Neetel Inside 文芸新都
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要するに短い話なんだよ
[52]古本屋巡り

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 私は今、“古本屋巡り”をしている。辿り着いたのは、世界に一つだけの、とても大きな“古本屋”。
 引き出しに入れられている古本もあれば、新品同様の古本が大きな本棚に並べられていたり。新しいものもあれば、比喩表現などではなく、文字通り風化しそうになっているものまで様々。
 そんな知識や情報が詰まっているこの場所で、私は一人、今一番欲しい古本を探していた。……だが、と。膨大な古本の量を見て、私は頭を悩ませる。私は、自分が欲している古本の場所を知らない。ただ広いだけのこの古本屋で、たった一つの古本を見つけるのはどれほど大変なことだろうか。直感を頼りに手に取ってみた古本を見てみれば、『車のキーは階段脇の鍵入れ箱』などという、わけのわからない題名。とても近いようで遠いその題名に私は今日何度目かの落胆を抱きながら、手に取っていた古本を無造作に放り投げる。
 はあ、と重い溜め息を一つ。
 歩けど探せど手に取る古本はまるで的を射ない。まるでアタリの本なんて無いのでは、なんて不穏なことも考えてしまう。そして、それを考えていたところで、不意にもう少し深く考える。私は“古本”を探しているが、はて、私の探している古本の題名はなんだっただろうか。うんうんと頭を捻りながら、なんとか思い出そうと試みる。けれども、思い出そうとすればするほど得るものと言えば不安ばかり。
 一向に思い出す気配のない頭に、私は自分のことながらも憤慨する。
 私はこの古本屋に辿り着くまでに、何件かの古本屋を回ってきた。しかし、店主達は声を揃えて“あそこにしかないよ、ここにはあるわけがない”という一点張り具合。確かに全ての古本屋からああまで同じことを言われてしまうと、私も自分のふがいなさを認めざるを得ない。……だからこそ、ここにあると私は確信していた。
 だというのに、その私自身が古本自体がなんなのかを思い出せずにいるときた。どうしようもない、生活や金銭にルーズな私の頭は、なるほど、やはりとても“ルーズ”な作りらしい。自己擁護が混ざった事を考えながらも、私は必死に思い出そうと頭を穿り回す。その度に余計なものまでごちゃ混ぜになっている気がするが、そこは仕方がない。
 ……こうして、数時間の後に思い出した言葉が一つ、“財布”。これは必ず題名に含まれているはずだと、自信が沸かない頭を説き伏せ、自分自身を納得させる。ここで動きが停滞してしまうと、“響いて”しまうからだ。止まっていた足を、やっとのことで動かす。的が絞れただけでも良い方だ。私は手始めにすぐ傍の本棚に手を付ける。
 しかし、こうやって探していて思うのは、せめて五十音順に並べておいて欲しいということ。まるで規則性のない本の並びも、こんなに時間がかかっている原因の一つだろう。全く以って、この古本屋の主人は“ルーズ”だ。
 時間にして二時間が経とうとしていた頃、ついに私は目的の古本を見つけた。偶然にも手にした古本は、なるほど、どこからどう見ても目的の物に違いない。

『最後に財布を置いた場所』
 
 間違いない、私が探していたのは間違いなくこれだ。私は見つけられたことに安堵しながら、本と言うには薄すぎる、その古本を開く。







「え、じゃあ見つかったんだ、財布」
「まさか上着のポケットに入っていたとは思わなかった。“ど忘れ”ってのは怖いもんだね」
 私は心配して来てくれた友人に対し御礼を言いながら、つい先程見つけた財布を片手に苦笑いを浮かべる。
 記憶力には自信があるほうだったが、今回のことで深く学んだ。頭の中も現実も、少しは整理しなければいけないな、と。

       

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