Neetel Inside ニートノベル
表紙

エスト
サヴァンズリーズニング

「キシェ、どうだったかな。」

少年の眠っている部屋から出てきたキシェとカヨに、ディルトレイが話しかけます。
部屋からは、何とも言えないにおいがしてきます。
キシェは嬉しそうにニコニコしてディルトレイに駆け寄り、
ぴょんぴょんしながら腕にしがみつきます。

「こらキシェ、ひっぱらないの。ディルトレイ様の腕が取れたらどうする。」
「取れたら…ね、カヨがくっつける」
「あはは、私頼みかぁ!
 …じゃないの、ひっぱらないの!」

姉弟のように会話する二人に、ディルトレイは微笑みます。
キシェは目をぱちぱちさせて、嬉しそうに笑顔になります。

「あの、あのね、ディルトレイ、うんとね、すごいんだよ、ボロボロだった。ね?カヨ」
「はい。文字通りボロボロでした。」
「ほう?」

3人で白い壁の長い廊下を歩いて、足音が響きます。
キシェはスキップするように跳ねながら少し前を進みます。

「どこもあちこちね、ストレイン損傷や筋断裂…筋肉の、筋肉の断裂…肉離れが発生していて、
 身体中すごく、痛かったと思う。」
「…ひどかったのは筋肉だけかな?」
「うんうんうん、そうだよ。内臓はきれい。」
「そうか、じゃあ、キシェが思ったことをゆっくり聞かせてほしいな。」

キシェは跳ねるのをやめ、ブツブツつぶやいて、少し考えているようです。

「あのね、あの子の観察をしていた時、頭が痛い痛いとどたばたしたし、
 パニック症のような、感じもした。」

突然、何かスイッチが入ったように、静かにすべるように喋り始めます。

「えっとね、”誰かのために、緑の目を探さなければならない”ということ、と、
 イーギルの言われた”邪魔者は殺していい”って言葉が、不安障害を引き起こすほどの効力があった。
 きっとただの命令なんかじゃないんじゃないかな、じゃないんじゃない…へへ。」

自分の言った言葉が面白かったのか、すこし笑ってまたすぐに無表情で考える風に黙ります。
あふれ出てくる言葉に、少し後ろを歩くディルトレイとカヨは相槌もうたずに聞いています。

「解剖の時、リンゴをお砂糖で煮た時のような、人工的な甘いにおいを感じた。
 特に口から感じた。このにおいのするものを経口摂取していたためだと考えられる。」

言葉はまだ、津波のように押し寄せます。
 
 
「…ディルトレイの宿題、”シーシアのハンカチ”についていたものと、
 あの子からしたにおいは同じに感じた。
 ぼくがシーシアのハンカチから分析した答えと、あの子の摂取したものの成分が一緒ならば、
 その経口摂取していた何かは、依存性が高く、傾眠作用があるもの。」
「…そうか。」

ディルトレイは小さくこたえます。
キシェはまだ続けます。
考えることがまるで強いストレスのように、右手で自分の髪をぎゅっと握っています。

「でも、あのものすごくひどい、筋肉損傷と、苦しんでいた頭痛がどうして、
 どうやってなったのかわからない…
 あの細い身体で戦ったから筋肉損傷をおこしたならわかる、でもすごくひどすぎる。
 そもそも、どうやって、あのイーギルに対抗できた?
 魔物との交配や合成、キメラにより一時的に?
 彼を解剖する限りは人間だったけど、血液検査の結果によっては…けど…
 カヨ、ホムンクルスの可能性は…?」
「いや、私は否定するよキシェ。ホムンクルスだとしたら人間として完璧すぎる。」
「ホムンクルスと人間をキメラとした場合は?」
「キメラにしたとしても、筋肉の増強ができるとは考えずらいなあ…。」
「カヨがいうなら、違う…」
「でも、一時的に…人に、魔物のような強大な力を付けさせるということなら…」

カヨは深く考えるように黙り込み、キシェはまた、ゼンマイが巻かれたように話し始めます。

「あと、あの子は、緑の瞳を探しているようだった。
 それがすごく、すごい強いあの子の指名だったみたい。
 ゼルのような透き通った、磨いたエメラルドのような瞳は世界でも希少で、
 ”願い事をかなえる””魔除けになる”という迷信で、”緑目狩り”に遭った。
 これはわからないけど、緑の目を探している人は願い事をかなえたかった?」
「…緑目狩りか。」

昔を思い出すようにディルトレイがぽつりとつぶやきます。
キシェがこちらを振り向かないまま、立ち止まります。

「ゼルの瞳、ぼく、大好きなんだ。いっつもね、ちゃんと、ぼくをみてにこにこ聞いてくれる。」
「ああ、そうだね。」

 病棟の受付のあたりについて、キシェが、大きくため息をつきました。
彼の、”天才”の側面は閉店です。
 くるりとこちらを振り返って、先ほどとは別人のようにまた笑顔を見せます。

「ねえ、お腹すいたね!今は何時?」

カヨがああ、と言って腕時計をみると今度は、しまった、という顔をします。

「…ごめん、もう14時だ。」
「ええ!!!」

キシェは大きな声をあげて、ひどく悲しそうな顔をします。

「ま、た、またみんなとごはん食べられなかった!もうもう、何回目?
 マージュとずっと会ってない…!」
「夜は絶対!絶対時間守るから!ごめんキシェ!」

 昨日は朝から王の宿題をこなし今日の朝までかかり、
今日のお昼は解剖で円卓たちと食事のとれなかったキシェは
あからさまに肩をガックリと落としますが、ハグをするような形でカヨがなだめます。
「キシェ、カヨ、夜はイグジクトとマージュは来客対応で会えるのは明日となりそうだ。
 …それはさておき、私も昼食を取り損ねてしまったから、一緒にラボで何か食べよう。」
「で、でもディルトレイ様、私はもう円卓では…」
「かまわないよ、カヨはキシェの一部のようなものなのだから。」

穏やかな笑顔を向けるディルトレイの顔をみて、カヨは照れるように笑います。

「今日はディルトレイも一緒?」
「うん、一緒だって、よかったね。」

一気に、キシェもぱあっと明るい笑顔に変わります。
3人はラボに向かいます。
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