担当編集者に駄目出しをされた話を書こう。「ペニスを打つ」の前に書いた話だった。没を食らった。まずその原稿を読んでもらいたい。
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「ロック・イズ・ペニス」
長すぎるちんちんをマイクにして歌うロックバンド「ボッキッキーズ」のリーダー、ボーカル担当のキーズにインタビューすることができた。キーズはトレードマークである長いちんちんを肩にかけて現れたので、待ち合わせ場所の喫茶店から追い出された。仕方なく人の少ない公園でインタビューを続けたが、犬に噛まれ、小学生に通報され、ヘビに威嚇されて、結局私の部屋に逃げ込んだ。
「俺はロックとはちんちんだと思っている」
キーズの言いたいことを要約するとこうなる。私は常々思っていたことを聞いてみた。
「どうしてちんちんをマイクにするんですか? 危険な肉体改造だと思うのですが」
「俺はロックに出会う前、長すぎるちんちんにコンプレックスを抱いていた。長ズボンを履いていても、ズボンの裾からぽろりとこぼれてしまうちんちんの持ち主の気持ちなんて、君には分からないだろう。
だがある時、俺の長すぎるちんちんの噂を聞きつけた男に、絵のモデルとして協力することになった。村山というそのちんちん画家は、絵を描きながら俺の話も聞いてくれた。『いっそ、ちんちんを丸出しにして、それをマイクにして歌ってみたらどうですか?』と村山は言った。その手があったか、と興奮した俺は、モデル仕事を終えたその足で改造手術に踏み切った」
「それまで音楽経験は?」
「全くなかった。だからあの時村山が『ちんちんを武器にしてみたら?』と言っていたら俺は殺人犯になっていたかもしれない。『ちんちんで首をくくって死んでみたら?』だったら自殺していたかもな。それくらい、精神的に追い詰められていた」
村山はおそらくキーズのちんちんにしか興味がなかったのだろう。風変りなちんちんを描いたら満足して、適当に会話を交わしていたに違いない。芸術家の適当な一言が、キーズの人生を変えたのだ。
ボッキッキーズはその特異な演奏スタイルゆえに、出入り禁止のライブハウスがほとんどであるため、知る人ぞ知るバンドとなっている。もしあなたの住む所に彼らが訪れたら、是非一度ライブに足を運んでもらいたい。全ての曲が、長いちんちんの持ち主の哀しみを歌っている。
キーズは、あらゆる名曲を「ロックとはちんちんである」として解釈し続けた。つられて私も、自身の持っているコンプレックスについて打ち明けてしまった。気が付けば、当初の予定時間を大幅に過ぎて真夜中になってしまっていた。
「まだ肌寒い季節だ。泊まっていきなよ」私はキーズに提案した。
「そうだな。このちんちんは、マフラーにもなる。巻いてやるよ」
私はキーズのちんちんを首に巻き、キーズは、私の太すぎるちんちんを枕にして、その夜を乗り越えた。
以来キーズは私の部屋で寝起きしている。
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編集者はまず基本コンセプトを確認させた。
・ちんちんについて書くこと
・できるだけ短めに
「連載開始前に確認したよな」横柄な口ぶりで彼は言う。
「『ロック・イズ・ペニス』はどのように構想した?」
「まず『ボッキッキーズ』というバンド名を思いつき、ちんちんをマイクにするしかない運命に陥ったボーカルを主役にしようと考えました」
「俺には、ブレているように見えんだよ。長すぎるちんちんを持つ男の哀しみと、売れないバンドマンの哀しみが混ざっちまってる。あと、長すぎるちんちんを肩にかけるってのも、昔のコメディアンがやっていた。ちんちんを舐めんな!」
急に叫んだのでびっくりして、剥き出しになっていた彼のちんちんをビンタしてしまった。あひゅぅい、という、風船がしぼむみたいな声が彼の口から漏れた。
「何しやがる!」
「舐めちゃいけないと思って、叩いてみました」
「まあいい。それに過激なパフォーマンスゆえにマイナーでくすぶっているってのも、俺は認めたくないね。真面目に音楽やってる奴らに対して失礼だと思わないのか? 何が炎上するか分からない世の中なんだから、念には念を入れておかないと」
彼の助言により、アイデア段階で没にした案があった。「駅伝のタスキを肩ではなくちんちんにかける」というものだ。駅伝業界から袋叩きに遭う可能性を、未然に阻止してくれた。「炎上を舐めるな!」と彼は怒ってくれたものだ。その時もちんちんをビンタした。
「では、長いちんちんの持ち主というアイデアだけ活かして、それをバットにして活躍する高校球児、というのはどうでしょう」
「ブレないか?」
「ブレさせません」
編集者のちんちんはブラブラしていたので、私はまたビンタした。おぽごぉ、という、壊れた浄水器みたいな音がした。そうして書き上げた「ペニスで打つ」だったが、高校野球で使うのは金属バットだということを、編集者はスルーした。そんなもんだ。
※脳内編集者です