Neetel Inside 文芸新都
表紙

だからイケメンになるんだ
3階渡り廊下50mの約束

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「イケメンに一番大切なものって何だかわかるか?」

下校の準備をしていた時子がきょとんとした顔で振り返る。
鞄に教科書を詰める手を休めて、首を傾げるその姿はまさに無垢。
こういう顔をした女を教育できるのがイケメンというものだし、
イケメンはそうあるべきだと思う。

「うん?まあ基本的には顔なんじゃないかな」

そんなありふれた、全く持ってありふれた結論に至った時子に苦笑いと共に俺は答える。

「甘いな時子、お前は女だから理解できないかもしれんがハートを鍛えることによって
 内面からにじみ出てくるんだよ、色々と」

「えー顔でしょー」

「いや心が外面に反映されることによりオーラがな」

「顔なんだよ?」

「いやだから」

「顔だよ」

「…顔なの?」

「うん顔」

「顔か」

「顔だよ」

顔ですよね。

「うん、翔ちゃんにとっては残念な結論だけど応援してるよ」

「心が痛いよ」

ふふふ、と微笑みながら時子は鞄を持って歩き出す。
後ろから付いて行きながら、ふと思い立ち時子の背中から尻にかけてのラインを拝見。
じっくりと見ると実にそそる体つきである、表現は難しいが、
あえて言葉で表現するならば、現代に舞い降りたエロスの女神やでほんまに。

そうだ。時子を後ろからパンパンする妄想をすることにしよう。
エロい体しやがって!お仕置きだぜ!
オーイエス!オーイエス!

「それでね、私考えたんだけどさ」

「オーイエス!」

勢い余った。

「は?」

「え、なにが?」

誤魔化す。

「ええっと?…まあいいや、それで私考えたんだよ」

釈然としない表情だが、追求はしないらしい、
そういうところだけは都合の良いエロゲヒロインみたいな性格である。

「どんな事を?」

「その前に翔ちゃんは自分の問題点がどんな所にあると思ってる?」

なるほど難しい質問だ、でも時子はどうせ自分の答えを言いたいだけなんだろうから、
ここは無難に答えておけばいいのかもしれない。

「やっぱり一日中アニメの事を考えてるところかな」

「それは問題点じゃなくて問題外って言うんだよ…」

「上手いこというなあ。ははは」

乾いた笑い。

「はあ…私が思うにはね、翔ちゃんはもうちょっと顔がシャープになるはずなんだよ。
 だからね、頑張れば絞れると思うんだ」

痩せることが正解?
これは意外だった。何故なら俺は今まで太っているなんて言われた事ないし、
身体測定でも標準体重より、やや上くらい。
つまり健康的であると検診医のお墨付きを貰っている。
女医だったらエロゲ的展開が待ってたと思うと本当に残念だ。

「痩せるって俺が?そんなに太ってないと思うんだけど」

眉毛をピクリと動かして違うんだなあと時子は指を横に振る。
なんだそれ、顔芸か。

「確かに太ってないよ?でもね、痩せてもいないよね、
 少し痩せてるくらいが翔ちゃんには合ってると思うんだよ」

「モヤシになっても仕方無いだろ?
 関係無いけど野菜のモヤシって異常に安いよね」

貧乏学生の恋人だ。

「そういう痩せ方じゃないよ、
 翔ちゃんはね、これからガリマッチョになるんだよ
 モヤシで言ったら雪国モヤシだ」

例えなくていい。

「しかし……ガリマッチョ?」

かなり衝撃的な言葉である。
そもそもマッチョって敷居が高い気がするんだけど。

「そうだよ!ガリマッチョだよ!」

階段の手前で突然歩みを止め、振り返りバッと手を広げて大げさにジェスチャーする。
少し興奮しているのだろう、顔にうっすら赤みがかっている。

「でも筋量増やすのって何ヶ月もかかるぜ、
 そんな長いスタンスで改造するつもりなの?」

「ううん、筋トレじゃなくて脂肪を燃焼させるだけでいいんだよ、
 そうすると男なら筋肉が浮かび上がってくるでしょ?」

「いや、それだと筋トレの意味が」

「筋トレじゃないよ!ようは女の子にどう見えるかだからね!
 大丈夫、女の子の七割はレスラーの筋肉よりもジャニーズの筋肉が好きだから!」

確かに、ジャニーズ体系ってだけでモテそうだ。
まともにメニューを考えて減量すれば、
貧相なモヤシ体系ではなく、ジャニーズ体系も夢ではないのではなかろうか。
うん、確かにこれは納得だわ。

「なるほど、俺やってみるよ!」

俺の声に反応し、時子が少しだけ前かがみになり腕を肘から上は体に沿ったまま、グッと握った拳を胸の前まで上げる。

「よし!頑張ろうね翔ちゃん!」

その言葉を聞きながら窓の外を見る。
夕方なのに日差しが強い。今年は例年に比べて夏が長いようにも感じる、温暖化という奴か。
しかし、いくら終わりが無さそうでも、それが永遠のように思えても、
それでも必ず季節は巡る。
秋の足音が聞こえてくる今、自分を変えなければ、という思いは日に日に強くなる。
夏は終わり、秋が訪れ冬景色。
その頃には俺はイケメンになっているのだろうか?ほとんどキムタクだろうか?
いや、ならなければならない、この優しい幼馴染を裏切るわけにはいかないのだ。
目の前で熱っぽい情熱を表に出す時子に俺は頷きながら目線を下げる。
そこには時子の腕に挟まれてグイッと寄せられる格好になっている胸があった。
真面目な顔を保ちつつ中腰になり、おっぱいに話し掛ける。

「俺が揉むまで待ってろよ?」

バキッ

殴られた。

       

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