世界が終わるとき
僕
十二歳の時、僕は彼女に出会った。
その時の瞬間を今でも鮮明に覚えている。あれは小学校の卒業式の日だった。六年間通った学校生活の終わりと、新たな生活の始まりの不安に駆られていた僕は、制服姿のまま一人で学校にほど近い場所にある山へと歩いていった。そこにはそこそこの広さの草原があり、そこで深呼吸でもしようと思ったのだ。
昔はみんなそこで遊んでいたものだが、近くに切り立った崖があること、そこから落ちて大怪我をした人がいるということで「KEEPOUT」の黄色いテープこそないものの、原則立ち入り禁止となっていた。
少し汗ばみながらも、しっかりと歩を進める。
十五分、いや二十分ほどかかっただろうか。
僕は目当ての場所についた。
途中逆立ちをした河童と、レインコートを着たサルが邪魔をしてきたが、それはいつもの事なので気にしないし、今ここでそれについて語る余裕はない。
とにかく僕はそこで彼女に出会った。
草原は並び立つ木々をすり抜けた先にあり、いきなり視界が開ける。
その中心で彼女は立っていた。どこの学校の物か知らない、しかし清楚で美しい制服を着て、そして風に髪をなびかせていた。美しく透き通るような銀色の髪をして、そして僕よりもほんの少しだけ高い身長を生かし、より天高くを仰いでいた。はじめ、というか僕が近づくまで彼女は僕の存在に欠片も気が付かなかった。
しかし意を決した僕が話しかけると、彼女は答えてくれた。
そこで記憶は途切れている。
次に僕が気付いた時、自分を支配していたのはすっかり日が暮れた頃、草原で寝ころび、流れていく茜色の雲を口いっぱいの無力感をほおばりながら眺めている自分自身に対する無力感だった。
彼女がどんな声でしゃべっていたのか。
彼女が何を言ったのか。
ただただ彼女の美しい姿に圧倒されるだけだった。
その日から四年間。
僕は彼女の姿を追いかけてきた。
僕は信じている。
再び彼女に出会うことができたら、その日、その瞬間に「僕の世界は終わりを迎える」のだと。
自己紹介が遅れた。
僕の名前は立樹撲。
名前の由来は「俺」なんという汚い言葉遣いをする人になってほしくないという祖父の願いからついたらしい。さすがに「僕」の字のまま直球はかわいそうなので「撲」になった。その祖父も去年、脳梗塞で亡くなったが。
ともかく撲は僕だ。
それ以外の、何者でもない。