時間が迫っている。考えろ。考えて感じるんだ。
風と空気を感じ、戦場の情報を分析し、感覚的に自らのものと成せ。あらゆる障害を把握し、標的と意識を同調させろ。
何に怒り何に怯える? 生まれ落ちてから幾年経った? 腹を空かせ食らいつくは慈しむべき生か、はたまたまやかしの贄か? 深く沈んだ冷たさを撹拌し砂塵芥を巻き上げろ。お前の存在の証は俺にとってごちそうに等しい。
周囲は凪ぐも、水面はその豊富に蓄えた深藍を誇示する様に細かく揺らいでいる。乾いた空気は幸か不幸か、ハンター特有の直感をより鋭敏にしたようだ。磨ぎすまされた直感は、さながら魚群を探し当てる正確無比なソナーだ。
——近くに、主が、居る。
間違いない、奴ら特有の無機質な視線を確かに感じる。
大物の気配と、見慣れぬ風景の不気味さが混ざり空気が濃くなったようだ。勝負の前の一服を求めポケットに手を入れる。
「……クソ」
前の世界を跨ぐ際に落としてしまったらしい。
次にタバコのある世界にジャンプできるのはいつになることやらと、苦々しい顔をしていると、いつのまにか向かいの短い桟橋にいつの間にか少女が立っていることに気がついた。
目に宿る強い光に悲壮感は微塵もなく、儚げな外見と裏腹に厳格な空気をその身に纏う少女。じっとこちらを見据えている表情からは、なにも窺うことができない。だとすれば、彼女がこの世界でのオブザーバーか。
ここは何番目の世界だっただろう。彼女は一体何番目のオブザーバーだったろう。
正確に把握していないのはややまずい気もするが、どうでもいい。最早どんな世界でだってやることは一つしかないからだ。
——パン——パン
乾いた炸裂音が二発、黄色い空に響いた。
湖畔の葦のような植物がにわかにざわめきだす。あわててオブザーバーを見やると、少女はゆっくりと、しかし大きな声で宣言した。
「時間です。制限時間は8時間、本日は必ずハードルアーを使用して下さい。ルルーブックに則り違反のないようお願いします。それでは始めて下さい」
「いよっしゃあ!! 釣ぅるぞおおおお!!」
各会場の現地民をそれぞれの会場の運営スタッフとして携わせる事でようやく実現したこの《異世界弾丸バス釣り大会》もいよいよ佳境だ。トップと3000点差はなかなか厳しいが、大物を狙っていけばまだまだ望みはある。
各ポイントから続々と釣り人がボートに乗って現れ出した。遅れてなるものか。狙うはこの湖の主! ボートもいいがここはひとまず岡っぱりからせめて見ようか。あのモグラみてえな岩に向かってれっつらキャスト!
いやあ、釣りってホントに楽しいものですね。