「ねー、おねえマン」
「ひっぱたくわよ」
「お客さん、来ないね」
結局ルイーダおばさんのお店を手伝う事になりました。
齢14にして、酒場でこき使われる薄幸のアルバイター少女。それが私です。
どうぞ遠慮なく同情してください。同情しながらお金もください。
「ついこないだまで常連が居たんだけどね。昼間っから入り浸ってる若い女の子が」
まぁお辛辣。いばらのムチのようなお言葉。トゲットゲです。ひどい、私は、勇者を待っていただけなのに……。
「しかも狙いはタダ飯」
バレておりました。これは非常にマズイです。お説教が始まりそうな空気の流れをひしひしと感じます。いけない。このままではトイレ掃除を命じられかねない……。
こうなった以上狙うは一発逆転。奥の手を出しましょう。今の私の最強呪文、『嘘泣き』!
ご、ごめんなさい。おねえさんの料理、すごく美味しいから……。
ううう。
決まった。
涙こそ出せませんがそこはうつむき、顔を手で覆う事でカバー。さりげなく『お世辞』の追加攻撃も仕込みました。かつてアリアハンのバラモスこと道具屋のおじさんをも手玉に取ったこの呪文。今日もぬかりはありません。
完璧な出来を確信して、私は顔は伏せたままチラッと様子を窺います。
すると、あれ? おばさんこっちを見ていません。そっぽを向いています。まさか、きかなかった?
私が内心動揺していると、おばさんはゆっくりこちらに振り向きました。その顔には、なんと、光るものが。頬を伝う、あれは――涙!?
「どうして嘘泣きするような子に育っちゃったのかしら。きっと私の責任ね。ごめんなさい」
おばさんホロリホロリ。ホロリホロリ。そして――ニヤリ。「なーんて、ね」
「女だったら、いつでも涙くらい出せなきゃだめよ」 潤ませた瞳でウィンク一つ。
しまった。戦う相手を間違え過ぎた。この人はほぼモンスター。私じゃ勝負になりません。
もはや残された道はたった一つしかないです。にげる。脱兎の如く!
わたしは にげだした
ざざざざっ
しかし まわりこまれてしまった!
ああ。そりゃあそうです。逃げられる訳がなかったのです。だって、おばさんはボスキャラだから。
目の前に仁王立ちする――それはまるでハッサンのように!――おばさんの手にはいつの間にかモップとバケツが握られていました。
そして、それは、ゆっくりと、私に差し出され……。
オンナって恐いです。