世の中には青春を全力で謳歌するバンドにまつわるマンガや小説はいくらでもあるが、
ライブハウスで働く人に焦点を当てる作品に巡り合ったことはない、
というか、ほとんど無い。これはとても嘆かわしいことで、悲しいことだ。
良く考えて欲しい。
バンドが声高らかに叫べるのも、大音量でギターを掻き鳴らせるのも
それを陰で支えているライブハウスで働くスタッフがいるからこそである。
バンドの物語に比べ、劇的な展開などなくともとても大切な事実だ。
表舞台があれば必ず裏方がいる。そうしないと成立しない世界。当たり前だ。
だが、当たり前過ぎるからこそ見逃されてしまい、つい忘れてしまう。
ライブハウスで音楽を楽しんだら、そこで働く人達の事を少しでも思い出して欲しい。
そんな気持ちを込めてこの話を残していこうと思います。変な音楽とバンドと共に。
そういう話や創作物があっても良いじゃないですか。
長髪の女の子がちょこんと座っていた。ライブハウスという怪しい雰囲気に浮きまくって
あまりに場違いに感じてしまうほど、幼く可憐な美少女。
いつも気になっていた。お世辞にも綺麗とは言えず、長い歴史ゆえ所々ボロボロで
どちらかと言えば得体の知れない不良達の溜まり場のような場所だからだ。
その容姿ゆえ、まるで地下室に囚われたお姫様というべタ過ぎる設定を妄想してしまう。
だが、現実は違う。本当に驚愕したのだが、彼女はここで働くスタッフなのである。
何故、こんな場所(失礼)でこんな綺麗な女の子が働いているのだろうか、
最初は果てしなく最大の謎だった。
例えば、下北沢や渋谷辺りにあるオシャレなライブハウスなら分かる。
しかし、ここはそういったハコと違い、どちらかと言えば超ド級
アンダーグラウンド、知る人ぞ知るその中心地、ある種伝説的な場所なのである。
そりゃあもう、とにかく変なバンドだけしか出ないようなハコなのだ。
マジで、本当に、マジで。
というか、正確には「ここじゃないと出られない」と言った方が正しいかもしれない。
そんなような場所で彼女はずっと働いている。
きっと、ヤクザみたいな店長に脅され奴隷のように強引に働かされているに違いない。
と最初は思い込んでいたが、どうやら違うようだ。
未だに信じられないのだが、彼女は自ら望み、このライブハウスで働いているらしいのだ。
そして、ここでしか見られない聴けない変なバンドを彼女は心の底から好きだということも
僕は後々思い知ることになるのだ。