」

       

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