Neetel Inside ニートノベル
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グランドフォース 〜三人の勇者〜
第十一章「闇の追跡者」

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~第十一章~「闇の追跡者」


 ――カルサラーハ。

 その町は近隣の大陸を結ぶたくさんの船が行き交う海路の主要都市。
 隣のランガ大陸、アルキタ大陸から訪れる旅人たちが一度は通る町である。

 今日も、ランガ大陸からの船に乗ってやって来た多くの旅人たちがこの港町を賑わせ、通りに並ぶ商店はどれもなかなか繁盛していた。
 旅人たちは今後の冒険に備えた武器やアイテムを買ったり、必要な情報を集めたり、また長旅で疲れた体を休めたり、目的は様々であったが多くの人々が行き交うこの町はなかなか活気があった。

 そんな活気ある町中で、ざわざわとしたけん騒に負けないくらいの一際大きな声が辺りに響き渡る。


「えーーッ!!? グランドフォースがこの町に来たの!?」

 周りの人が何事かと振り返るほどの大きな声を上げたのは、その優雅な顔立ちからはおよそ想像できないほどの親しみやすさの溢れる少女だった。
 銀色に薄いピンクがかった緩いウェーブをたらし、どこか育ちの良さを思わせる衣服に身を包んだその少女は、たった今自分がフォースについて尋ねた町人の思ってもいなかった返答に呆然とし、口をあんぐりと開けている。

「……い、いつなの!? そのグランドフォースが来たっていうのは!?」

 驚きを隠しきれない様子で慌てて更なる質問を返した少女だったが、町人はその反応に申し訳ないとでもいうようにカリカリと頭を掻く。

「いや、その……なんていうか、実はそいつ本物のグランドフォースじゃなかったんだ。どうやら偽物だったらしいんだけど……それでも聞きたいかい?」

「………は?」

 またまた思ってもいなかった答えに、さっきまで期待を膨らませていた少女は一瞬止まってしまった。
 それでもなんとか頭の中を整理し、町人へさらに詰め寄る。

「ちょ……、にせもの? なんなのそれ、どーゆーこと? 詳しく教えなさいよ」

「あ、あぁ。いいけど……」


 詰め寄られた町人は、少女の隣で控えている、どうやら旅の連れらしき剣士のほうへもチラリと視線を向けながら、以前この町を訪れた偽物のグランドフォースの紋章を描いていた男の話をした。

 その話によると、一週間ほど前にこの大陸の北に位置するアルキタ大陸より渡航したある若い男が、自らをグランドフォースだと名乗り、派手に騒げるだけ騒いで宴会をしていたそうだが、ある旅の少年により偽物ということがバレ、怒り狂った町人達にカルサラーハを追い立てられたということだった。


――……†


「は~~~~ぁ……。やっとフォースの情報が掴めたと思ったら偽物とはね。期待させるだけだなんて、その偽物……迷惑なことこの上ないわ」

 先ほど町人に詰め寄っていた少女は、脱力したかのように大きくため息をつきながらそう言うと、テーブルの上に並べられているソーセージの皿からそのうちの一つをフォークで突き刺し、口へと運んだ。

 この町に到着してからフォースの情報収集として町を歩き回り、いろいろな人に声をかけたものの手にしたい有力な情報は得られず、おまけに聞き出せたのはニセの情報だけであり、どっと疲れが押し寄せた少女は、旅の連れである従者・フォンの提案によりひとまず休憩をとることにしたのだった。
 もぐもぐと口を動かしながら周りを見回す。

 少女――リオーネとフォンの今いる場所は、簡単な食事のとれるカルサラーハの町の小さな食堂であった。
 もう昼食というには少し遅めの時間だったため食堂の中は客も少なくがらんとしていたが、それでも数組の旅人がリオーネ達と同じようにそれぞれテーブルに陣取り、食事をとったり地図などを広げて今後の冒険を話し合ったりしていた。


「……まったくですね。その偽物とやらの顔が見てみたいものですよ。フォースの名を語るなど、恐れ多いにも程があります。たしか……名をクローレンとかいいましたね」

 フォンも多少の不機嫌さをあらわにしながら、リオーネの言葉に同意する。
 町人はしっかりと偽物男の名前まで覚えていたようで、フォン達にもそれを教えてくれていた。


「でもフォースのフリをするなんてそのクローレンって人、どんな人なのかしらね~。やっぱり、ちょっとは自分の腕に自信があったりするのかしら?」

 偽物に対して腹を立てながらも、どんな人物なのか興味が湧いたリオーネはちょっと面白そうな声を出した。

「さぁ……、どうでしょうね? どんな強者であれ、私はそんなお調子者とはあまり関わりたくないですがね」

 偽物を、バッサリと手厳しい言葉で切り捨てながらフォンが言う。
 たしかに彼の生真面目な性格を考えると、フォースの名を語って派手に騒ぎ遊ぶような人種のことを、あまり好ましくは思わないだろう。

「な~んかでもここまでフォースの情報が全然ないと、もう偽物でもいいからフォースって名乗る人に会ってみたいって思っちゃうわよね」

 リオーネが軽く冗談を飛ばすが、フォンはあくまでも真面目に答える。

「そうですか? 偽物になど会っても全く無意味でしょう」

「……ま、そうだけど」

 やれやれ、この男には冗談も通じないのか……とリオーネが小さくため息をついた時だった、ちょうどそれと同時に、リオーネ達のいる店のドアがギィと音をたてて開いた。

「いらっしゃい、兄ちゃんお一人様かい?」

 店主の愛想のいい声に、ふとリオーネは無意識に視線を入り口のほうへ向ける。すると、そこにはどうやら今食堂に入って来たばかりの旅人らしき若い男が一人立っていた。

「あぁ、一人分の食事を頼む」

 男は店主にそう答えるとつかつかと店内を横切り、リオーネ達から割と近い位置の席へと着いた。


「……こんな時間に食事なんて珍しいわよね~」

 自分達もまったく人のことは言えないのだが、リオーネは席についたばかりの男を見ながらなんとなく呟いた。
 その男はどことなく影のあるような剣士風の男で、むっつりと黙って腕を組んで座っている。その表情からは、なにやら不機嫌そうであることが窺い知れた。


「なんかあの人、怒ってるみたいねぇ。何かあったのかしら?」

 また一つソーセージを口に含み、もぐもぐとさせながらリオーネが何気なく思いついたことを言う。このマナーのなっていない食事の取り方を、城の者たちが見たらなんと嘆くだろうとフォンはふと思ったがそれは口には出さず、代わりに気のない返事を返した。

「さぁ……? これほど賑やかな町ですからね。トラブルの一つや二つ、あってもおかしくはないでしょう」

 フォンの言葉に、リオーネも「そうよねぇ」とたいして気にとめていない相槌をうつと、もともとそれほど興味を引かれたわけでもないその旅の男から視線を離した。
 そして代わりに別の話題をふる。

「ねぇフォン、これからどこに向かう? ゼット達の話によると、このリアス大陸は結構大きな街がたくさんあるらしいじゃない。ジルカール、ダンデリオン、フィルデラ……、どの街から廻るべきかしら?」


 リオーネとフォンはレスト城でフォースの手がかりである一冊の書物を見つけた後、一旦ウェンデルまで戻り、再びゼット達と話をしていた。
 ゼット達とは共に命を懸けてウェンデル未開の地を冒険したので、ゼット達にも宝の正体を知る権利はあると考えたのだ。

 しかしお金にならない「フォースの手がかり」が宝の正体だと知ったゼット達は、それはリオーネ達が持つべき物だと言い、ついでにフォースについて調べるなら、大きな街の多い隣の大陸・リアスにでも行ってみたらどうかと教えてくれたのだった。


「ここから一番近いと思われるのはジルカールという街か、ダンデリオンですね。近いといっても歩きでは一週間近くかかるでしょうが……」

 フォンが地図を広げ、距離を目算で測りながら呟く。

「ジルカールか、ダンデリオンねぇ」

 リオーネはフォンが提示した街の名前を繰り返しながら、ハァとため息をつく。

「今度こそ、グランドフォースの手がかりを掴むことはできるかしら……」


 少し不安げにリオーネがもらしたとき、その言葉に反応したかのように先ほどの旅の剣士の体がぴくりと動いた気がした。
 しかしそれはどうやら、ちょうど店主によって食事が運ばれて来たからのようだ。男は黙って食事を食べ始める。


「どんな些細な情報でも、なにか聞くことができればいいんですがね」

 フォンは相変わらず地図から顔を上げずに答える。ジルカールかダンデリオン、どちらの街へ先に行くのがいいか考えているようである。


「……レキも、この大陸へ渡ったかしら?」

 ふいに、リオーネが手にしたフォークを弄びながら、ぽつりと呟いた。
 その突然の発言に、フォンが地図からチラリと顔を上げる。

 ……同時に、旅の剣士の男の食事する手が止まったようにも感じたが、それも気のせいだっただろうか。


「姫、レキにまた会いたいのですか?」

 フォンは地図を折り畳みながら、ちょっと困ったように問いかけた。


 ウェンデルで出会った少年――レキ。
 彼と別れてからというもの、リオーネはなんだかずっと本調子の元気ではないようだし、数日おきには彼のことを気にかけるような発言を繰り返していた。


「いや、えっと……会いたいっていうか、レキもウェンデルから出発したのならこの大陸に来てる可能性もあるかな~ってちょっと思っただけで……」

 なんだか焦りながら弁解するリオーネに、フォンは一瞬複雑そうな表情を浮かべたが、すぐにフッと笑顔を作る。

「姫は本当に、レキがお気に入りなんですね」

「ちがーーーうっ!!!」

 フォンにからかわれ、さらに慌てて否定するリオーネだったが、どうやらこの過剰な反応を楽しんでいるらしいフォンに気づいた彼女は、なるべく冷静さを装い小さくコホンと咳をしてこの場を仕切り直す。

「だってほら、やっぱり気になるじゃない。結局なんのために旅してるのかも教えてくれなかったわけだし……まだ13才くらいの子供が一人でよ?」

「まぁ確かに、それはそうですが」


 二人がそんな話をしていると、近くの席に座っていた旅の剣士が突然、ガタッという大きな音を立てて席を立った。
 思わずそちらに目をやると、男はまだ食事の途中らしかったが食べかけの料理をその場に残し、一直線にリオーネとフォンの座っているテーブルへと歩いて来ていた。


「……突然すみません。食事中、無礼は承知の上ですがちょっと宜しいでしょうか?」

「え? えぇ……」

 その男は二人のそばまで来ると、非常に丁寧な物腰で話しかけてきた。
 なんだか最初に感じた影のある不機嫌な男のイメージとは対照的に、穏やかで無害な笑顔を見せている。
 その優しげな笑みと突然の問いかけに、リオーネは思わず間抜けな声で返事をしてしまい、男は早速本題に入った。

「実は、聞くつもりはなかったのですが、先程あなたがたの話していることが偶然聞こえてきてしまい、その話の内容が少々気になったもので……」

「どの話かしら?」

 リオーネがきょとんと聞き返す。
 他人が聞いてそれほど気になるような話をさっきしただろうか?
 しかし男はリオーネのそんな様子は気にもとめず、真剣な表情で静かに言った。

「……レキという少年についてです」

「!」

 その言葉にリオーネとフォンは思わずお互いに顔を見合わせる。
 この旅の男はレキを知っているのだろうか。

「あなた、レキの知り合い?」

 リオーネはちょっと興味を抱いたように尋ねる。が、男の返事は予想したものと少し違っていた。

「いえ、知り合いかどうかはわかりません」

「……え?? なにそれ、どういうこと?」

 リオーネの頭の上にハテナマークが浮かぶ。わからない、とは何なのだろう?
 男は少し詳しく話し始めた。

「……実は、私はある少年をずっと探しているのですが、その少年の名前がレキというのです。あなたがたが先ほど話していた“レキ”と私が探している“レキ”が同一人物かはわかりませんが、年齢を聞いてもしや……と思ったわけです」

「あなたが探している“レキ”も13才くらいの少年なんですか?」

 フォンが口を挟む。名前と年齢を聞いただけで本人ではないかと思うなど、余程必死でその少年を探しているということだろうか。


「そうですね、……もしも生きていればそれくらいになるはずです」

 そう言った男の瞳の奥深くに、一瞬妖しい光がキラリと光ったように見えた。
 ……が、もう一度男をよく観察すると、彼はこちらに相変わらず無害な笑顔を向けているだけである。

「生きていればって、どういうことなの?」

 なんだか物騒な話に、リオーネがすかさず聞く。
 すると男は少し悲しそうな顔をしながら懐に手を入れ、なにやらカードサイズほどの小さな肖像画を取り出した。

「実は私が探している“レキ”は数年前に行方がわからなくなり、死んだという噂もあるのですが、その現場を見ていない私はどうもその事実を心から信じることができず、彼はどこかで生きているのではないかと各地を探しながら旅をしているというわけなのです」

 言いながら男は肖像画をリオーネとフォンに見せた。

「これが私の探している少年です。あなた方の出会った“レキ”とはこの少年でしたか?」

 男の差し出した肖像画を見たリオーネとフォンは、一目でそれが自分達の知るレキと同一人物であると確信した。
 それは今よりかなり幼い頃の肖像画だったが、輝く金髪と整った顔立ちは見間違えるはずもなく、現在のレキの面影がはっきりと残っていた。

 なんだか育ちの良さの窺える衣服を纏い、キラキラと輝くいくつかの宝石を身につけたその姿は、まるで一国の王子かそれでなくとも相当良い家柄の子であることがわかる。

「これ……! やっぱりレキだわ!! ねぇ数年前に行方不明ってどういうこと? あなたの知ってるレキってどういう人なの?」

 リオーネは驚いて声を上げ、思わず男の手をおもいっきり掴んでしまったが、男はぴくりとも動かなかった。
 男の顔からはいつの間にかあの穏やかな笑顔は消え、今はただ突っ立って無表情になっている。
 その顔からは、どこか邪悪な影さえも差したように見えた。

「……? どうした?」

 男からなにか不審な気配を感じとったフォンは立ち上がり、さっとリオーネを引き離す。
 するとその男は突然、ククッ……と堪えきれないような笑いをこぼし、次の瞬間狂ったように高笑いをしはじめた。


「……アーーーーッッハッハッハッハッハ!!!! 信じられん!! ……まさか本当に生きていたとはなぁ!! ……ニト、そしてティオ! やはり奴を逃がしていたのか!!」

 アハハハハハ……! と相変わらず笑い続ける男の姿は完全に異常だった。
 先ほどまで無害な男を演じていた皮を完全に脱ぎ捨て、まるで本性を現したかのようなその形相は、ゾッとするほど恐ろしく邪悪さに満ち溢れているかのようだった。
 食堂にいた他の客達も、突然の騒ぎに何事かとざわつきはじめる。

「ど、どういうこと? 何を言ってるの? ……あなた、何者なの?」

 鋭く男を睨むフォンに後方へと隠されながら、リオーネは男のあまりの変貌ぶりに驚いて放心しながら尋ねる。
 すると男はそんなリオーネに向かって先ほどまでの笑顔とは比べ物にならないくらいの凶悪な笑みを浮かべた。

「フッ、そういえばまだ名乗っていませんでしたね? 私の名はジェイル……それ以上の自己紹介は、まぁ不要でしょう。……お嬢さん、あなたには本当に感謝しますよ。おかげで彼の生存を確信することができましたからね」

 ジェイルと名乗った男はそう言うと、再び高笑いをする。
 レキの存在を見つけたことがそれほど嬉しいのか。

「ジェイル……? キサマ、レキを探してどうするつもりなんだ? 感動の再会というわけではなさそうだが?」

 フォンが緊張を走らせながらも鋭く尋ねる。


 ――レキのことをしゃべってしまったのは、もしや取り返しのつかないくらい重大な過ちだったのか……?
 こいつの本当の目的はなんだ。


 ジェイルはそんなフォンの考えを読み取ったかのように薄く笑うと、惨忍な表情を浮かべた。
 そして次の瞬間、ジェイルが放った言葉は衝撃的だった。



「彼に、生きていられては困るんです」

「……――ッ!!?」

「ですから、今度こそ確実に息の根を止める。ただそれだけですよ」


 驚愕の表情をするフォンとリオーネをひとしきり楽しそうに眺めると、ジェイルは腰にさしていた剣をすらりと抜いた。

「く……、こんな所でやり合うつもりか!」

 フォンも目の前の敵にあわせてすかさず剣を抜くと、それを真っ直ぐに構えた。

「……フ、安心して下さい。まだ本気でやり合う気はありませんよ。あなた方がレキ……いえ、かつての私の主君――レクシス皇子の行方を素直にしゃべるというのであれば、ね」



 ………



 …………エ?



 その言葉で、リオーネとフォンの時が一瞬とまった。


「………レ、レクシス皇子、ですって……?」

 リオーネは、ここまでのやり取りの中で一番驚いたように擦れた声で呟いた。

 彼女がレクシス皇子の名前を知らないわけがなかった。
 リオーネの国セルフォードのかつての隣国であるエレメキア帝国。
 そのエレメキア帝国の皇子であり、リオーネと婚約話が持ち上がっていたこともあった「皇子レクシス」。

 結局、婚約は果たされることなくエレメキアは滅びることになり、会うことなく死んだとされていた皇子――。


「レキが、あのレクシス皇子なの……?」

 呆然と呟いたまま固まるリオーネに、ジェイルは怪訝な顔をした。

「おや……? 知らなかったのですか? レキ、とは彼に近しい者が呼ぶ愛称であり、彼の本名はレクシス・シルヴァンス・エレメキア。正当なるエレメキア帝国の皇子ですよ」



 ――……し、知らなかった。

 だってレキは自分のことは全く話そうとしなかったから……。



「……その様子では、あなた方に皇子の行方を聞いても無駄そうですね。皇子が何も話していなかったところを見ると、それほど親しくもないということでしょう。……現在の彼の居場所を知っているとも思えません」

 ジェイルはやれやれとため息をつくとがっかりと肩を落とす。しかし、構えた剣は相変わらずこちらへと向けたまま降ろさなかった。

「ま、いいでしょう。皇子が生きているとわかっただけでも進歩ですからね。……それに、おそらくここからそれほど離れた場所にはいないでしょうし」

 後はこちらで適当に追い込みますよ……、そう言うとジェイルは剣を手にしたままクルリと向きを変えた。そのまま客達が唖然とする中、食堂を出て行こうとする。


「ま、待ちなさいよ!! あなたレキを殺す気なんでしょう!? 行かせないわよ! ……それに、だいたいなんで仕えるあなたがレキを殺そうとしてんのよ、訳わかんないわ!!」

 リオーネはようやく我に返ると、去ろうとするジェイルに向かってそれだけの言葉を一気に浴びせかけた。
 その叫びに、ジェイルがゆっくりと振り返る。

「それは、答える義理はありませんね。……ただ、先ほども言ったように皇子に生きていてもらっては困るんですよ」

 そう言うとジェイルは静かに、そして確実にこちらへと向けて殺気を放ち始めた。

「……それにお嬢さん、私を止めると言うのならば、それなりの覚悟が必要ですよ」

「――……ッ! ……姫!!」


 ジェイルはリオーネとフォンめがけ、手にしていた剣を振り降ろした。
 その切っ先からは激しい破壊力を持った闇の衝撃波が鋭利な剣そのものの形をして迸り、真っ直ぐに二人を襲った。


「きゃあ!!!」

「くっ……!!」

 フォンはリオーネを抱え、ギリギリのところでそれをかわすと、そのまま着地先へと倒れ込んだ。


「な、なんて破壊力だ……」

 すぐさま起き上がったフォンは、さっきまで自分達が立っていた場所の成れの果てを見て驚愕する。
 そこはジェイルの放った衝撃波が直撃し、ズタズタに破壊されていた。
 後ろにあった壁はすべて粉々に吹き飛び、店はそこから半壊している。

「あ、あいつは!?」

 リオーネは急いで出口に立っていた男のほうを振り返ったが、衝撃の影響で砂埃が舞い上がる店内の視界がはっきりした時には、もう男の姿はそこにはなかった。

「レキを……いえ、レクシス皇子を探しに行ったようですね」

 フォンは仕方なく剣を収めると、体についた埃を払う。

「素早い男です。すでに奴の気配も感じられなくなっています。今から追うのは難しいかと」

「……そんな」

 リオーネは力が抜け、ペタリとその場に座り込んだ。

「それに、今はこの惨状をどうにかしなければ……。先ほどの攻撃の巻き添えを受けた方もいるようです」

 フォンは冷静に辺りを見回すと、半壊した店内で数人の怪我人を見つけた。
 まともに攻撃を受けた者はどうやらいないらしく、全員命に別状はないようだが早急な手当を必要としている人ばかりだ。

「姫、この方々に癒しの魔法を」

「……わ、わかったわ」

 フォンに促されリオーネはこくりと頷くと、先ほど起こった頭が混乱するようないろいろな出来事を今だけは考えないようにして、魔法へと集中力を高めた――……。

       

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