選ばれたんだ。だから、今度は僕の番ということになる。毎日、くだらない日々を過ごすだけだった。生きる目的もなく、意思のない、屍のような暮らし。自分が何をしてきたか、何を成し遂げたか、今になってもわからない。何も残すことができなかったのだと思う。もしかしたら、いや、だからこそ、僕が選ばれたのかもしれない。
僕はこれから、この世界の住人ではなくなる。この世界から消えてなくなる。この世界の記憶からも消えて、誰一人として、僕のことを思い出すことはなくなるだろう。つらくはない。それは、一種の救いなのかも。だって、もともと、この世界のどこにも、僕の居場所なんてないようなものだったから。
一人だけ、見送りにやってきた人間がいる。彼女は僕の幼馴染で、時々、ケガをして傷ついた僕の面倒を見てくれたっけ。彼女は何も言わず、佇んでいる。僕は彼女に気づかないふりをして、出発する。悲しそうな、だけれど無理やり笑おうとして、彼女の唇が震える。僕は彼女のほうを振り向かない。
少し先に、案内人がいる。生き物の皮をかぶった、この世ならざるモノ。僕は舟に乗り込む。手にしている荷物は、きっと、持っていくことは出来ない。だけれど、これをこの世界に置いていくわけにはいかない。これは彼女がくれた思い出だ。これだけは、たとえ僕が消えてしまうとしても、僕のものだ。
僕は彼女を見ない。彼女は、僕を見ているが、何も言わない。僕は消えてしまう。それは呪いだろう。だけれど、この想いだけは、消えることはない。