マトは十歳くらいの女の子。
アルフヘイムという国から渡ってきたエルフの子。
旅また旅の道すがら
小さな町へとたどり着き
酒場でちょっと一休み。
酒樽の上に腰かけて
レモネードを飲み飲み。
名前の通り丸っこい相棒、しゃべれる竜のマルが聞いてきました。
「今回の旅の目的は?」
「オレ、特に何も考えてないぜ!」
「考えろよ!」
マルがそう言うので、マトもちょっとだけに考えてから答えました。
「友達! 友達を作る!」
「ボクじゃだめなの?」
「マルはマルだし」
マトの答えには不服だったけど、マルはしぶしぶついて行きました。
奇しくもちょうど同じとき
深い深い草原の中
ゴーグルかけた男の子
薬学者のサイは
山菜のバネシダを採取していました。
「僕はえぐみのある山菜のこの味が好きなんだ」
つまみ食いする緊張感のないサイに肩に乗っていた小さなドラゴンが注意しました。
「サイ。この近くに原生生物がいるようだ。気をつけて進めよ」
大人の胸丈ほどもある草でサイの体はすっぽりと隠れてしまうほどです。
視界はすこぶる悪い。
背の高い草の上からサイを覗き込む何かに気が付いたのは接近されたあとでした。
「やっべ見つかった! 振り落とされるなよ、バグ!」
採取しておいた黒い実を口に放りこむなり走りました。
サイは身軽で足が速いのが自慢です。
その上速さを上げる黒い実、バトルペッパーをほうばっています。
草原の中に身を隠そうと中腰になっていても、十分に逃げ切れる速さでした。
丈の高い草の海に潜りこんで進んでいきます。
サイの服に草がすれるかすかな音をたよりに、くねくねとみみずのようにのたうち回りながら怪物は近づいてきます。
「ガサガサ音を立てるから見つかるのだッ 私の忠告をちゃんと聞いてたのか!?」
サイが通ると草は揺れ、眼のない口だけの怪物はそれを頼りになおも近づいてきます。
「わかったぞ、サイ。これはゴリアスという生き物だ。本来はもっと小さいはずだけど、それは幼体だったのかも。ゴムのような皮膚で斬撃を通さない。可燃性の体液を持っている」
賢いドラゴンは怪物の正体を言い当てました。
ゴリアスはサイたちを追い込んでいきます。
サイは四つん這いになって、低い丈の草に合わせて這いつくばっていました。
だけどもそれも難しくなりました。草原は開けて草はまばらになり、もう身を隠すことはできません。
広がった視界の先には丸太の柵が見えます。
町はもう目と鼻の先だ。サイは立ち上がり、町に向かって叫んで駆け出しました。
「助けてー」という叫び声にすぐ呼応して、薄桃色の髪がはねます。
マトが柵を飛び越えて、にわかに躍り出ました。
「俺が助太刀するぜ」
サイは逃げたいのをこらえて言います。
「なんで他人の僕を助けてくれるの?」
「これから友達になるかもしれないだろ!」
そう言うなりマトは柄にも刃のついたナギナタでゴリアスの伸び切った胴に斬りつけました。
でもダメです。分厚く弾力のある皮膚に弾かれてしまいました。
「マト! 君に力を!」
丸い竜のマルの吐いた炎をマトはナギナタに伝わせます。
一閃、炎のナギナタがゴリアスの頭部を割りました。
ゴムの焦げるいやな臭いを出しながらゴリアスは燃えていきます。
ふたりと二匹はススだらけになった顔を見合わせて、友達みたいに笑い合いました。