Neetel Inside ニートノベル
表紙

不人気叩かれ文芸作家の僕がプロデビュー…
5・美人担当者さんと初顔合わせ

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そこにはスーツに身を包み、紙袋を下げた若い女性が一人いた。
深々と頭を下げ、名刺を差し出している。

僕は
「た、田所さん……ですか?」と聞いた。

その女性が長く美しい黒髪をパッと踊らせて顔を上げた。

秀でた額、意思の強そうなキリッとした眉、理知的な大きな瞳、健康的に日焼けした肌……とんでもない美人さんだ。

「牧野先生!
はじめまして!田所 澪奈(みおな)です!
お会い出来て光栄です!
この度は玉稿をご応募頂き、誠にありがとうございました!」

僕の両手を握ってグイグイ近づいてくる。

柑橘系の匂いが鼻の奥をくすぐる。

女の人ってこんないい香りがするのか…クラクラする。

「いえ…あぁ、こちらこそ…素晴らしい賞を頂いてしまって誠にゴメンナサイ」

「あんな素晴らしい作品を書かれる方とようやくお会いできて感激です!」

「一応確認ですが、どなたか別の方の作品違いと言うことは無いですか?」

「無いですっ!!(0.5秒)」

「ぇっと、あの。ま、こんな所では何ですからどうぞ」

と僕は部屋に招き入れた。

いや、女性をいきなり部屋に招き入れるのは非常識すぎじゃないか。

どこかカフェなりで話をすべきじゃないかと考えたが、ここは山を切り開いた古い住宅街の一番奥なのでカフェなんてものは無い。

向かいに児童公園があるが、そこのベンチでというワケにもいかない…などど考えていると……

田所さんは嬉しそうに
「はーい失礼します!」とパンプスを脱いでさっさっと入っていった。


九畳間と四畳半キッチンのアパート、家具は食卓とベッドとこたつテーブルのみ。

わびしい一人暮らしの部屋に不釣り合いな華やか美女。

チラッと目に入った脚は美しい曲線を描いてる。

いけない…僕は本能に逆らって視線を外した。

田所さんは僕のベッドを見つめ
「失礼ですが、どなたかとお住まいで?」と聞いた。

ベッドはキングサイズで9畳間を占領している。

僕は
「いえ、一人住まいです。
シングルベッドを注文したら間違えてそれが配達されて、返品しようと連絡したらそこの家具店が倒産してたんですよ。
だからしょうがないのでそのまま使っているんです」と説明した。

「そうなんですか、安心しました。
最近は女性関係で破綻するクリエイターが多いもので」

「そうなんですか、、まぁ僕に限っては大丈夫です。
あの、お茶を入れますので、どうぞそちらにお座り下さい」とベッド前のこたつテーブルを手でしめした。

「大事なお話がありますのでお茶は結構です。
先生、こちらにお座り下さい」

体育会系なのだろう気持ちいいくらい断定的だ。

僕はおとなしく
「はい」と従った。

高圧的ではないが、何か従わざるを得ないような力強さがある。

田所さんは
「先生の作品は傑作です!日本文学の転換点に数えられる作品だと考えております!」と力を込めて言う。

「嬉しいですけど……大袈裟ですよ。
それに先生なんて、やめて下さい」

「いえ、新都社にご投稿中の作品も拝読いたしましたが、こちらもさらに素晴らしいです!
先生の才能を確信いたしました!」

「は…はは。そ、それはどうも」

面と向かってそんなに誉められるのは生まれて初めてで、恥ずかしさで体がガチガチに硬直してしまう。

「この才能を逃したとあっては編集者の名折れです!
ぜひ弊社と専属契約をお願いいたします!」

「専属契約って……あの少年ジャンプみたいな?
小説の世界でもあるんですか?」

「滅多にありません。
それだけ先生は特別なのです!
他社も『雲海のフーガ』の版権は絶対に狙って来るでしょう。それを逃せば次回作を……というように。
とにかく先生を最初に発見し、育てていく力が一番あるのは弊社だけです。
ですから、カミナリ大賞の規定を強引に曲げて、今回の受賞となりました」

なるほど、僕を囲い込みたくて次回応募作品に回さなかったのか…僕を買いかぶりすぎている以外は納得がいった。

田所さんは
「ですから、これからは弊社でのみ作品を発表していただきたいのです!」と言うと紙袋からビニールに包まれた束を取り出し
ドン!ドン! っとテーブルに積み立てた。

「契約金として3年間で1億!
ひとまず手付けとして今日は2000万ご用意いたしました」

一万円札の二塊が重なっている……さすが現金は迫力が違う。

っていうかこんな大金、紙袋で持ち運んでいいの?

「そして印税は紙媒体は売り上げの15% 。電子書籍は50%。コミカライズの際には10%を考えております。
これは他社に絶対に負けない破格の条件だと自負しております。
いかがでしょうか!?」

「た、田所さん…は、離れて離れて」

気がつくと田所さんはテーブル越しにのし掛かるような体勢だ。

荒く甘い鼻息がおでこかかり、僕の鼻先に突き出たお乳が当たりそう……

       

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