Neetel Inside ニートノベル
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スライムさいきょうでんせつ
スライムの秘密

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「おい、無理すんなよ。今だったら背中に乗せてやるぜ」
「だ、誰が魔物……しかも最下級モンスターの背中になんて……ってく~~!!!」
 旅人君は包帯でぐるぐるにまかれた足を引き摺りながらゆっくり道を歩いていく。俺はそれについていく。無理しなくていいのに。
「くそ、勇者候補の僕がなんでこんな目に」
「油断したからじゃね?」
「う、うるさいなあ!」
 叫んだあとに痛みに呻く。
「……体当たりしていい?」
「やったら殺すぞ」
「おうおう?俺に勝てるのか?」
 勇者君が鞘から剣を抜いた瞬間だった。子供のような声が……3人。怖くなって勇者君に飛び付く。
「痛て!やったな!」
「待って!悪気はなかったんだよぉ」
指さしをすることはできないのでがたがたに震えて涙目で異常を訴える。
「な、なんか聞こえなかったか?」
「ああ!なかま、なかま!」
「ぼくとおなじ、おなじ!」
「ピキーーーー!」
 失神しかけたところを勇者君のビンタで起こされる。そして指さし。……俺よりバカっぽい三匹のスライムがにこにこ?へらへら?とにかく気の抜けるような表情でぴょんぴょん跳ねてる。
「なかま!なかま!」
「うわ!あいつらアホそうだなぁ」
「僕には違いがわからない」
 なんか和むなぁ。この気持ち、5秒で終わったって聞いたら信じますか?さっきピキーーーー!って叫んでたスライムが勇者君の肩に噛みつき勇者君2度目の悲鳴。
「クソ!こいつ噛みついたぞ」
 このセリフの後に無惨な死に方をした人たちを映像で何回かみたことあるが、勇者君はそこまでダメージはなさそうだし噛みついた奴もウィルス的な物を持っているわけでもなさそうだ。若干血が出てるくらい。問題はこいつを無理矢理引き離そうとしたら肉ごと持っていかれるかもしれない。迷わず俺はスライムに噛みつく。
 柔らかい、まるでゼリーにかぶりつくような感触のあとピキーーーー!と叫びながらスライムは破裂してただの水と化す。
「うわぁ、俺こんな風に死ぬのかよ。そんなことより、大丈夫か?勇者君?」
「大丈夫だ!それより、ぼくにはアルっていう名前があるんだよ!ボンクラスライム!」
「て、てめぇこそ!俺をスライムって呼びやがって!俺にもなぁ……」
 ここで言葉が詰まった。あれ?俺、名前が思い出せねぇ。思い出そうとすると急に頭が痛くなる。なんなんだよ。
 正気に戻ったのは手痛い体当たりを喰らった瞬間だった。背後から飛ばされ大木に顔面を打ち付ける。
「よそ見してる暇はないぞボンクラ!」
「ピキー!なかま、なかまじゃない!」
「ころした!ともだちころした!ゆるさない!ヒトも、きみも、たべる!たべる!」
 のほほんとした顔のわりには物騒なことを。
「残念だけど、それは無理だ」
 アルに向かっていったスライムは剣に叩かれた瞬間に蒸発していった。なるほど、ぽかぽか殴り合うよりもあいつに任せたほうがすぐに終わりそうだ!
残った1匹に体当たり、飛ばされたスライムはアルのほうに飛んでいく。
「もう1匹だ!頼んだぜ!」
 わかってる。返事と共にスライムが蒸発する音が聞こえた。



「手負いでも倒せるくらいにはスライムは弱いんだな」
「俺には負けたじゃん」
「……お前本当にスライムか?」
「いや、見た目はスライムなんだろ?」
「どういうことだよそれ」
 いや、だってさぁ……酔いつぶれて、起きたら知らない世界でスライムになってましたなんて誰が信じるの?
「……スライムは知能が低いって聞いたがお前を見る限りそうでもなさそうだし」
「お!初めて頭が良いって誉められた」
「どうしたらそういう解釈になるんだよ」
 アルは呆れながら俺を見る。
「野生のスライムは他の種族と違って戦術的な行動は一切しない。しゃべることはできるが人間の幼児並またはそれ以下でのコミュニケーションしかとれない。これがお前らの説明文だよ」
 そしてまじまじと俺を見る。野郎の顔は見たくねぇ。唾をひっかける。
「~~~~~~!!!」
 という絡みを5回ほど繰り返しても一向に森から出られない。アルが脚を怪我していてなかなか進まないってのもあるが、根本的な原因はというと「ここどこだよ」「知らん、地図忘れた」という会話でわかると思う。いつになったら出られるんだよ。すると灯りのついた建物を発見。人がいるかもしれない。
「お!お!お!やったあ!人がいるかもしれないぜ!」
「はやまるなバカ、もしかしたら人型の魔物かもしれないだろ……っておい行くな行くな!」
制止を振り切ってドアを思いっきりノックする。
「すいませーん!誰か居ますかぁ?」
 しばらくしないうちにドアが開く。そこに現れたのは髭をめっぽう生やしたじいさんと「ピキー」と叫ぶスライムだった。

       

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