Neetel Inside ニートノベル
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不人気叩かれ文芸作家の僕がプロデビュー…
49・楓ちゃんとのキス…

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日曜の朝。

「じゃあ真琴ちゃんの服を買って来ますから、お留守番お願いしますね」と桜子さんが真琴とエリナと共に訪ねてきた。

都心にはお胸の大きな人専門の服やら下着やらの店があるらしく、そこに買い出しに出かけるという。

「台風来てるしこんな日に行かなくても」と僕は言った。

エリナは
「マコちんブラ一枚しかないし、それに育ち盛りだからサイズが合わなくなってるし」と言う。

真琴が
「お父さんにそんな事言うの……やめ……恥ずかし……」と顔を両手で覆う。

エリナは
「あたくし下着選びの天才だから任せてちょうだい。はぁそれにしても、これからまだまだ育つなんて羨まし」と言いながら真琴の背後から胸を揉みしだく。

「ッハァ……エリナさん……ダメェ……」真琴は耳まで真っ赤にして涙目をとろんとさせている。

僕は
「エリナ!それセクハラ!!!」と引き剥がした。

桜子さんは
「夕方から雨になるみたいだから、なるべく早く帰ってきます」と言って三人は出かけて行った。

楓ちゃんは学区の清掃活動に出かけて昼まで帰って来ない。

朝は晴れていたのに10時を過ぎるとみるみる雲が広がり小雨が降りだした。

「え?もう」

お昼前になると雲は厚みを増して

ザァァアアアァァァドドドドド!

とバケツというよりプールをひっくり返したような猛烈な豪雨となった。

「やばいよ!!!」

天気予報を確認すると台風の影響で線状降水帯が発生して降雨量は100ミリを越えるという!!!

外を見ると既に道路が川のようになっている。

桜子さんから電話がかかった。

「牧野さん、ごめんなさい!
まだ都心なんですけど、この雨で崖崩れが起きて電車が運休になったんですよ……
それに道路も寸断されてタクシーも使えなくて。
それで今日は帰れなくなっちゃったんです」

「え!とにかくどこか安全なホテルにでも泊まって下さい。
アパートの方は僕が責任もってみますから」

「ええ、すみませんが楓をよろしくお願いします」

「今から学校まで僕が迎えに行きますから心配しないで下さい」

電話を切って、着替えようと立ち上がると急に頭がクラクラして思わずベッドに倒れ込んだ。

フラフラと天井が回るような感覚に襲われる。

テーブルに置いたスマホを取ろうとしたが体が動かない。

とんでもない疲労感と脱力感に襲われ、声をあげようにも喉がかすれてうまく出ない。

そこで僕の意識は途絶えた……



ピンポーンピンポン

ドンドンドン!!!!

「お兄ちゃん!!
どうしたの? いるの?」

外から楓ちゃんの声が響き、ガチャリと鍵が開く音がしたかと思うと楓ちゃんが飛び込んできた。

「か……楓ちゃん……ごめん。迎えに行けなくて」

「ううん大丈夫。メイちゃんのお母さんの車で送ってもらったから。
それよりお兄ちゃん!どうしたの?」

起き上がろうとしたがやはり首から下に全く力が入らないし、声もかすれて上手く話せない。

「ハァハァ……な何か体が……動かな……」

「どこか苦しいの?」

「体全体が……ダルくてキツくて……
ハァハァ……伝染する病気だったら大変だから……一緒にいちゃ……ダメ……帰って」

楓ちゃんは前髪をあげて僕の額にあてる。

「すごい熱……! 救急車すぐ呼ぶから、安心して!!」そう言うとスマホを手にした。

「うそ……お兄ちゃん!
圏外になってる!ネットも見れない」

「こ……固定……電話は?」

「こっちもダメ!ぜんぜん通じない!」

スマホも固定電話も同じキャリアだ。ひょっとして……

楓ちゃんがテレビをつけると
「速報です。
ただいま豪雨の影響とみられる大規模な通信障害が発生している模様です。
テレビ、ラジオを常につけて情報の収集を……」

~プツン~

テレビが消えたかと思うと電灯も消えた。

「お、お兄ちゃん!!どうしよう停電!!」

昼すぎなのに部屋は夕暮れの暗さだ。

「ひ避難袋に……携帯ラジオが入ってるから……」

楓ちゃんがラジオをつけると、この一帯に避難勧告が出ていた。

うう、こんな最悪な状況なのに楓ちゃんを守れないなんて……

「大丈夫!お兄ちゃんは楓が守るからね!!」と楓ちゃんは僕を励ます。

自分が不甲斐なくて泣きそうになった。

「そういえばお兄ちゃん、最近食欲無かったし昨日も晩御飯ほとんど食べなかったけど、いま食欲は?」

「いい……欲しくない……」

「飲み物は? 唇カサカサだよ。ノド乾いてる?」

「ウン」

「待ってて」

楓ちゃんは冷蔵庫からポカリを取り出すとコップに注いでストローをさした。

「とにかく水分補給しなきゃ」

僕は何とか首を横に向けストローに口をつけたが、息が続かなくて口まで吸い上げれない。

「ハァハァ……ダメ……飲めないや……」

うう、このまま死ぬのかな……

「お兄ちゃん、しっかりして!
絶対に元気にさせるからね!!」

そう言って楓ちゃんはポカリを一口含み、僕の頬をそっと両手で包み込んだ。

そして震える唇を僕に重ねた……

       

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