「ストレートフラッシュにリーチをかけたことのある俺にそんな手で勝てると思ったのか?」
対面に座る「ストレートフラッシュにリーチをかけたことのある奥村」はそう言って手札を開いた。ジャックのツーペア。私のキングのワンペアは見るも無惨に敗れ去った。
新たなトランプの封が切られ、ディーラーがシャッフルし、プレイヤーに配られる。今度のトランプの柄はちんちんだった。数字の数だけちんちんの絵がある。絵札にはそれぞれ下半身を露出したジャック、クイーン、キングが描かれている。クイーンにもちんちんがついている。髭も生えている。
勢いづいていた「ストレートフラッシュにリーチをかけたことのある奥村」の顔色が白くなっている。どうやらちんちん柄が苦手らしい。逆に興奮しているのが、今回が親番となる「フォーカードは都市伝説だと言い張る番場」である。ちんちんが好物らしく、ぎんぎんにきまっている。番場がサイコロを振り、各プレイヤーは卓から麻雀牌を順番に取っていく。やっているのはポーカーなのでもちろん何の意味もない。
私に配られた手札では既にクイーンのワンペアが完成していた。短髪角刈り髭面のクイーンがちんちん丸出しで熱唱している絵柄を見て、思わず足を踏み鳴らす。
「うるせえなド素人」と、もう一人のプレイヤー「ルールを知らない村橋」が麻雀牌を投げてきたので華麗にかわす。
クイーン、クイーン、ジャック、キング、エース。強い札ばかりが並ぶ私の手札を眺めながら、どれを交換するか考える。クイーン一枚を交換して10を引けたら、ストレートの完成である。しかし10を引けなければブタだ。
「フォーカードは都市伝説だと言い張る番場」は二枚交換して満面の笑みである。いい手が入ったらしい。ポーカーフェイスという単語を知らないようだ。
「ストレートフラッシュにリーチをかけたことのある奥村」は五枚全部を交換して、引いてきたカードを見て絶望に打ちひしがれている。
「ルールを知らない村橋」は一枚捨てて七枚引いてディーラーに失格を宣言されたが涼しい顔をしている。毎度のことだ。
クイーンのワンペア止まりなら「フォーカードは都市伝説だと言い張る番場」に勝てないだろう。「ストレートフラッシュにリーチをかけたことのある奥村」はもう無視して構わない。失格となっているのにも関わらず捨て置けないのは「ルールを知らない村橋」で、卓の下からガンガン私の足を蹴ってくる。その振動で私の手元から二枚のカードが卓に落ちてしまった。しかも運悪く二枚とも表を向いて。キングとジャックだった。私はそれを拾い上げようとしたが、その手を「ルールを知らない村橋」に掴まれた。
「イカサマは許さねえぜ」うるせえ早くルール覚えろ。
仕方なくその二枚を交換する。手元にはクイーンが二枚、エースが一枚。私の交換を終えたところでディーラーの「では皆さん、手をオープンしてください」との声がかかる。南場四局、つまりオーラスのこの回は、自動的に全員オールインとなる。
「くそっ、聞いてねえぞ!」と「ストレートフラッシュにリーチをかけたことのある奥村」が怒りの声をあげる。うるせえもう半荘三回目だろいい加減覚えろ。あとリーチかけただけならそれブタだったんじゃねえかこの野郎。案の定彼の手札はブタだった。
「くくく、やはりフォーカードは都市伝説だったな」と言って「フォーカードは都市伝説だと言い張る番場」が開けた手札は、キングのスリーカードだった。私はキングを捨てて正解だったわけだ。
「まさか最後の最後にこの手が来るとはな」そう言って合計十一枚の手札を開けた「ルールを知らない村橋」はストレートを完成させていてた。すげえなお前。失格だけど。
交換で配られた二枚をまだ見ていなかった私は、まず手札のクイーン二枚とエースを開ける。現在場で一番強い「フォーカードは都市伝説だと言い張る番場」のキングのスリーカードに勝つ可能性のある役を考える。クイーンがあと二枚来たらフォーカードだが、あいにく「ルールを知らない村橋」の手に一枚クイーンが見えているのでこれは無理。残りの一枚が来たとしてもキングのスリーカードには勝てない。
あれこれ考えていても無駄だと悟り、裏返しになっている一枚目を開く。巨大な金玉袋の先にちょこんとちんちんの乗ったデザインが示される。エースだ。これで現状クイーン、エースのツーペアが完成。残りの一枚がクイーンかエースなら、フルハウスの完成だ。しかし最後の一枚には、何も描かれていなかった。
「何だこれは?」一同があげる声に、ディーラーが説明を始めた。
「これはホワイトカードといって、トランプ製作会社が、100万組に一つの割合で意図的に紛れ込ませる白紙のカードです。これを手にした者は、欲しい絵柄と同じ物を持っている場合に限り、そのカードに乗せて活用することができます」
つまり今回の私の場合、巨大な金玉袋の先にちょこんと乗ったちんちんを持っていた場合、勝てるわけだ。幸いエースのカードに描かれていたそのちんちんは私のちんちんとそっくりだった。ためらいなく私はズボンを脱いでちんちんをカードの上に乗せた。パンツは始めから履いていなかった。
「クイーンとエースのフルハウス」私はその場の全ての金を総取りした。フルハウスならぬフルペニスで。
次の局、改名して「ルールを覚えた村橋」となった村橋に全額巻き上げられた。