「この間の、あなたの、夢……? 目標? あったじゃない」
何の前触れも無く、突如としてルイーダおばさんがそんなことを言い出しました。
「未来予想図? うん、あったね」
もしや水面下で書籍化の話が進んでいるんでしょうか。
あるいは、はやくも続編 『未来予想図2』 の公開を望む声?
「そう、それ。それに、一言物申すわ」
「ひょっとして、バラモスの喋り方が違う、とか? そこは見逃して欲しいかな」
知らないもの。会った事ないですもの。私と彼の距離は、相当他人です。
最近、きゃつは語尾が“~じゃ”らしいと都市伝説めいた迷信がまことしやかに流布していますが……まっさかー。魔王ともあろう方が、長老弁を話すなんて。そんな馬鹿な。バラモス城で年金生活決め込んでるわけじゃないんだから。
「そんなことはどうでもいいの」
「あー、じゃ、いかずちのつえ?」
つえから いかずちが ほとばしる! のにベギラマ扱いってどういうこと? それはカミナリなの? 炎なの? どっちなのよ! って。
それは私に聞かれても、困るなぁ。一介のまほうつかいですので。背負い込むには荷が勝ち過ぎています。どうかルビス様とか神級の方に尋ねてみて欲しいところ。
「そんなこともどうでもいいの」
だよね。知らない方が良いことって、あるよね。きっと。
「んー。じゃあどこに物申す?」
「私よ、ワタシ」
「??」
ルイーダおばさんに?
何言ってんだろう、この人。意味が分かりません。
おばさんに物を申したいのは私の方だよ。お給料の件などを。切実に。
「出番が足りないわ。死の際とか、もっと思いを馳せなさい、私に」
……なるほど。人の空想未来に登場させろと。美味しい役どころに抜擢しろと。なるほど。なんたる豪気。なんたるセルフィッシュ。あまり無茶ゆわないで欲しいです。おばさんにも可愛いところがあるんだねー、と好意的に解釈できないこともないですが……。私、この人の下で生きてて大丈夫かな。育てられ方間違ってないかな……。
とは言え。
「よく分かりました」
その願い、承りました。お望みとあらば、叶えて差し上げようじゃありませんか。
……本当はここで 「15ターン以内に倒せたら~」 なんて大物っぽい台詞も言ってみたいんですけど。言いません。口が裂けても言えません。確実に倒されるもん。最悪1ターンキルだもん。
「では聞かせましょう」
語られなかった、決戦前夜の物語を。
ゴホン。と。咳払いを一つ。
* * * * * *
「行ってくるね、おばさん……」
佇む私の横を冷たい風が抜けてゆく。
ここは、少し肌寒い。
アリアハンから程近い、海に臨んだ見晴らしの良い高台。木製の柵で囲われたその区画は、けれどひっそりとしていて、私以外の人間は誰一人として見当たらなかった。名前を刻まれた十字架が、ただ点々と並ぶだけ。
明日、私たちはバラモス城へと乗り込む。恐らくはこれまでで最も危険な、そして、最後の戦いになるだろう。どんな結末を迎えることになったとしても。きっと。これが最後。
ううん。必ず勝ってみせる。世界に平和を、取り戻してみせる。
「私、強くなったんだよ」
吹く風にもてあそばれる髪を手で押さえつけながら、私は語りかける。
「メラも。ギラも。みんな覚えたんだよ……? 凄いでしょ?」
花束の添えられた十字架の前で一人、ポツリ、ポツリと、言葉を紡いでゆく。
私の声は、届いているだろうか?
風に乗って、空の向こう。届けば良いな。
……ルイーダおばさんは、もういない。
昨年の春、病に伏し、とうとうそのまま夜空に輝くお星様に――
* * * * * *
ギロリ
ガンです。ものすごいガンが飛んできました。その眼光たるや、わらいぶくろをも号泣させかねない……。ガンだけに癌だった! とかそういうの言い出せそうな雰囲気じゃないです。やば。
「――なったんだけど、なんとメテオになってカムバックした!」
よっ、おばさんミラクル! やんややんや!