Neetel Inside ベータマガジン
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ミシュガルド一枚絵文章化企画
「僕の私の大事な相棒」(5/29 21:31)

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「おーいマルー、何処行ったんだー?」

 ――ミシュガルドの大交易所にある大通りの道、そこに一人のエルフの少女が、困り顔で声を上げていた。
マトと言うその少女は、何故だか突然居なくなってしまったらしいマルという相棒を探す為、街を歩き回っていた。
そしてピエロの持つ子供達に配る為の風船を、特に赤い色をしたものを一つ一つ手に取って、それを凝視していた。

「いやだから、俺がマルなんだって! てか何で風船の中に俺が居ると思うんだよ!!」

そこでさっきからマルと呼ばれている竜らしき生き物が、マトにそう訴えかける。
しかしマトは、訝し気な顔でその竜の方を見ては、長い溜息を吐くばかりだった。

「オレは特に何も考えてない馬鹿だけど、これは考えなくても分かるぞ。お前はマルじゃない!」

そう断言した後で、先程から困っているピエロの手から赤い風船を一つ引き抜くと、それを見せつけてこう付け足した。

「お前はどう見たって、角と羽の生えたトカゲじゃないか! マルはもっとこんな丸いデブだ!」
「誰がデブだコラァ!!!」

その言葉に、マルらしき竜は怒声を張り上げるが、やがて溜息を吐いて俯いた。
何を言っても、マトに自分がマルである事を信じてもらえない。
 そもそも、何故自分がこんな姿になったのか、覚えてすらいない。
此処にいる自分を探しながら、赤く丸いものに目を向ける相棒の背中が遠のいく。
孤独を感じて、途方に暮れかけたものの、ふと横に建っていた家のガラスが目に入った。
そしてようやく、そこに映る自分の姿が視認出来た。マトの言う通り、これは確かに角と翼の生えたトカゲである。
だが、この姿には見覚えがあった。そしてようやくマルは、自分がこんな姿になった経緯を思い出した。

「マト、聞いてくれ! 俺はこいつにぶつかったんだ! 多分その所為で入れ替わったんだ!!」
「おぉー、マル! 探したんだぞ!」
「それはリンゴだああああああああ!!!!!!」

 かくしてマルは、自分の事を再びマトに証明しようと意気込んだのであった――。

「……えーっと…、本当に、お前はバグなんだよな?」
「だから何度もそう言ってる! 信じ難いだろうが事実だ!」

 ――所変わって、交易所から少し離れた森の中。
そこでは、ゴーグルをかけた藤色の髪の少年が、小難しい顔で丸く赤い竜を眺めていた。

「……何でそうなったの?」
「私にも分からん。だがどうも上手く動けん。これが自分の体ではない事くらいは分かる」

 バグと呼ばれたその竜は、フラフラとその少年の周りを飛びながら答えた。
そして、少年の顔の真正面まで来ると、真剣な顔でバグは問い質す。

「サイ、今の私はどんな姿をしている?」
「え、どんな……」

 サイと呼ばれた少年は、突然そう訊かれて戸惑うが、改めてバグの現在の姿を見つめ、少し躊躇いつつも答えた。

「……赤い、風船?」
「ふ、風船?」
「何かこう、リンゴみたいにまん丸で……」
「リンゴなのか風船なのかハッキリしろ」

サイの曖昧な回答に、バグは呆れつつも耳を傾けていた。
ふと、その赤くて丸いという特徴に心当たりがあったらしく、バグは交易所の方面に顔を向けた。

「どうした?」
「今の私が、お前の言う通りの姿とすれば、私はさっきこの竜にぶつかった」
「えっ!?」

サイが声をかけると、バグはこの森に入るまでの事を思い返していた。
それを聞くや否や、サイは立つ鳥が如く森の外へと駆け出した。

「おい、何処へ行く!?」
「今の話が本当なら、もう一匹はまだ交易所に居るかも知れないんだろ!?」

 一瞬、呆然としていたバグだったが、すぐに我に返ってサイを追いかけた。
元々、薬の材料になりそうな原生植物を探す為の筈が、それとは全く無関係な自分の事で、引き返そうとしているのだ。

「やっぱり、いつものバグじゃないと落ち着かない!」

そんなバグの疑問は、サイのその一言で掻き消された。
 程なくして、サイはバグの体になってしまったマルを見つける事ができた。
未だにマルを探していたマトは、サイの声に振り返って、大きな目を輝かせた。

「マルー! 今まで何処に行ってだんだー!」
「は、放せ! 私はマルではない!」

途端にマルの姿をしたバグに抱きつき、バグは苦しそうにもがいた。
そしてバグの姿をしたマルも、あっと声を上げてバグに近付いた。

「やっぱりそうだ! こいつとぶつかって入れ替わったんだ!」
「お、落ち着いて。今治してあげるから」

興奮状態のマルを宥めつつ、サイはポーチから自作の薬を取り出した。
その薬を使い、ようやくマルとバグは元の体に戻る事ができたのであった。

「ありがとうな! マルを連れてきてくれて!」
「だから! 俺はずっと一緒に居たんだよ!」

 相変わらずのマトに、マルはそう弁解するが、マルも何処か嬉しそうであった。
それから二人と二匹は、交易所にある喫茶店でお茶をしながら、互いの相棒について語り合う事になったのは、また別のお話。

       

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