不人気叩かれ文芸作家の僕がプロデビュー…
6・美人担当者さんが逆枕営業!?
「た…田所さん……?」
「作家と編集は一心同体です!
澪奈とお呼び下さい!」
荒い息遣いが遠慮無く僕の顔をなでる。
「ひっ!じゃ、澪奈さん。
体を離して下さい」
「……」素直に澪奈さんは元の位置に座った。
座り直すために屈むと、胸元の空いたブラウスから深い谷間が見えた。
つい見てしまう自分を恥じて首を真横に向ける。
澪奈さんは
「先生! 失礼しました」と頭を下げた。
「す、すすすみません……見るつもりじゃなかったんです。
つい目が行ってしまって……ごめんなさい」
「え…? あぁ……」と澪奈さんは胸に片手を当てた。
軽蔑されたな…ごめんなさい……目が行っただけでイヤらしい気持ち100%じゃ無かったんです。
「先生……今日は絶対契約していただくつもりで来ました!
もしわたくしに性的なご興味がおありで、なおかつ契約していただけるのでしたら24年間守り通してきたこの身体を捧げる覚悟です!」
と澪奈さんは胸元の手をボタンに這わせた。
首を90度横にしていても視線は勝手に澪奈さんに向かう。
深い谷間があらわれる。
「な、何ですか!枕営業!?
いや逆かっ!」
出版業界は古い体質だと聞いたことはあるけれどもこんな肉弾攻撃がまかり通るのだろうか……いや きっとこれは澪奈さんの一直線な性質によるものだろう、そう思いたい。
僕は
「ストップ!ストップ! ね…熱意は充分伝わりましたから!!」そう叫ぶと澪奈さんはハッと我に返ったようで動きが止まった。
「すみません。先生にご不快な思いをさせてしまって!
どうかお許しください!」
澪奈さんはずり下がって深々と頭を下げた。
「止めてください、そんな……僕も澪奈さんみたいな美人さんと話をするのは始めてであがっちゃって。
こちらこそスミマセン。
昨晩電話を頂いてから、信じられない気持ちなんです。今までさんざん無視されて叩かれてきたから自分の作品にそんな評価されて戸惑っているんです」
「それは新都社みたいな創作界隈の掃き溜めに身を置いているからですよ」
「掃き溜めって……そんな新都社を悪く言わないでください。
大好きな所なんですから」
「でも! 先生の作品を叩くなんてそんな見る目のない人達は許せないんです!
せめてカクヨムかなろうのような真っ当で日の当たる場所で連載されていれば……」
「あんな競争率の高い所にいたら、よけい埋没しちゃってますよ」
「いえ、先生の作品には輝きがあります!」
「ありがとうございますありがとうございます!でも今日はとにかくお帰り下さい。
あとお金も持って帰って下さい。
何がなんだか全然ワケが分かんなくなって」
「しかし……先生!
それでは私の気持ちがすみません」
「あの……考える時間を少しください 。
大丈夫です。他からもしお誘いがあってもそちらとは絶対に話はしませんので」
「本当……ですか?」
「約束します」
澪奈さんは
「じゃ指切り!」と右手の小指をつきだし
「先生! 約束して下さるんでしょ!」と僕の手を取って小指を絡めた。
生まれて初めて女性と指を絡めた。
何て細くてちっちゃくて柔らかいんだろう……
「ゆびきりげーんまん、ウソついたら、ハリ千本のーます! 指切った!」
澪奈さんは歌に合わせて手を上下に降った。
それに合わせてたわわな胸が揺れ踊る。
目の前には楽しそうに胸を揺らして指切りする業界最大手の美人編集者……
僕の脳ミソは目の前の現実から遠く置いていかれていた。
「先生、これで約束しましたからね!
じゃ、今日はひとまず初顔合わせという事で。
それでは、お手数ですが明後日お時間いただけますか」
「こ、今度はなんです?」
「カミナリ大賞の受賞者インタビューを必ず弊社ウェブサイトにアップするんです。
それをさせて頂いてよろしいでしょうか?」