バスルームに希春を残して、僕はリビングに入った。
ううっ、とは言えどーしよう? どーしよう?
そうだ! 澪奈さんに何かお使いをお願いしていったん部屋から出てもらおう……
澪奈さんがリビングに入ってきた。
「みみみみ澪奈さん!
すすスミマセン、ちょっと寝室で仮眠とってましたたたた」
「なんだそうなんですか、心配しました。
朝早かったですからお疲れでしょう」
「おおおおお早いお帰りですですね!!!」
「警察に相談したら個人情報の閲覧禁止処置をしてくれるそうなので時短できまして」
「そそそそーですか。
あ、あの、ちょっと欲しいものがあるので出来たらお使いを……」
「分かりました。
その前に、犯人がアパートに放火する事も考えられるので用心のためにみんな連れてきちゃいました」
澪奈さんの後ろから、桜子さん楓ちゃん、エリナに愛理が入ってきた!!!
や、ヤバイよ……
「牧野さん、お邪魔します。
この度は大変でしたね」
「お兄ちゃん、#イケメン格闘家なんだから予告犯なんてやっつけちゃってよ」
「ダーリン素敵な所ね、あたくしたちの愛の巣にピッタリ」
「牧野クン、お使いならウチが行くよ。
いやー桜子さんの家に泊めてもらってて良かったー」
詰んだ……
完全に詰んだ……
「いや愛理、大丈夫……
急にいらなくなっちゃった……」
ど、どーしよう!?
どーしたら??
エリナは窓からの風景を眺め
「きゃあぁダーリン!!
ベイエリアの風景がめっちゃ似合う!
ヤバエグ!!写真撮らせて!!!
後で送ったげるから!!」とはしゃぐ。
澪奈さんは
「そ、そうね宣材用にあたしも。
牧野先生、ここを活動拠点にしませんか?
イメージ的にもピッタリですよ!!」
パシャリコパシャリコ
「やめてくださいよ、僕は和室界隈の人間で、今のアパートが一番落ち着くから」
「お兄ちゃん、やっぱりウチが良いよね!
あたしかママと結婚しても引っ越しなんてしないでよ」
「こ、こら楓!!なんて事言うの!?
いえ牧野さん……もっと美味しいお料理作りますから引っ越しだけは止めて下さい……」
「牧野クンはウチと結婚するの!」
みなが僕を囲む。
その時、後ろから
「ヒツジくんっ!」と声がした。
振り向くと……希春が立っていた。
しかもおブラおパンツ姿で仁王立ち。
「「「「「え!藤咲 希春!!!!!」」」」」
「き、希はr……!」
エリナは
「え!? ちょっとダーリン!
なんで下の名前で呼びあっているの!?!?」と叫ぶ。
澪奈さんは
「牧野先生!!
どどどういう事なんです?
藤咲 希春が寝室から下着姿で現れるなんて!!!」と言ってにらむ。
桜子さんは
「ま、牧野さんだけはって信じていたのに……」と泣き出すし、楓ちゃんも
「お兄ちゃんヤダー!!」とつられ泣き。
愛里は
「ウチのおっぱいポロリを返して!!」とへたり込む。
希春は
「で、ヒツジくん!!!
この女性軍は何なの?」と冷めた声で言う。
こ、殺される! 今日が僕の命日!?
僕は覚悟を決めて皆を紹介した。
希春は憮然とした表情のまま
「先程の皆さんの会話を聞かせてもらったけど、全員ヒツジくんの事が好きなんです?」と訊いた。
5人が同時に
((((( コクリ )))))と頷く。
「そう……あたしも……ヒツジくんの事、大好き」と希春は続ける。
「そりゃヒツジくんは才能もあってイケメンだからある程度モテるのは覚悟してたけど、こんなにライバルがいるなんて……」
エリナは両手に腰を当てて胸を張り
「ふ~ん。
それで恋人気取りであたくしのダーリンにつきまとっていたワケ?
言っとくけどドライブデートしたのあたくしの方が早いんだからね!!」と言う。
いやエリナとは軽トラで買い出しに行っただけだよね……
「初めてかどうかより、ヒツジくんが誰を選ぶかが問題でしょ」
「あたくしに決まってるでしょ、こんな日本人離れしたスタイル放っておく方がどうかしてるし」
「でもおっぱいはあたしの勝ちね」
「ぐっ、あたくしだって標準よりおっきいの!
うー、でも澪奈のロケットおっぱいほどじゃないでしょ!
それに見てよこの桜子さんの魔乳!デカくてこんなに柔らかいんだから」と桜子さんの胸を勝手に揉みしだく。
「ひゃ……エリナちゃん……や、やめぇ……」
「あはははは♪」
突然、希春は笑い出した。
「ふー。
でもモテる人を好きになるのがこんなに辛いなんて初めて知った……
確かに突然ヒツジくんがあたし以外の誰かを選ぶと傷ついちゃうな」
「希春……」
「ヒツジくんがさっき言ってた事、ようやく理解できた気がする。
他の好きな人の気持ちも理解しないとダメなんだよね」
「希春……!」
テッテケテッテケテッテ
テッテテッテテー
澪奈さんのiPhoneが鳴った。
「お疲れ様です、編集長……
え! 予告犯が捕まったですって!!」
テレビをつけると、ちょうど速報を伝えていた。
犯人はなんとカミナリマガジン編集部の女性編集者で、僕のファンだという。
希春との一件を知って新都社に犯行予告を書き込んだという。
「ええ!!
希春のファンじゃ無かったの?」
希春はイタズラっぽく微笑んで
「ヒツジく~~~ん♪
好きな人の気持ちも考えてあげないとダメじゃ無かったの?」と僕を小突いた。
「ハ……ハイデス」
澪奈さんは立ち上がって腰を90度に曲げて頭を下げた。
「す、すみませんウチの編集部員が大それた事をしでかしまして……」
「澪奈さんのせいじゃないからそんな謝らなくても……
僕は別に気にしてませんから」
希春は
「いーえ!
当然、監督責任に問われるべきよ!!
社長と編集長を呼び出して!!
損害賠償を請求するわ」と腕組みをした。