Neetel Inside ベータマガジン
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ミシュガルド一枚絵文章化企画
「姫と王子」(5/27 11:16)

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「ですから、このまま立ち往生していては、妹の身に危害が及ぶと言っているのですよ」
「そうだな。お前がこのまま姫と会っても危険だな」

 鬱蒼と茂る森の中、そこに住まう獣達は数多く、牙を光らせて餌が侵入して来るのを待っていた。
だが、そんな獣達でさえ、その時は息を潜めて静まり返っていた。
空腹な獣達をも圧倒させる二つの殺意が、そこで渦巻いていたからだ。

「何を仰るかと思えば、僕が危険ですって? 僕はイココの実の兄なのですよ?」

 そう苦笑を漏らすのは、青い翼と尾を持ち、雪の様な白い髪をした少年、シュミット=グエノンである。
貴族を思わせる茶色の背広を着た彼は、先程彼自身が言った通り、同じ色の翼、尾、そして髪と角を持つイココという妹が居た。
 そんな彼の前に立ち塞がるのは、片眼鏡をかけ、黒と紫という毒々しい色の翼と尾を持った、エドワードと名乗る黒髪の竜人だった。
シュミットとは違い頭部の角は尖っていなかったが、明らかに人間のものとは言い難い瞳と耳の形をしていた。

「お前からはド屑の匂いがする。姫に会って、何かいやらしい事を考えるんだろう?」
「いやらしい? いやらしいとは……、このような事を言うのですか?」

 エドワードがそう暴言を吐くと、シュミットは口角を吊り上げた。
途端、シュミットは翼を羽ばたかせエドワードの前にサッと近付くと、その顎をくいと上げ、驚いた目を合わせさせた。

「てめぇっ……!!」

 すぐにエドワードはシュミットの手を弾き、翼を広げて威嚇を始めた。
その様子を見て、シュミットはクスクスと笑うばかりだった。

「あぁ、僕の思った通りだ。エドワード君、君は女の子ですよね?」

そう言われて、エドワードはピクリと眉を動かした。図星だったのである。
 イココに一目惚れをした彼女は、姫として生きるイココに沿う為、女を捨て王子を名乗る事にしたのだ。
無論、その事実を知っているのはイココと、彼女の姉のトワイライトだけである。
他の者に対しては今のシュミットと同様、冷徹な態度を取る為、誰も彼女に近付こうとしなかったのだ。

「ならば本来は、僕の様な雄に沿うべきでは? 同性で交わる事など有り得ないのですから」
「お前の持論になんざ興味は無い。さっさと失せろ」

しかし、エドワードは動揺する様子も無く、逆に更に目をギラつかせてシュミットにそう命じた。
だが、それくらいで彼女が引かない事くらいは、シュミットも予想していた。
それを敢えて口に出したのは、これから出す言葉の為に、事を余計に荒立てる事を避けたかったからだ。

「そもそも、イココが姫だと言うのならば、王子は君ではなくて、実の兄であるこの僕では?」
「……は?」

 途端に、エドワードの細い瞳孔が、また更にすうっと細くなった。
そして、彼女の周りを渦巻いていた殺気に、どっとドス黒さが増した。
やれやれ面倒だ。そう思いつつも、シュミットも腰を引かせる気は毛頭無かった。

「さっさと跪けよ、愚民」

 薄ら笑いを浮かべて、そうエドワードを見下すと、彼女はカッと目を見開き、シュミットに飛びかかった。
シュミットも腰に刺していた双竜の剣を引き抜き、飛びかかるエドワードを迎え撃とうとしていた。
この剣は、持ち主の他者に対する不信感が斬れ味に比例する魔剣であり、現在エドワードに対する不信感は頂点に達していると言える為、とどの詰まりは皮膚の硬いエドワードでさえも簡単に首を刎ねられる程になっていた。
 シュミットの間合いにエドワードが入ろうとしていたその瞬間、二人の間に上からぽとりと何かが落ちた。
二人はそれを見下ろすと、落ちてきたのはイココの持つ三日月のステッキであった。
理解が追い付かず、暫く呆然とそのステッキを見下ろしていた二人は、やがて大きな虫の羽音に気付き、顔を上げた。
すると一本の樹の枝の上で、メガべスパと呼ばれる森に棲まう巨大蜂が、気絶したイココを抱えながら羽を震わせてこちらを覗き込んでいた。
更に状況が飲み込めなくなった二人は、ただただ顔を真っ青にして、メガべスパがイココを抱えたまま森の奥へ消えていくのを見届けてしまった。

「姫ーーーーーー!!!!!!」
「イココーーーーーー!!!!!!」

 ようやく状況を理解し、我に返った二人は、姫を、妹を助けるべく、メガべスパを追う為に声を張り上げ、翼を広げ全力疾走したのであった。

       

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