トキメキウィッチ!シュガール
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カガチが振り返ると、どこかで見覚えのある姿があった。
「あれは……」
きびは強風に視界を遮られながら薄目を開けて、突然現れた人物を睨んだ。
「……シェディム……!」
「子供達、はやく館の中へ!」
シスターの言葉にアコーニーが反応すると他の子供達を誘導して駆け足で館の中へ入って行く。
「カガチ、あなた尾けられたようですね」
シスターがカガチの隣りに立って言った。
「っ……どうやって」
「カガチ、よくお聞きなさい。ここの子供達は自分の身を守れるほど魔力が強くありません。戦えば巻き添えになりかねない。そして、今の私はあなたと同じくらい魔力が使えません。この空間の維持と子供達の魔法の練習用に私の水晶玉を分け与えています。よって、最小限の戦いで早急に終わらせなければなりません」
「それは、難題やな……」
「何アレ?」
あらせが指を指して言った。
指の先には黒く引き裂かれた空間の亀裂から赤く揺らめく炎が見えた。
カガチが後ろを振り返り、まだ3人が残っているのに驚いた。
「あんたら、中に入らんかったんか?!」
「あれは私達の敵だから、逃げるなんて出来ない!」
きびが一歩前へ出る。
「そうよ! あいつらに散々な思いさせられてるんだから」
しろもきびの横に並んだ。
「右に同じ!」
あらせも同じくきびとしろの隣に並ぶと水晶玉が輝き出した。
「「「トランスホールミー!!!」」」
3人は変身して魔法少女シュガールとなった。
「おかしな使い方ですね」
シスターが3人の変身した姿を見て不思議そうに言った。
「これは……骨が折れるわ」
カガチが身構えると、鉄砲水のように炎が亀裂から流れ出し地面に咲いている花や草を燃やした。燃え上がる草木は炭や灰となり大地を真っ黒に染め上げた。
シスターが片腕を前に出し、人差し指を突き出して上に向かって空気を切った。
風が吹き、ぐるぐると灰が雪の様に舞った。周りの土や葉から水の雫が水玉となって空気中に浮くと灰と水玉が混ざっり、無数の水玉は炎に向かって飛んで行った。
バケツをひっくり返した様に一斉に水は炎を押し潰すと一瞬で蒸発した。高温の炎と冷たい水がぶつかって出来た蒸気膜が破裂し爆発となった。
熱風が波の様に押し寄せ白い煙が上がる。
爆風が治ると呆気にとられたカガチが言った。
「これ水蒸気爆発やんか!」
シスターは爆風に衣類を靡かせ、微風でも通ったかの様に直立している。
「ここの土には、肥料として蚕の糞を撒いています。その土の水分と彼等が灰にした植物を水に混ぜて塩分を抽出しました。植物や土には僅かに塩分が含まれます。塩を添加する事で真水よりは爆発させやすいんですよ。……やり過ぎちゃいましたか?」
シスターの説明を聞いてカガチにしがみ付いているフィカスが言った。
「下手すると僕達も巻き込まれそうだね」
「これでも最小限です」
シスターが言った。
「チビ達は大丈夫か?」
カガチがシュガールの3人に言うと、爆風で飛ばされない様に群青が2人を両手で抱えていた。
「なんとか!」
群青が答えた。
炎は爆風で吹き飛ぶも亀裂の穴から次々と溢れてくる。炎は誰かに操られているかのように二手に分かれてシスターやカガチそしてシュガールの周りを囲んでいく。
「この火……これネズミだよ!」
きびが動き回る炎を見ると、それは体を燃やして走るネズミの群れだった。
「やっと気付いたか。鈍いな」
シェディムの少年2人がきび達の前に近付いて来た。フードの中を覗くと2人とも仮面を付けている。
「あれ? 何で2人に増えてるんや? この前ので1人殺したと思ったんやけどなぁ」
「……へえ。それはそれは」
「御礼参りに来たわけじゃあ……なさそうやな」
「どうするの? どんどん増えてるわ!」
「囲まれた……」
しろとあらせが言った。
「火鼠の餌食になるがいい」
その言葉を合図にネズミが飛びかかる。
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「わぁ!」
ルヂェータに向かってネズミが飛んで来ると身をかがめて防御した。ゴンと何かにぶつかる音がすると、ガラスにぶつかったかの如く見えない壁に遮られ火鼠はそれ以上ルヂェータ達に近寄れ無かった。
円型に群がるネズミ達は目の前で何度も何度も目の前で飛び跳ねた。ルヂェータは手を前に出すと見えない壁に触った。ガラスのような感触が手のひらに触れる。
「なんか水族館みたい」
「senŝeligante(剥離)」
シスターが呪文を唱えると、真っ赤に燃えていたネズミ達が苦しみ出した。火鼠の体を覆っている炎は青く染まり炎の海は数秒で消えてしまった。
「ネズミ達を囲った壁を作りました。例えるならドーナツ型で出来た試験管に火を落とした状態です。それに今、蓋をしました」
「火がついた試験管に蓋をすると……?」
ルヂェータが考えもわからないと言った顔をする。
「火は空気で燃えるのよ」
シロンがルヂェータに耳打ちする。
その横で群青がひらめいた。
「わかった。酸素が無くなる!」
「そうです。私達が吸っている大気の主な成分は窒素、酸素、アルゴン、二酸化炭素で出来ています。二酸化炭素を残し、それらを取り上げたあの空間は真空になっています。中真空。と、言ったところでしょうか。上空で言うところの中間圏(オゾン層より上になる、流れ星が明るく輝くあたり)くらいと思ってください」
「シスター。説明はいいですから!」
カガチが言った。
「ねぇ、もっとわかりやすく言って」
群青がカガチの服の袖を引っ張った。
「あんたも、なに興味もっとんねん……! あー、イメージとしては、お湯を入れるポットがあるやろ? 魔法瓶とか言うやつ。あれは熱を逃がさんように器の板と板の隙間に空間があんねん。その空間が真空になってるのが魔法瓶の特徴なんよ。つまりうちらは魔法瓶の中にいるようなもんや。で、真空部分にいるネズミは燃えるもんが無い、ようは窒息させた状態や。中間圏とは宇宙に近い約-80℃の世界。ドライアイスも出来るで。多分ネズミは今凍結乾燥やで」
「じゃあこの中凍らない?」
「心配ありません。私が遮断していますので」
シスターが言った。
火の消えたネズミ達が紅茶の茶葉の様に音もなく下に落ちて動かなくなった。
「そんな事より、館のみんなは大丈夫かしら?」
シロンが館の方を向いて言った。
「外からの攻撃には問題ありません。なので」
シスターは指を鳴らし外側の魔法を解いた。空気が入り白い煙と共に白い雪のようなものが辺り一面を飾る。
「このまま一気に叩きます」
燃えていた大地が鎮火され白く染まった。
「この霜みたいなのがドライアイスや。素手で触ると火傷するで。に、しても…………」
白い煙は冷たく足元を漂っていて雲海状態となっていた。シスターが突風を吹かせると水蒸気の隙間から横たわったネズミが見えた。
冷気がルヂェータの肌に当たる。壁が消えたのだ。ネズミを踏むと体が砕け赤い粉が靴底に付いた。
「なんであいつら自身は攻撃してこないんや?」
「ねぇ、シェディムは?!」
ルヂェータが辺りを見回すが、見当たらない。
ルヂェータの頭上に突然影が現れる。
それに気付いたカガチがフィカスを使って槍に変形させ柄を如意棒のように伸ばし、それを振るった。
シェディムの1人が両手にサバイバルナイフを持ちルヂェータに切り掛かるが、ルヂェータの頭上で振られた槍を足で躱し横向きで柄を伝ってカガチに向かって走って来た。
ナイフがカガチのの喉元を捉え迫る。
フィカスがすかさず柄を変形させシェディムの片足を捉え動きを止めた。
フィカスはシェディムをそのまま逆さ吊りにするとシェディムは足元を捕まれた所を外そうと何度もナイフで切り付けるも歯が立たなかった。
「この人女の子……?」
シロンがマントで隠れていたその中の服装をみて言った。
「素顔をお見せなさい」
シスターが魔法でシェディムの仮面を外した。
「「「! ! !」」」
その素顔にシュガールの3人は驚いた。
「ルシアン……!」
ルヂェータが名前を口にすると、ルシアンが微笑んだ。目は笑っていない。
ルシアンは身動きが取れるように直ぐ様ためらいもなく捕まれている片足にナイフを持った両手でハサミのように刃と刃を重ねて切り落とそうとした。
「ダメェ!」
しかし、ナイフは地面に突き刺さる。ルヂェータが魔法でナイフを弾いた。
「どうして彼女がきびちゃんを狙うの?」
シロンが驚く。
「十中八九、敵に洗脳されたんやろ」
「その通り。イブにより我等の駒としてよく働いている。随分と蛇の住処を知っていたよ」
もう1人の仮面を付けたシェディムが空中に浮いてみんなの前に現れた。
「こいつに道案内させたんやな」
「さて、のんびりしているようだがそんな余裕があるのか?」
「どう言うことですか?」
シスターがシェディムを見上げる。
「ネズミと言うのは厄介だよなぁ。繁殖力が強くてすぐに増える。体にはノミやダニおまけにペストを運ぶ」
「何が言いたいんや?」
「ああ、そうそう。ネズミは家の中にも現れるよなぁ。わずか1㎝の隙間から侵入出来て家具とか齧ってたりしてさー。本当、厄介者だよ」
「キャアァァーーーー!!」
館の方から声がした。
館の窓から燃え上がる炎が見える。扉から炎が噴き出すと2人の怪人が現れた。赤い怪人と白い怪人は誰かに似ている。
「アコーニー。プティ」
シスターが2人の名前を呟いた。
赤い髪をしたアコーニーといつもフードをかぶっていたプティの変わり果てた姿でこちらに歩いて来る。
館の玄関前には石化した子供達が一ヶ所に集まって動かなくなっている。
「さぁ、反撃と行こうか!」
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「くそ! どうやって侵入したんや!」
カガチが石化された子供達を見て言った。
「扉が開いた時……おそらく子供達と同時に……迂闊でした」
プティが子供達から取った沢山の水晶玉を輝かせ浮遊させるとシェディムに向かって飛ばした。
「いけません!!」
シスターが手を前にかざして魔法を使おうとするとアコーニーが地面に手を付き、魔法で土で出来た大きな手のひらを作り出した。手のひらは肘から上の形をして地面から生えている。
その手はハエ叩きを振り下ろすかのようにシスターを頭から叩き潰そうとした。カガチが走り、間一髪でシスターを突き飛ばすように一緒に飛び退きそれを避ける。
土の手は地面に転がっているフリーズドライになったネズミが潰され赤い手形が地面に残された。手のひらはネズミの粉で赤く染まり、その周りに赤い粉混じりの風塵ふうじんが舞った。
大量の水晶玉がシェディムの手に渡り全員に緊張が走っる。
その隙をみてルシアンは猫に変身してフィカスが捕んでいた足が抜けた。
「あ!」
フィカスの声にカガチが反応する。
「! しまった!」
「ルシアン! 待って!!」
ルヂェータが魔法でルシアンを止めようとするも、猫になったルシアンは冷気で凍った水蒸気の煙で見失ってしまった。
カガチがフィカスを槍に変化させ槍投げのようにシェディムに向かって投げると、プティが植物の根を操って槍を巻き取った。植物の根は槍をへし折ろうと更に巻き付いた。
フィカスは身動きができなくなる前に元の姿に戻り逃げ帰っていく。
「任務完了。残りは剿滅そうめつさせる。仲間同士殺し合うがいい」
「うちらの水晶玉を取らないとはずいぶんと余裕やな!」
カガチがシェディムを挑発する言葉を投げた。
「欲張り過ぎないのが投資の基本だからな」
ルヂェータ、シロン、群青がシェディムに向けて魔法のステッキから一斉に光るビームを放つ。アコーニーが土でできた手のひらでそのビームを受けた。赤い手のひらの中心が焼け焦げただけでダメージは得られない。
いつの間にか人型になったルシアンがシェディムの隣に立った。
「なかなか面倒やな……」
「プティとアコーニーの魔力をすべて水晶玉に変換します」
シスターが言った。
「ルシアンはどうするの?!」
ルヂェータが心配する。
「捕えるしか今は方法がありません」
「きゃ!」
シロンが驚いた声を上げると、何かに引っ張られたように倒れドライアイスの煙の中に沈んだ。
「しろちゃん?!」
「わあ!」
次に群青が同じように煙の中に引っ張られ消えた。
「あらせ?!」
ルヂェータは魔法で風を起こして地面を漂っている白い煙を吹き飛ばし、消えた2人の姿を探した。
「いない……」
白い煙がまたもくもくと溜まる。
ルヂェータの足首を何かが掴んだ。
「ひゃっ!」
足を引っ張られると地面に沈められるように植物の根がルヂェータの下半身に巻き付いている。
白い煙の中に沈んだ瞬間、カガチに手首を掴まれ上に引き上げられた。
「これ以上の捜索届けは受け付けられんで!」
「お姉さん……」
カガチは戻ってきたフィカスを刀に変えてルヂェータに巻き付いている根を切り離した。
「これだけの二酸化炭素の中でいつまで持つか見ものだな」
アコーニーが魔法で出した赤い手のひらの上に座ってシェディムが言った。頭上では空間の亀裂が禍々しくそこにある。まるで玉座に座った王様のようだ。脚を組み頬杖をついてルヂェータ達の戦いを面白そうに眺めている。
地震のように地面が動き出し、ぼこぼこと波のように土が盛り上がり流されるようにシスターはアコーニーによって作られた穴の中に落とされ、カガチ達と引き離されてしまった。
「力を分散しようちゅーんか……」
地面が山のように盛り上がり、カガチ達の周りに土の柱が竹の子のように出現し、取り囲まれてしまった。
柱から拳ほどの大きさの石が大砲のように飛び出しカガチとルヂェータに向けて発射される。
フィカスが2人を守るため体を平たく伸ばして丸い壁となって石の砲弾から守た。
「内臓が揺れるぅ~~」
フィカスが砲弾の衝撃で涙目になる。
「我慢せい! まだ一発目やろ!」
フィカスに弾かれ、地面に落ちた石は磁石がくっ付くように柱に向かって動き出した。柱の中に食い込んだ石はまた同じ方角から放たれる。
「弾を使いまわすなんてケチくさいで!」
周りの柱が大きな音を立てて何やら動き出した。土の柱の側面に沢山の石がタイルのように浮き彫りにされ現れた。
「やば」
フィカスが呟くと、石は一斉射撃されシャワーのように無数の石が放たれた。
「石なんか砕けちゃえ!」
弾丸のように飛んでくる石が次々と風船のように割れて粉々になった。ルヂェータがそこら辺にある石や飛んでくる石全てを魔法で粉々にした。
「でかした!」
粉々になった石を見てカガチが喜びルヂェータを見ると気分が悪そうに四つん這いになっている。
ルヂェータは項垂れて両手を地面につき思いっきり口から胃液を吐き出した。
「ちび、大丈夫か?」
「カガチ~この子酸欠なんじゃ……」
フィカスが心配そうにルヂェータの背中を小さい豆粒くらい小さい手で摩る。
「気圧の変化と酸素不足か。高山病のようなものやな。子供の体じゃあ、これ以上戦うのは無理や……」
ルヂェータが手で口を拭ってカガチに言った。
「みんなを……助けるまで諦めないから……頑張るから。だから……置いてかないで…………」
「……ま、ヒーローはそうでなくちゃな」
「カガチ?」
「ひとまず、フィカスとちびはここでジッとしとるんやな。ちび。まだ魔法出せるか?」
「うん」
ルヂェータはステッキを握りしめた。
「うちに武器を出してや。刀がいい。何を切っても切れ味が落ちない、めっちゃ強い刀や!」
カガチは魔法で出してもらった日本刀を手に走り出した。
柱から土の手が飛び出しカガチを捕らえようとする。
体に伸びる何本もの手を刀で薙ぎ払う。
柱を縫うように半周すると手の動きが鈍くカガチの動きを追えない場所があった。
「柱で死角を作ったせいでどこに居るか丸わかりやで!」
カガチはフィカスに向かって走り出した。
「フィカス、上げて!」
ルヂェータに覆い被さるようにドーム状になっていたフィカスが大人1人乗れるくらいのスプーン型に変形し、その窪みのつぼにカガチが飛び乗る。投石機カタパルトで飛ばされる石のようにカガチが宙に舞った。
上空でアコーニーの姿を確認し、着地してカガチは素早く詰め寄る。
アコーニーは逃げながら振り返るとカガチぎ振るった刀の刃が首に目がけて迫る。
「カガチ切るな!」
瞬時にフィカスが叫ぶと、カガチは刃を当てる前にアコーニーのお腹に蹴りを入れる。
蹴り飛ばされたアコーニーは柱にぶつかりもたれ掛かるように倒れた。
「しばらく大人しくしとけ」
そう言って刀を鞘に収めた。
「お姉さん……!」
ルヂェータがよろけながらカガチの元へ歩いて来る。
カガチはルヂェータの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「なかなか使い勝手よかったで! フィカスはシスター探してきてや。また襲ってきたら敵わん」
「OK!」
フィカスがカガチ達から離れる。
それを待っていたように白い煙の下からナイフを咥えた黒猫のルシアンが飛び掛かり、人型になるとナイフをルヂェータの顔に目掛けて刺した。
「え……」
ルヂェータは一瞬の出来事に何が起きたのかわからなかった。
カガチが腕を犠牲にしてルシアンが突き立てたナイフからルヂェータを守った。
「!! お姉さ……」
カガチの腕から流れる、血の雫がルヂェータの頬に落ちて血液が涙と一緒に流れた。
「泣くな! 泣いたらあかん!」
ルシアンが腰に差していたナイフを手に取りカガチの首元を狙って切り裂こうとする。カガチは刀でそれを受け止めるとルシアンに頭突きをかました。
ルシアンがよろけながら後ろに飛び退き、カガチに刺さったナイフが抜けた。
ナイフが抜けた傷口から血がだらだらと流れ出した。
腕の血を振り払ってルヂェータを心配させないように痛みに堪える。
「かすり傷や」
「そんなわけないじゃん!」
ルヂェータが涙を堪える。
「カガチ! シスター居たよ!」
フィカスが戻って来ると、ナイフが投げられフィカスに当たった。ナイフはぽろっと自然に落ちて地面に刺さった。
「痛ぇ~」
フィカスが涙目になる。
「……大丈夫なの?」
「フィカスはプラナリアとクマムシを足して割ったような奴や。こんくらいじゃ死なん」
「その例えわかんない……ひぃ!」
カガチが刀で飛んできたナイフを弾き落とす。
「フィカス案内せい! あいつ何本ナイフ持っとるんや!」
バン!と、いきなり爆発音が響いた。
3人の時が一瞬止まった。
「撃鉄の音がする」
「シングルアクション*やろか?」
(*手動で撃鉄を起こして引金を引く動作。連射は難しい。自動で撃鉄を起こせるのがダブルアクション)
フィカスとカガチが目を合わせる。
「フィカス防御! 走るで!」
カガチはルヂェータを抱き抱え走り出した。フィカスは2人の壁になって背後をついていく。
「あいつ銃も持っとんたんか!」
「でも、ちょっと下手くそだね」
銃声がカガチ達の後ろで何度も響いた。
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穴の中に落ちたシスターの目の前の壁が崩れ洞窟のような空洞が出来た。プティの植物の根で蜘蛛の巣に掛かった虫のように捕らえられたシロンと群青が現れる。洞窟の天井には鍾乳洞の様な氷柱状の岩石があった。
四方八方から木の根が地中から飛び出してタコ足のように蠢うごめいている。それは鞭のようにしならせてシスターを襲った。
シスターが魔法で木の根の先を吹き飛ばすと群青が叫んだ。
「痛い! 痛い!」
群青とシロンの体は木の根に引っ張られ体を千切られそうになる。シロンは気絶しているのか動きはなく無言だった。
「人質の……つもりですか?」
シスターは身の回りに透明な壁を作り自分の身を攻撃から守った。
木の根がシスターに向かって何度も打たれる。
それを見てシスターは心の中で呟いた。
(動きは単調。でも、囚われの2人を助けなければ反撃は難しい。1人ならともかく2人だと相手の方が速かった場合……どうしたものかしら)
「くそぉ……こんなん、だせぇ…………」
群青が涙目になりながらさっきの痛みに耐え右手に持っていたステッキを握りしめた。
ふと、群青は自分がステッキを手から離してない事に気付いた。
(考えろ。何かできること。木……木の根……)
あらせの頭の中に木造建の家が浮かぶ。そこは祖父と2人で暮らしている家だった。
2人で庭に花壇を作っていた時の事だ。祖父が植えたばかりの花に水をあげていて、たまたまあらせが家の縁側の下を覗いて発見したもの。
『じいちゃん白いのが動いてるよ!』
祖父が不思議そうにあらせの隣で縁側の下を覗くと、ぼろぼろになった木片が地面に落ちていた。その真上には白い粒々が忙しそうに腐った木を齧っている。
『ありゃ、こりゃあ。……シロアリだ!』
群青がステッキを握りしめ、呪文を唱える。
「シロアリの大群、出て来い! 木の根を喰らい尽くせ!!」
シロアリの大群が地面の上に現れ、歩き回っては木の根に噛み付きだした。
シスターが動く木の根から落ちたシロアリに気付いた。
「シロアリ……あの子が?」
シスターは地面に手を当てて唱えた。
「forvelki(枯れ果てる)」
木の根は枯れ脆く崩れやすい物になった。しなやかに動いていた根が錆びた機械のように軋んだ動きとなった。
脆くなった根は群青とシロンの重さに耐えられず崩れ落ちた。
それを合図に天井にあった氷柱つらら状の岩石が落ちる。
群青とシロンの周りに岩石が落ち、土に刺さり砕けた。
群青が頭上を見上げると落ちてくるはずの岩石が空中で止まっていた。
「無事ですか?」
「あ、ありがとう。あ、蓬よもぎ!!」
群青がシロンに駆け寄ると息があり、薄目をあけて瞬きをした。
「しっかりして!」
突然、シスターの肩に鋭い痛みが走る。後ろを振り返るとプティが植物で作った針のような棒状の物でシスターの背後から肩を貫いた。
「シスター!!」
シスターはプティの顔に手を当て呪文を唱える。
「senigi vin de ĉio!(お前のすべてを剥奪する)」
プティの胸元が輝き出し水晶玉が胸から浮き出てくると、シスターはそれを掴んだ。
プティの体は元に戻り倒れてしまった。
シスターは地面に膝をつき傷付いた肩を押さえる。
「大丈夫?!」
群青が駆け寄る。
洞窟の入り口前でドサッという音がした。
上から落ちて来たのはカガチとルヂェータだった。
カガチがルヂェータの下になって守る様に身を丸めていた。
「きび! お姉さん!!」
「カガチ。生きてますか?」
カガチは閉じていた目を開けて起き上がった。
「いってぇー。あのアマ手榴弾投げてきよった…………シスターも重症のようで」
「きび!」
群青がルヂェータに駆け寄る。
「あらせぇ……頭痛い……」
「酸欠や、これ以上ここで戦うのも無理やで」
「アッハハハハハ!!」
シェディムの笑い声が空に響いた。
穴の外から赤く染まった手に立つシェディムと空間の亀裂が見える。
シェディムは言った。
「いい娯楽だったよ。最後に一つ教えてやろう。……お前達が出した大量のシロアリ。枯れた植物をよく食べていたな。あり得ないほどの量を短時間で。ずいぶん分解が速いんじゃないか? 蛇よ知っているか。熱帯雨林の上空では高い濃度の水素が検出される事を。その水素をシロアリが作り出せる事を。そして、その穴の上にたっぷり溜まっているとしたら。どうなると思う?」
「……完敗ですね」
シスターは言った。
ルシアンがアコーニーを抱き抱えシェディムの元へ走る。
シェディム達は空間の亀裂に入り姿を消す。
チューチューと鳴き声が聞こえると、全滅したと思っていた火鼠が体を再び燃やし穴に向かって次々と大量に飛び込んだ。
炎が空気中の水素と酸素で爆発を起こし、爆発音が鳴り響く。
爆風が起こる瞬間、周りの時が止まった。
〝シスター。この星を捨てましょう〟
誰かの声がした。
「フルダ! 無事でしたか」
その声はシスターだけに届いた。
声の主人は寝たきりで今も体が動かない染物小屋にいるフルダのものだった。
他のみんなは時が止まった事に気付いていない。
〝あなたの守りがよく効いていますよ。さぁ、わたしが時間を稼ぎますからみなさんは逃げてください〟
「ここを出てしまったらあなたは……」
〝わたしは人として生き、魔女として死ぬのです。悔いはありません〟
「あなたを……ゆっくり看取ってあげたかった」
〝別れは、とうに過ぎているじゃありませんか……〟
フルダは魔法で、みんなが逃げ出すための時間を稼いだ。シスター以外スローモーションのように緩やかに動き出しす。
これが限界だった。長くは持たないだろう。
「さよなら。フルダ。…………sendu plu(転送)」
シスターは呪文を唱え、みんなを安全な場所に移動させた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
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