Neetel Inside 文芸新都
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まほうつかい おんな レベル1
○月×日 What a ステキな休日! 〜武器屋〜 (Update 2008.12.31)

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「こんにちはー」
「お。いらっしゃい。なんだよ。久しぶりだなぁ」
「どうもー。ご無沙汰してますー」
「ずっと顔出さないから心配してたんだぜ」
「最近忙しくて。ほら、今私ルイーダこぶんですから」
「はっは。そりゃあいいや」

 武器屋さんはいかにもパワーキャラな体をゆすって、わははと豪快に笑います。わは。わはは。わははは。
 ……いやご主人。そこあんまり笑うと、まずいんじゃないですか。ウチの親分敵にまわすとおっかないですよ? 身の毛よだちますよ? お店に来て、食べて、飲んで、さあ帰ろうとしたその時、 『ルイーダのぼったくりバー』 に化けてても私知らないから。

「それで、新商品とか入りました?」
「そうなぁ。何が欲しいんだ?」
「んー、武器、かな」
「魔法使いでも装備できる武器ったら、やっぱりこの、ひのきの――」
「いらない」

 すこぶるいらない。持ってる。それものごころついた頃から持ってる。とことん持ってる。
 あ、いえ、今は装備してないですけど。武器とはすなわち戦いの為のものですからね。私は戦いませんからね。ましてやショッピング中の女の子が持って練り歩くものではないですからね。
 家にあります。家の、台所にあります。お肉叩くのに使ってる。お肉ぺちぺちしてる。固い安モノ肉を柔らかくする、それは暮らしの知恵です。時にはすりこ木にもなりますよ。お料理にけっこうなご活躍。

「他には?」
「他は……無い」

 所詮はアリアハンでした。
 もう。相変わらず田舎なんだから。ここいらはでっかいカラスとか、角生えたウサギとか、ゆるめの魔物ばかりだからって、たるんどるのじゃないですか。少しポルトガでも見習いなさい。貿易とかが盛んっぽい、ポルトガ。アイテムの輸出入を得意としていそうな、ポルトガ。多分……。はい。なんとなく。ほら。だって。船とかあるし。
 まぁ、この店のいつも変わり映えしないラインナップも、まほうつかい用品の品揃えの悪さも、今に始まった事ではないんですけども。

「防具なら、ぬののふく、たびびとのふくがあるにはあるんだが……」

 店主は言います。

「いくら女性用と言っても……」

 その声は私の頭上から届きます。 

「サイズには限界が、なぁ?」

 遥か、遥か、上空から、届きます。
 180センチ武器屋。140センチ私。不公平神様。
 ごめんね! 背ぇちっちゃくて! 世が世なら“前へならえ”ない子で!
 ……いいもん。威風堂々と両手を腰に当てるもん。それは列の先頭に立つ者にだけ許された特権の構えなのですもん。もん。モン? ミニデーモン? ……身長が? きぃー。
 だいたいぬの製のふくならたくさん持ってるってんですよ。私のみならず、人間たれば誰しも持ってるってんです。ぬのじゃないふくの方があんまり着ないってんです。

「いいです。もう帰ります」

 ぷりぷりしながらごめんあそばせ。両手を腰に当てたまま、私は去ります。

「あ、おい、ちょっと待ってくれ」

 このポーズちょっと歩きにくいなと思っていたところへ、背後から待ったが掛かりました。
 私は特に待った無し方式を採ってはおりませんので振り返ります。「はい?」 くるりん。すると期せずしてどことなくファッションショーターン。そう言えば、このポーズはモデルのそれに似ています。なるほど。ふふ。私かっこいい。私モデル。しかし しんちょうが たりない! またか。またしても、か。どうあってもそこに行き着くというのですね。いい加減になさいよ。

「モノは相談なんだけどな。よかったらうちで働かないか?」
「え? 私が?」

 藪から棒登場。
 え。え。何ですか突然。いきなりそんなこと申されましても。

「ああ。俺みたいないかついオヤジより、可愛い女の子が看板娘した方が客が集まりそうだろ」

 かわいい? まあまあ。そんな。いやですよもう。そんな見え見えのお世辞に、やすやすとおだてられる私ではありませんよ? かわいい。そういうほぼ誰に対しても使用可能なアバウトなヨイショで。人のご機嫌を取ろうなんて。そいつは少々お虫が良過ぎるんじゃあないですか。かわいい。ねぇ。そんなねぇ。かわいい。上京したての娘っ子一人だませやしませんよ。かわいい。かわいい女の子。だってわずか四文字ですよ? かわいい。私。かわいい。かんばんむすめ……。
 あぶない。うっかり飛びっきりの笑顔で承ってしまうところでした。危機一髪。
 こういうことはしっかり考えなければいけません。簡単に決めてはなりませんよ。武器屋。武器屋さんのお仕事。なんか。かなり重労働な気がしますよね。棚卸しとかすごい大変そう。私のちからとたいりょくではたして勤まるのかな。

「んー……どうしよう……」
「やってみないか? ルイーダよりバイト代出すぜ」

 !!
 お給料アップ。それは、なんと、心をくすぐる、蠱惑的なイディオムでありましょうか! もしお金があれば、あれも欲しい。これも欲しい。なんとかのつえ。なんとかのローブ……。考えるだけで胸がどきどきします。ときめきが止まりません。
 お給料アップ。それは、もしや、心を惑わす、恋の呪文でありましょうか? となると私は恋するジュリエット。ぽっ。ああ、お金、どうしてあなたはお金なの!
 危機二髪。
 いえいえ。ね。しっかりとね。考えませんとね……。

「うーん……」

 うーん。


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