うううう。ううぐぐ。
泣けない。泣けやしない。
先日の敗戦を糧にして、強いオンナになるため、いつでも涙を流せる特訓をしていたのですけれども……。
普通に無理。悲しくも嬉しくも何ともないのに、はたまたワサビも無いのに、涙とか生じるはずがありません。て言うか、それ悪女じゃん。超ヨヨじゃん。
そんなこんなをしていたら、気付けばとっぷりと日が暮れていました。うーん、何かを忘れてるような。やくそうの特売日、じゃなくて。もっと些細で、ちっぽけで、でもほんのちょっとだけ大切な……。
ああー! アルバイト! 今日、ルイーダおばさんとこの手伝い!
うわぁ……完全に忘れてました。外はすっかり日が沈んでいます。明らかに間に合いません。露ほども間に合う気がしません。しまったなぁ。これはどう考えても怒られざるを得ないストーリー。うううう。行きたくない。今ならきっと、泣けるかも。
ハア。ため息も漏れるってものですが、仕方ないです。このまま家にいても何も始まらないので、とにかく店に急ぐことにしました。
「おはようございまーす。少し遅刻しちゃいましたー」
元気よく笑顔で挨拶する私を、おばさんはメンチを切りながら迎えてくれました。
「遅刻?」
「遅刻」
「あなたの勤務時間は、いつ?」
「お昼から夕方」
「今は?」
「夜」
「遅刻?」
「……遅刻?」
ぺちっ
いてっ。
デコピンされました。
「言い訳してみなさいな」
「……なんと! 突然空が真っ暗に! 察するにこれは恐らく勇者一行がどこかでラナルータを使っ」
ぺちっ
いてっ。
サラマンダーよりこわーい。