Neetel Inside 文芸新都
表紙

まほうつかい おんな レベル1
○月×日 友情出演

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「この間の、あなたの、夢……? 目標? あったじゃない」

 何の前触れも無く、突如としてルイーダおばさんがそんなことを言い出しました。

「未来予想図? うん、あったね」

 もしや水面下で書籍化の話が進んでいるんでしょうか。
 あるいは、はやくも続編 『未来予想図2』 の公開を望む声?

「そう、それ。それに、一言物申すわ」
「ひょっとして、バラモスの喋り方が違う、とか? そこは見逃して欲しいかな」

 知らないもの。会った事ないですもの。私と彼の距離は、相当他人です。
 最近、きゃつは語尾が“~じゃ”らしいと都市伝説めいた迷信がまことしやかに流布していますが……まっさかー。魔王ともあろう方が、長老弁を話すなんて。そんな馬鹿な。バラモス城で年金生活決め込んでるわけじゃないんだから。

「そんなことはどうでもいいの」
「あー、じゃ、いかずちのつえ?」

 つえから いかずちが ほとばしる! のにベギラマ扱いってどういうこと? それはカミナリなの? 炎なの? どっちなのよ! って。
 それは私に聞かれても、困るなぁ。一介のまほうつかいですので。背負い込むには荷が勝ち過ぎています。どうかルビス様とか神級の方に尋ねてみて欲しいところ。

「そんなこともどうでもいいの」

 だよね。知らない方が良いことって、あるよね。きっと。

「んー。じゃあどこに物申す?」
「私よ、ワタシ」
「??」

 ルイーダおばさんに?
 何言ってんだろう、この人。意味が分かりません。
 おばさんに物を申したいのは私の方だよ。お給料の件などを。切実に。

「出番が足りないわ。死の際とか、もっと思いを馳せなさい、私に」

 ……なるほど。人の空想未来に登場させろと。美味しい役どころに抜擢しろと。なるほど。なんたる豪気。なんたるセルフィッシュ。あまり無茶ゆわないで欲しいです。おばさんにも可愛いところがあるんだねー、と好意的に解釈できないこともないですが……。私、この人の下で生きてて大丈夫かな。育てられ方間違ってないかな……。
 とは言え。

「よく分かりました」
 
 その願い、承りました。お望みとあらば、叶えて差し上げようじゃありませんか。
 ……本当はここで 「15ターン以内に倒せたら~」 なんて大物っぽい台詞も言ってみたいんですけど。言いません。口が裂けても言えません。確実に倒されるもん。最悪1ターンキルだもん。

「では聞かせましょう」

 語られなかった、決戦前夜の物語を。
 ゴホン。と。咳払いを一つ。


* * * * * *


「行ってくるね、おばさん……」

 佇む私の横を冷たい風が抜けてゆく。
 ここは、少し肌寒い。
 アリアハンから程近い、海に臨んだ見晴らしの良い高台。木製の柵で囲われたその区画は、けれどひっそりとしていて、私以外の人間は誰一人として見当たらなかった。名前を刻まれた十字架が、ただ点々と並ぶだけ。
 明日、私たちはバラモス城へと乗り込む。恐らくはこれまでで最も危険な、そして、最後の戦いになるだろう。どんな結末を迎えることになったとしても。きっと。これが最後。
 ううん。必ず勝ってみせる。世界に平和を、取り戻してみせる。

「私、強くなったんだよ」

 吹く風にもてあそばれる髪を手で押さえつけながら、私は語りかける。

「メラも。ギラも。みんな覚えたんだよ……? 凄いでしょ?」

 花束の添えられた十字架の前で一人、ポツリ、ポツリと、言葉を紡いでゆく。
 私の声は、届いているだろうか?
 風に乗って、空の向こう。届けば良いな。
 ……ルイーダおばさんは、もういない。
 昨年の春、病に伏し、とうとうそのまま夜空に輝くお星様に――


* * * * * *


 ギロリ

 ガンです。ものすごいガンが飛んできました。その眼光たるや、わらいぶくろをも号泣させかねない……。ガンだけに癌だった! とかそういうの言い出せそうな雰囲気じゃないです。やば。

「――なったんだけど、なんとメテオになってカムバックした!」

 よっ、おばさんミラクル! やんややんや!

       

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