「俺をイケメンにしてくれ」
俺の口から出たそのセリフに幼馴染の高坂時子は露骨に顔をしかめる。
もそもそと小さい口で食べていた焼きそばパンから口を離し一言。
「どうしたの?今までで一番きもいよ?」
「え、ひどい」
「意味もわからないよ?」
本当に不思議そうな顔をしている彼女を見て、説明が足りなかったことに気付く。
「ああ、ごめん。順を追って説明するわ」
「うん。別に聞きたくないけど」
「ひどい…えっと、俺が所属するアニメ研究会でだな」
「ほうほう」
頷きながらやきそばパンをカジりはじめる。
リスみたいに端っこからもそもそ食べる仕草が可愛らしい。
この幼馴染、口が小さいだけじゃなく身長も小さい。
150センチ無い身長に丸いメガネをかけているからだろうか?
余計小動物みたいな印象を周囲に与える。とにもかくにもミニマムな女だ。
あ、でも胸は大きい。空気の読めないおっぱいである。
「先日、こういう話しが出たんだ」
「ふむ?」
「イケメンばかりセックスしてズルい」
ぶほっとやきそばパンを吐き出しそうになっている。というかちょっと出てる。
きたねえ。こういうところ三次の女は嫌だよな。
「時子、はしたないぞ」
「死ね!!!あんた死ね!!!昼休みに屋上呼び出してセクハラかこの駄目チンコ!!!」
激昂してわめき散らす時子。おいおい俺が駄目チンコって何を今更。
「あはは、まあ落ち着けよ。それでセックスをする方法を考えてだな」
「帰る!」
「ちょ!待てよ!」
歩き出そうとした時子の肩を掴む。
「な、なによ」
「え、いや、なんだろ」
「…せめてキムタク風に返しなさいよ」
そのセリフは無いわ。とかなんとか呟きながら歩きだす時子。
格好良い言い回しなんかそうそう思いつくわけないし、
そもそもエロゲだったら何もしなくても、このまま屋上ファックなんだよ。
女はマジわかってないよね。
「おいおい何怒ってるんだよ、人の話しはちゃんと聞こうぜ」
屋上のドアに向かって歩き出したのを、追いかけながら話しかける。
「結構わたし忙しいんだよ?百合子先輩に学食誘われたの断ってここ来たんだよ?
なのにセックス?馬鹿じゃないのアンタ、死ねばいいんじゃないのアンタ?このゴミ!」
振り返って捲くし立てられた。どうやら激怒している様子だ。
まったく、女心はわからないぜ。
「いや違うんだって!お前だって俺がイケメンだったら嬉しいだろ?」
その言葉にピタッと脚を止める。
「えっ、いや、まあ、そりゃ幼馴染だし、ねえ」
少しだけ大人しくなる。
これはチャンスだ、確実に説得フラグが立っている。
間違いなく屋上ファックだ。
「そう!幼馴染の俺がイケメンになることでお前もキモ俺と話す時間が無くなる!
そして俺もイケメンになれて嬉しい!ワーオこれ合理的ネー。シャチョサン、カッコイイネー」
思うところがあったのか俺の言葉に時子は、ふむ、と頷く。
「最後ふざけてるのが気に食わないけど…まあ一理あるのはそうかも」
「だろ?オトクダワー、コレヤススギダワー」
「死ねばいいのに…例えば私は何をすればいいの?」
これはかなり乗り気になってくれたんじゃないだろうか?
ともかくフラグは立った。ここぞとばかりにまくしたてる。
「ああ、まあイケメンになる為のコーチかなあ。
時子に教わったことを俺がアニ研のみんなに教えるからさ。
イケメンになったら現実の女も可愛くみえるのかなって皆はりきってるんだよ」
「へ、へえ…」
引きつり笑いを浮かべている。どうしたんだ。
「ともかく!よろしくな時子!」
「もう完全に貧乏くじで腹立つけど、まあよろしくね」
そう言って笑みを浮かべる。
やはりこの幼馴染、かなり可愛い。
「よっし!俺がイケメンになったらだな!」
「うん?」
「時子は俺とセックスだな!」
笑みを浮かべたまま固まる高坂時子の顔。
その瞳に俺、篠原翔一の瞳が映された瞬間――――――――
ゴキッというにぶい音と共に俺の肋骨に携帯電話パンチが突き刺さり俺はうずくまった。
もきゅう、という情けないうめき声をあげながら。