不人気叩かれ文芸作家の僕がプロデビュー…
19・ママがライバル!?
次の朝、僕宛に宅急便が届いた。
開けるとスーツ一式と革靴。
カミナリ大賞授賞式用にと澪奈さんが用意してくれたものだ。
早速着てみると、さすが採寸しただけあって体にピッタリ。
澪奈さんにお礼のLINEを送ると即「#イケメン格闘家って先生ですよね?」と返ってきた。
僕はすっとぼけて
「知りません、違います」とだけ答る。
それから澪奈さんからの返信は無いので、信用してくれたのか、仕事でそれどころでないのか……
自分のスーツ姿を見たいのだけど大きな鏡を持っていない。
廊下に出てみた。
エリナは姿見は持っているだろうが……もし僕の姿を見ると大騒ぎしそうだし、打ち合わせは昼からの予定なのでまだ寝ているのかもしれない。
こっそりと階段を降り、桜子さん達とも会わずアパートの敷地から出た。
どこかのガラスか何かを鏡にして見ればいい。
コスプレしてる人の気持ちが少し分かったような気がする。
何だか恥ずかしいような、でも見せびらかしたいような不思議な気持ち、服でこんなに気分が変わるなんて!
思わず駅前商店街まで散歩してしまった。
ショーウィンドウにうつる自分は……アチャーやはりスーツに着せられている感が酷い。
履き慣れない革靴で足も痛くなり始めたし、そろそろ帰ろうとすると向こうから凄い美少女が歩いてきた!
白と水色を基調とした控え目で上品なロリータ風ファッションを着こなし、サラサラの黒髪を小さなボンネットで包んでいる。
儚げな透明感があり、まるでお人形さんのようだ。
こんな素敵なコ、ここじゃ見たこと無い!! 普段からいるなら絶対に話題になっているだろうし、モデルさん?レイヤーさんの撮影会とか? でも……どこかで見たこと……うーん見覚えがあるような無いような……
目線を外そうとしたがどうしても記憶に引っかかる顔に引き寄せられる。
向こうも僕をじっと見つめながら近づいてくる。
すれ違う瞬間までお互い見つめると
「あっ、楓ちゃん!」
「あ、お兄ちゃん!」と同時に声をあげた。
僕は
「え!見違えたよ、凄い!どうしちゃったの?」と言った。
「エリナちゃんから服をもらって、お化粧してもらって絵のモデルになったの。エリナちゃんは絵の仕上げをするって言うからちょっと出かけてたの」
「お化粧したのか、だから大人っぽいというかお姉さんぽいというか最初全然分からなかった!ホントにキレイだよ!!」
いつものランドセルを背負って元気いっぱいの姿も美少女だけど、それとはまた大違いだ。
「お兄ちゃんもスーツ姿もヤバイエグだよ!!最初全然分からなかった!
どうしたのそれ?」
僕は理由を話した。
「へー授賞式っていつ?」
「今週末だよ」
「そうなんだ……何かお兄ちゃん遠い人になってしまいそう……」
「そんなわけないよ、 別に何かが変わるワケじゃないし」
「なら安心。
ねぇねぇお兄ちゃん、手を繋いでいい?」
「うん。久しぶりだね、こうやって楓ちゃんの手をひいて家に帰るの」
さくら荘に引っ越して来たばかりの頃はよくせがまれてこうやって散歩したっけ。
それにしても本当に大きくなったな、楓ちゃんもいずれ中学生になって、高校生になって卒業して……それまで見守っていたいな。
あ、でもそのくらいの年齢になると僕なんて「キモ、こっち見んな」なんて言われるのかな? 寂しいけど、でもそれはそれで正常に育っている証拠だしいいのか。
世間のお父さん達はこんな気持ちなのかな……
「ねぇお兄ちゃん」
「ん?なに?」
楓ちゃんはぼくの手を引いて、脇のお店のミラーガラスのドアまで持っていった。
手を繋いだままの僕たちが正面にうつっている。
「お兄ちゃん、あたし達……周りからどう見られてるかな?」
どうって……うーん、兄妹? でも似てないし、そうだな……
「レンタル彼女で美少女ちゃんを頼んだお客さんとか?」
「なにそれ……本気で聞いてるの! 変な冗談言わないで!!」
冗談じゃ無いんだけど……
「あたしね、今日歩いていたら色んな人から何度も見られたしナンパもされたよ。たぶん高校生くらいに思われたみたい」
「そりゃこんなにキレイなら……あ、でも知らない人について行っちゃ絶対ダメだよ、いま声かけ事案多いみたいだし」
「うん…その…だから……
あたし割と可愛い方だと思うの」
「割りとじゃないよ、明らかに美人さんだよ!」
「だから、あたし、お兄ちゃんとそれなりに釣り合って見えないかな?
恋人同士って……見られてない……かな?」
こんな陰の者とじゃ無理があるって……と否定しようとしたけど、楓ちゃんはミラードアごしに僕を真剣に見つめている。
子供の思い込みとはいえ否定しちゃいけない気がして
「そ、そうかも」とだけ答えた。
楓ちゃんはじっと前を見つめ静かに
「あたし決めたの……ママのライバルになる!」とハッキリと言った。
「は? え、な……何言ってんの?」
「お兄ちゃんの彼女になりたいの。今よりずっと可愛くなって綺麗になる。
ママの子だからおっぱいだって大っきくなるハズだし」
う、意識してなかったけどこうして見るとすでに小学生らしからぬものをお持ちで…
「いや、楓ちゃん。あのね…」
「誰にも負けたくないの。特に…澪奈さんにはお兄ちゃんを取られたくない」
「そんな毛嫌いしないでよ。いい人なんだよ」
「嫌いとかじゃ無い。
今日お兄ちゃんのスーツ姿みて気がついたの。
澪奈さんと初めて会った時から、お兄ちゃんとお似合いだなって感じてて…
だからなんか悔しくて意地悪なこと言ったの」
一流出版社の美人編集者さんと陰キャフリーターはお似合いじゃ無いって……
「あたしじゃなくてママを選ぶのは仕方ない。けど他の人はイヤ!
あたしかママを選んで貰うよう頑張る!!
お兄ちゃんのためなら何でもするよ、がんばってその…セックスだってフェ」
僕はあわてて楓ちゃんの口を手で塞いだ。
「あばばば楓ちゃんがそんなこと口にするとぼく泣いちゃうよ!!!
あの気持ちはすごーく嬉しいんだけど……楓ちゃんを小さな頃から見てるから…そのぉ」
「じゃパパになって!」
ギィ
その時、ミラードアが開いて
「ちょっとよろしいですか?」と奥から野太い声がした。