Neetel Inside 文芸新都
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どこにもいかない
【21年06月号】東京中野編(2021/06/19)

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 東京、中野。
 思いがけずネットで見つけた、二ヶ月で家賃三万三千円のシェアハウスに飛び込んだのは春の終わりのこと。案内された部屋は、カプセルホテルのような枠組みを木でしつらえたもので、開口部のカーテンを締めてプライバシーをギリギリ保てているようだ。火事になったらきっと良く燃えやすそうだ。寝室は二段になっていて、案内を受けたマネージャーから上段にするか下段にするか聞かれ、下にすると答えた。それからはずっとペタペタと地面を打つ居住者のサンダルの音を聞くことになった。
 年季の入った4階建てのビルすべてがシェアハウスのものとなっていて、玄関から大量の靴に驚かされた。2、3階が寝室となっていて、四階は台所やリビングとなっているものの、知らない他人や外国人が怖くて数度しか足を運ぶことができなかった。
 春の匂いに誘われるがまま原付バイクで福岡から東京まで乗り付けたものの、春先に訪れる悪魔のような自律神経の不調によって、道中睡眠をろくに取れず、食欲がないのをゼリー飲料でごまかすような毎日だった。
 最寄り駅は丸の内線の中野新橋駅。丸の内線の支線という形で、中野坂上駅から枝分かれをしていた。有名なサンプラザやブロードウェイのある中野駅からはかなり南に位置しており、新宿都庁が見える住宅街としての位置づけが強かった。
 中野新橋駅と中野富士見町駅の短い駅間にコンビニが5件程度あり、業務スーパーや100円ローソン、まいばすけっと、ダイソーなどもあって手が届く範囲で色々なものが揃いそうだった。
 シェアハウスの近くに都内では珍しく駐車場のあるファミリーマートがあり、その2階がフードコートになっているので、いつもそこに入り浸っていた。都内は座ろうとすればお金がかかるような場所ばかりなので、近くにこういう場所があるのは幸運なことだった。

       

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