世界が終わるとき
自己紹介
自己紹介を続けよう。
僕は十六歳、この春から高校生だ。
中学という新生活におびえていた頃の僕とは違う。新しい生活が始まるからと言って怖がる必要はもうない。だからと言って心が躍るわけではない。だが、前よりも大人になった僕はその程度では動じなくなったというだけの事だ。
好きな食べ物は特にない。嫌いな食べ物も特筆するほどではない。出されればなんでも文句言わず食べる、あえて言うなら納豆が嫌いだが、どうしてもと言われると食べてしまう。その程度の嫌いだ。
勉強は嫌いではない。国語は好きだ、ただ小説を読んでいるだけでいいのだから。作者の考えを述べなさいなど、どうせ本当にそうとは限らないのだからそこまでくよくよ悩む必要はない。嫌いな教科は英語だ。どうして日本人が外国語を覚えなければいけないのだろう。ずっと日本に引きこもればいいのに。
交友関係はない。僕の世界に友達は必要ない。
家族の話は、まぁいいだろう。長くなるし面白くない。
ここまで自己紹介を続けてきたわけだが、はっきり言おう。こんなことはどうでもいい。
僕の世界が誕生した瞬間から、自分のことなどそこまで重要な意味を持たないのだ。
そう、彼女に出会った瞬間、僕の世界は完成した。
彼女のあの美しい姿を目にした瞬間に、まるで天地創造の時のように何もない世界に日が差して全てが生み出された。そしてそこには、僕以外の「者」もたくさんいた。今だってそこに逆立ちをした河童が僕のことをじろりと睨み付けている。
後でそれは解決するから今は問題ない。
僕が探し求めている彼女。
彼女は名前をカズミガオカユリコと言った。
カスミガオカユリコ
そう確かにそういう名前だ。
「でも、私はカスミガオカユリコではないわ」
そう言って目の前の彼女は哀れむように僕を見た。
透き通るような美しく白い肌に髪。当時は僕よりも高かったのだが、あの頃よりはるかに成長した僕からすると彼女は少し背が低いように見えた。そしてあの時とは違う僕の通うはずの高校の制服を着て、ガラスのように透明で何もないその瞳に僕の姿を無機質に映している。
記憶の中の彼女とまったく同じ姿がそこにある。
通学路の途中。
人通りの少ない道で
彼女と出会った。
しかしまだ、僕の世界は終わりそうにない。