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渥美焔は制服に身を包み、台湾人の母親、妹、そして工務店経営の父親に
見送られながらトラックの荷台に乗った。まるで19世紀の西部劇の荷馬車に出てきそうな
垂れ幕に覆われただけの荷台は雨風こそ凌げそうなものの、その分 隙間風が吹き込みそうなお粗末な作りだった。
左右対称のベンチはところどころ禿げたOD色(グレー? 深緑?)のペンキで塗られた跡があり、
座れば一瞬で座骨神経痛を併発しそうなほど骨盤に響く座り心地だ。(つまり、硬いってこと。)
(うわぁ…絶対コレあれやん……着いた途端にぐったりしてる奴やん……)
案の定であった。それは京都南部の一号線から滋賀県に向けての高速道路に差し掛かった時だった。
驚くほどの急激な坂道と、金玉を叩き割らん勢いで下から突き上げてくる衝撃で揺れる道で思わず
視界が一度潰れ、入り込んでくる風が凄まじい神砂嵐の真っ只中のような(ちょっと、自分関西人やからってハナシ盛りすぎやでw)
寒さを誇っていた。まだ季節は3月の終わりである。去年よりは少しは暑くなり始めてきたものの、
高速道路の風をまともに受けるのがこれほど辛いとは思わなかった。
(あとこれ何時間続くねん……)
横にいた未来の同期生たちは半ばグロッキィ状態だった。
寒さに震えて眠れない者、阿吽像の如く目を見開く者、膝の上に肘をつきうなだれたまま爆睡する者、
そして耐え切れずに互いの肩同士を借り合って半ば半死半生の状態で朦朧とする者……
渥美焔は自分自身もグロッキィになりながらもその状態を冷静に見つめていた。
(あー……ケツめっちゃ痛い……ケツ割れそうや)
ベンチのあまりの硬さに思わず座骨が悲鳴をあげたのか
渥美焔は自分のカバンを下敷きにして、その上に座った。
少しばかり痛みが引いたのか渥美焔は思わず安堵し、ふーっといふ溜息を出した。
(我ながら名案やな……)
そう思いながら一人優越感に浸っていた渥美焔は束の間の眠りについた。
だが、これが予想もしない結末を引き起こすとは当時の彼には知る由もなかった。