ベル詩集
“その他”
「風がすべりこむ」
風がすべりこむナイフのように
おまえの肌に切りこむために
おまえの血と肉 肉と皮とを
切りわけ峻別するつもりのように
ヨハネの首と胴体のように
光と闇とが別れ別れなように
少女の赤いくちびるの
上と下とが出会わないように
すべりこむナイフ空を引きつれて
おまえと地上を押しつぶすように
土から生まれた肉なるものを
大地に還すつもりのように
おまえを地面にくっつけるように
庭のキャベツを踏みにじるように
犬と猫とをぺったんこにし
なにもかも地上の汚点にするかのように
降りそそぐナイフ光をまとい
おまえの耳を突きさすように
おまえの過去を照らし出すように
おまえを鋭く問いつめるように
おまえのいや人間すべての
つたない抗弁を弄ぶように
風がすべりこむナイフのように
おまえの肌に切りこむために
おまえの血と肉 肉と皮とを
切りわけ峻別するつもりのように
ヨハネの首と胴体のように
光と闇とが別れ別れなように
少女の赤いくちびるの
上と下とが出会わないように
すべりこむナイフ空を引きつれて
おまえと地上を押しつぶすように
土から生まれた肉なるものを
大地に還すつもりのように
おまえを地面にくっつけるように
庭のキャベツを踏みにじるように
犬と猫とをぺったんこにし
なにもかも地上の汚点にするかのように
降りそそぐナイフ光をまとい
おまえの耳を突きさすように
おまえの過去を照らし出すように
おまえを鋭く問いつめるように
おまえのいや人間すべての
つたない抗弁を弄ぶように
「世の終わりの問い」
夜がなだれをうって押しせまり
ぼくの寝首を掻こうと狙う、
有史このかた鳴り続けてきた
おもおもしい雄叫びをその上に乗せて。
だがなんてたやすい企みだろう! なぜならぼくは
この半時間というものまんじりともせず
来るべき時、ことばが沸き立ち
音たてて体が軋みだす時を
今か今かと待ち受けていた
「答えろ導火線、ぼくは爆発するのか?
――だれのため、なんのために?」
見ろ、窓が砕けて決壊するぞ!
煮えたぎる暗闇は濁流をなして
怯える部屋べやをいっぱいにするぞ!――ところが
この半時間というものぼくは、ヒラメのように横たわりながら
口を開け、胸をはだけて
新しいことばを待ち受けていた
「答えろ導火線、ぼくは爆発するのか?
――だれのため、なんのために?」
横たわるぼくの肉体が暗闇の弾力ではねあがる
食いこませた爪がぼろぼろと剥がれ、
落っこちる電灯に不意打ちをくらう
嘲笑が渦まき、汗じみた寝床をひきたおす
「答えろ導火線、ぼくは爆発するのか?
――だれのため、なんのために?」
途端にぼくは握りつぶされる
骨という骨を砕かれる
屋根と庭とをひきずりまわされ
仮借ない火にくべられる
ぼくの体はよく燃える
「答えろ導火線、ぼくは爆発するのか?
――だれのため、なんのために?」
ぼくの体から上がった煙が空と太陽を封じこめる
灰色の雨が海をぬりこめ、
荒廃の風は悲惨をよぶ
なぎ倒された幾本ものビルが
滅亡を前にこうべを垂れる
「答えろ導火線、ぼくは爆発するのか?
――だれのため、なんのために?」
ひび割れた惑星に亡者がむらがり
裸の肌をなお剥ぎ取りあう
噴きだす黒い血がかりそめの虹をかけ、
共食いに明けくれる歯と歯のすきまから
世の終わりの賛歌が漏れいでる
すると現れたのは一本の縄、
蛇のように身をくねらせながら、
尻についた火を隠そうともせず、
するする地面を這いつつ言うには、
「いかにもわたしが導火線、あなた方にこの悪夢を見せているもの
あなた方が爆発する理由は一つ、諦めなされ
そう望むからそうなるのです
そのように生まれついているのですよ」
夜がなだれをうって押しせまり
ぼくの寝首を掻こうと狙う、
有史このかた鳴り続けてきた
おもおもしい雄叫びをその上に乗せて。
だがなんてたやすい企みだろう! なぜならぼくは
この半時間というものまんじりともせず
来るべき時、ことばが沸き立ち
音たてて体が軋みだす時を
今か今かと待ち受けていた
「答えろ導火線、ぼくは爆発するのか?
――だれのため、なんのために?」
見ろ、窓が砕けて決壊するぞ!
煮えたぎる暗闇は濁流をなして
怯える部屋べやをいっぱいにするぞ!――ところが
この半時間というものぼくは、ヒラメのように横たわりながら
口を開け、胸をはだけて
新しいことばを待ち受けていた
「答えろ導火線、ぼくは爆発するのか?
――だれのため、なんのために?」
横たわるぼくの肉体が暗闇の弾力ではねあがる
食いこませた爪がぼろぼろと剥がれ、
落っこちる電灯に不意打ちをくらう
嘲笑が渦まき、汗じみた寝床をひきたおす
「答えろ導火線、ぼくは爆発するのか?
――だれのため、なんのために?」
途端にぼくは握りつぶされる
骨という骨を砕かれる
屋根と庭とをひきずりまわされ
仮借ない火にくべられる
ぼくの体はよく燃える
「答えろ導火線、ぼくは爆発するのか?
――だれのため、なんのために?」
ぼくの体から上がった煙が空と太陽を封じこめる
灰色の雨が海をぬりこめ、
荒廃の風は悲惨をよぶ
なぎ倒された幾本ものビルが
滅亡を前にこうべを垂れる
「答えろ導火線、ぼくは爆発するのか?
――だれのため、なんのために?」
ひび割れた惑星に亡者がむらがり
裸の肌をなお剥ぎ取りあう
噴きだす黒い血がかりそめの虹をかけ、
共食いに明けくれる歯と歯のすきまから
世の終わりの賛歌が漏れいでる
すると現れたのは一本の縄、
蛇のように身をくねらせながら、
尻についた火を隠そうともせず、
するする地面を這いつつ言うには、
「いかにもわたしが導火線、あなた方にこの悪夢を見せているもの
あなた方が爆発する理由は一つ、諦めなされ
そう望むからそうなるのです
そのように生まれついているのですよ」
「1789年」
弾丸よりも早い布告が
闇夜の矢となり耳目を射抜く、
一夜限りの革命政府の
奇々怪々なる査問会
――進み出よ、首切り役人。血塗られた奉公人、
われらが議会の権限をもって、今宵、貴様に申し渡すが
よいか? おまえの使い古しのハサミは、とっとと、即時、可及的速やかに、
あの《若木》をちょん切ってやらねばならん、
見よ、おまえがなぜかと問う間に、あやつの若葉は早くもそよそよ、
浮ついた気持ちでなびいておる。その匂やかな風こそが
いつか自分を倒木させ、挫折と失態、後悔の原因になるとは
ぞの細っこい茎にうたがいはのぼらぬのだ
――おお首切り役人、善意の猟人、
いつになったらおまえのヤイバは
あの胴のように成長した《幹》を切り倒すのだ?
見よ、おまえがうかうかする間に、あやつの足指は地面に食い込み
昼間の苦悩に根をめぐらして、苦汁を樹幹に吸いあげておる
毒素を夜に持ちこして、後悔でこずえをいっぱいにしておるわ!
――ああ首切り役人、民意の証人、
いつになったら貴様のナタは、
あの重みにしなう《枝》を断ち切るのだ?
見よ、おまえが目移りする間に、あやつの腕は酸っぱい血の束、
ささくれた樹皮が赤くにじんでおる。苦役の記憶がつぼみをほどいて
みるまに花弁がよろぼい出たわ――不幸の蜜の匂うこと!
――おお首切り役人、のらくら者の処刑人、
まさか、貴様のご自慢のギロチンは
あの毒々しい《果実》を切り落とすつもりもないのか?
見よ、おまえがへどもどする間に、生き生きした花びらはどれも萎れはて
後から、むくむく首を伸ばしたのがある――情け容赦ない太陽に照らされ
浮き彫りになった恥辱の滋養が、たわわな首っ玉に結実しよったわ!
どれ、ためしに薄皮を向いてみろ、誰にとっても同情つきない
自虐の甘味がしたたるほどよ!
まったくこいつは慨嘆に堪えぬ
よもや、貴様の手持ちの辞書には
悔悟の一語はござらぬか
断頭台のダントンとても
日没までには落命しよった
夜の安らぎ――それこそ人民に平等の権利と
マクシミリアンはマクシたてた
コルシカ生まれのナリアガリものが
君主の首にナリカワロウとも
ああ、首切り役人、その職務が解かれるなどと
のんきに鎌えてすごすなよ?
さあ、やれ、一息にやれ! 迅雷の決意と
シュツルム・ウント・ドランクの熱意で
昼夜の境に切っ先をすえ、
一刀のもと、行為と反省をつなぐ通路を、
樹木と実りにかかる吊り橋を
通り抜けできぬ状態にしろ。さあ――早く――ただちに――そら!
だが――ああ、しまった、もう遅い! 犬めが奴の首をくわえて
食いちぎって行きよったわ。
なんということ――どうやら種子はばら撒かれるぞ、
べつの夜の果て、朝日のこちら
べつの大地の人ごみのうえに
犬めの糞といっしょにな……
(2020/3/8 Sun.)
弾丸よりも早い布告が
闇夜の矢となり耳目を射抜く、
一夜限りの革命政府の
奇々怪々なる査問会
――進み出よ、首切り役人。血塗られた奉公人、
われらが議会の権限をもって、今宵、貴様に申し渡すが
よいか? おまえの使い古しのハサミは、とっとと、即時、可及的速やかに、
あの《若木》をちょん切ってやらねばならん、
見よ、おまえがなぜかと問う間に、あやつの若葉は早くもそよそよ、
浮ついた気持ちでなびいておる。その匂やかな風こそが
いつか自分を倒木させ、挫折と失態、後悔の原因になるとは
ぞの細っこい茎にうたがいはのぼらぬのだ
――おお首切り役人、善意の猟人、
いつになったらおまえのヤイバは
あの胴のように成長した《幹》を切り倒すのだ?
見よ、おまえがうかうかする間に、あやつの足指は地面に食い込み
昼間の苦悩に根をめぐらして、苦汁を樹幹に吸いあげておる
毒素を夜に持ちこして、後悔でこずえをいっぱいにしておるわ!
――ああ首切り役人、民意の証人、
いつになったら貴様のナタは、
あの重みにしなう《枝》を断ち切るのだ?
見よ、おまえが目移りする間に、あやつの腕は酸っぱい血の束、
ささくれた樹皮が赤くにじんでおる。苦役の記憶がつぼみをほどいて
みるまに花弁がよろぼい出たわ――不幸の蜜の匂うこと!
――おお首切り役人、のらくら者の処刑人、
まさか、貴様のご自慢のギロチンは
あの毒々しい《果実》を切り落とすつもりもないのか?
見よ、おまえがへどもどする間に、生き生きした花びらはどれも萎れはて
後から、むくむく首を伸ばしたのがある――情け容赦ない太陽に照らされ
浮き彫りになった恥辱の滋養が、たわわな首っ玉に結実しよったわ!
どれ、ためしに薄皮を向いてみろ、誰にとっても同情つきない
自虐の甘味がしたたるほどよ!
まったくこいつは慨嘆に堪えぬ
よもや、貴様の手持ちの辞書には
悔悟の一語はござらぬか
断頭台のダントンとても
日没までには落命しよった
夜の安らぎ――それこそ人民に平等の権利と
マクシミリアンはマクシたてた
コルシカ生まれのナリアガリものが
君主の首にナリカワロウとも
ああ、首切り役人、その職務が解かれるなどと
のんきに鎌えてすごすなよ?
さあ、やれ、一息にやれ! 迅雷の決意と
シュツルム・ウント・ドランクの熱意で
昼夜の境に切っ先をすえ、
一刀のもと、行為と反省をつなぐ通路を、
樹木と実りにかかる吊り橋を
通り抜けできぬ状態にしろ。さあ――早く――ただちに――そら!
だが――ああ、しまった、もう遅い! 犬めが奴の首をくわえて
食いちぎって行きよったわ。
なんということ――どうやら種子はばら撒かれるぞ、
べつの夜の果て、朝日のこちら
べつの大地の人ごみのうえに
犬めの糞といっしょにな……
(2020/3/8 Sun.)
「いっかな 癒えぬ 風のきず」
ご存知かな! 吹きすぎる風と諸君との別れしな、
むせび泣く砂ぼこりのゆえんはなにか?
わけしり顔のひるがおの言うには、
「あの風の来し方を問うてみよ」
木枯らしほどにも声をからして
あの風は叫びたがっていたのだろう――
「人間よ、きさまらの行く手から俺は吹きよせた。
未来と呼ばれたそこは水源地だが、
ざまをみろ! 水もなければ水菜も生えない
光もとどかぬ今やこれ砂漠! そこに建つのは、
唐変木(とうへんぼく)やら奴僕(ぬぼく)がぬかずく
啼泣(ていきゅう)にみちたる宮廷よ!
暗渠(あんきょ)といおうか廃墟といおうか、
そこに蟄居(ちっきょ)した能弁垂れどもは
畢竟(ひっきょう)、風化を黙許(もっきょ)するばかり
蹲踞(そんきょ)のかまえで糞など垂れて!
『やや、よく見ると、おぬしは北風、
風雅、風流、ふところ寒きフーテン男
そんな風情のおぬしの見立てで
余らの風向きを占ってみよ!』
『ならば男児として断じてみせよう、
もはやきさまらは、洒落のめしたシャレコウベ
のしあるく熨斗(のし)袋、弑(しい)せらるべき死衣も同然!
斎場行きこそ、これ最上さね』
『おお北風よ! 看破も看破、大寒波だぞ、
稗(ひえ)でも食わされるかのような冷え、
わがヒエラルキーもいまや死に体ぞと
おぬしはみごとに喝破してみせた、だが――
よいか? よそ者、寄らば聞け、
余らが生者にあらずは誰のせいじゃて?
死体かどうかは心がけ次第――しかも
心がころころ変わるとすれば!
よいか、かつてはこの地も潤沢
澄んだ泉を見ずにはすまず、
うるおい伴えば老いうるべくなく、
売るほどの「齢(よわい)」をひとは享受した、だが――
「よわい」心が寿命をのぞんだ。いや、
正確にいうなら不幸なあらそいが
復興不能にこの地を荒らした。
あらまし以下のごとくだが、
まず、不味いことに男がひとり
よくよく我欲のつよいやつと見え、
ジメジメしきった心持ちから
ひとりジメを計った、泉の水の!
先陣切っての占有などとは有史にもない許せんことと、
そやつは早々に“梅毒野郎”と罵られたあげく
梅の木のねもとにウメられてしまった、
今でも聞こえる、あの梅木(うめき)声! だが、
疑惑のタネはもう播かれておった
連中、出しぬけな抜け駆けまた起こると信じ、
やんやのやりとり取り決めのすえ
なんと! いっそ泉をうずめることにきめたのだった。
かくて水源の減衰ははじまり、
川はいよいよカワりはて、生命という名声はついえ、
「投げ川死や」と川に身を投げた者はみな
川底に頭をぶつけ割ることになった、
おお、なればこそのこのなれの果て、
なお『永遠(とわ)とはいずこ?』とトワずにおれぬ
ひとの性(さが)には頭がサガるが
毛のない頭に「無さ毛」は乞うな
こんにち、人は永遠と無縁、だが
所以があるならこれ已むを得ん
この楽園の終焉、まさに未練、だがそうはいっても
言うに言われん――私怨のまねいたこれ無念!』
どうだ、以上が北風の聞いた顛末。
異常とは言い条、すべてこれ真実。
以来、この口をふさぐものとてないが
気分はうつうつとふさがる始末。
ああいつか死が待つこの世界では、
救われたくとも足すくわれよう
暗い影には喰らいつかれよう
しがみつく者は死が見つけよう。
颯爽とさそう晴れやかな春も
窓の向こうでまどろむ夏も
その他いくたの退屈な時日も
時間の実感をもたらしてはくれよう
だがそれとても終わり待つがゆえ。
こころは晴れず、悔やみは止まず、
さりとて天命にはあらがい得ず、
いっかな癒えぬは、おお、この風のきず!」
(2020/5/7 Thu.)
ご存知かな! 吹きすぎる風と諸君との別れしな、
むせび泣く砂ぼこりのゆえんはなにか?
わけしり顔のひるがおの言うには、
「あの風の来し方を問うてみよ」
木枯らしほどにも声をからして
あの風は叫びたがっていたのだろう――
「人間よ、きさまらの行く手から俺は吹きよせた。
未来と呼ばれたそこは水源地だが、
ざまをみろ! 水もなければ水菜も生えない
光もとどかぬ今やこれ砂漠! そこに建つのは、
唐変木(とうへんぼく)やら奴僕(ぬぼく)がぬかずく
啼泣(ていきゅう)にみちたる宮廷よ!
暗渠(あんきょ)といおうか廃墟といおうか、
そこに蟄居(ちっきょ)した能弁垂れどもは
畢竟(ひっきょう)、風化を黙許(もっきょ)するばかり
蹲踞(そんきょ)のかまえで糞など垂れて!
『やや、よく見ると、おぬしは北風、
風雅、風流、ふところ寒きフーテン男
そんな風情のおぬしの見立てで
余らの風向きを占ってみよ!』
『ならば男児として断じてみせよう、
もはやきさまらは、洒落のめしたシャレコウベ
のしあるく熨斗(のし)袋、弑(しい)せらるべき死衣も同然!
斎場行きこそ、これ最上さね』
『おお北風よ! 看破も看破、大寒波だぞ、
稗(ひえ)でも食わされるかのような冷え、
わがヒエラルキーもいまや死に体ぞと
おぬしはみごとに喝破してみせた、だが――
よいか? よそ者、寄らば聞け、
余らが生者にあらずは誰のせいじゃて?
死体かどうかは心がけ次第――しかも
心がころころ変わるとすれば!
よいか、かつてはこの地も潤沢
澄んだ泉を見ずにはすまず、
うるおい伴えば老いうるべくなく、
売るほどの「齢(よわい)」をひとは享受した、だが――
「よわい」心が寿命をのぞんだ。いや、
正確にいうなら不幸なあらそいが
復興不能にこの地を荒らした。
あらまし以下のごとくだが、
まず、不味いことに男がひとり
よくよく我欲のつよいやつと見え、
ジメジメしきった心持ちから
ひとりジメを計った、泉の水の!
先陣切っての占有などとは有史にもない許せんことと、
そやつは早々に“梅毒野郎”と罵られたあげく
梅の木のねもとにウメられてしまった、
今でも聞こえる、あの梅木(うめき)声! だが、
疑惑のタネはもう播かれておった
連中、出しぬけな抜け駆けまた起こると信じ、
やんやのやりとり取り決めのすえ
なんと! いっそ泉をうずめることにきめたのだった。
かくて水源の減衰ははじまり、
川はいよいよカワりはて、生命という名声はついえ、
「投げ川死や」と川に身を投げた者はみな
川底に頭をぶつけ割ることになった、
おお、なればこそのこのなれの果て、
なお『永遠(とわ)とはいずこ?』とトワずにおれぬ
ひとの性(さが)には頭がサガるが
毛のない頭に「無さ毛」は乞うな
こんにち、人は永遠と無縁、だが
所以があるならこれ已むを得ん
この楽園の終焉、まさに未練、だがそうはいっても
言うに言われん――私怨のまねいたこれ無念!』
どうだ、以上が北風の聞いた顛末。
異常とは言い条、すべてこれ真実。
以来、この口をふさぐものとてないが
気分はうつうつとふさがる始末。
ああいつか死が待つこの世界では、
救われたくとも足すくわれよう
暗い影には喰らいつかれよう
しがみつく者は死が見つけよう。
颯爽とさそう晴れやかな春も
窓の向こうでまどろむ夏も
その他いくたの退屈な時日も
時間の実感をもたらしてはくれよう
だがそれとても終わり待つがゆえ。
こころは晴れず、悔やみは止まず、
さりとて天命にはあらがい得ず、
いっかな癒えぬは、おお、この風のきず!」
(2020/5/7 Thu.)