Neetel Inside ニートノベル
表紙

グランドフォース 〜三人の勇者〜
第二十章「新パーティー結成」

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~第二十章「新パーティー結成」~


 フィルデラ西・郊外。
 レキ、クローレン、リオーネ、フォンの四人は一緒に旅立ち、まだ話していなかったこれまでの冒険の成果についてそれぞれの情報を共有していた。
 フォースについての伝説の続きや“世界を破滅へといざなう者”を倒す方法が書かれてあるとされているフォースを導く七冊の書物の存在。
 それを既に三冊集めていることをリオーネ達に話すと、驚くと同時にリオーネ達も一冊持っていることがわかった。
 リオーネ達が持っていたのはウェンデル西の未開の地に元々あったものだという。
 お互いに本を交換し、何が書いてあるかを確認する。リオーネ達が持っていた本に書かれている一文を読んでレキは驚いた。

「アクアフォースとフレイムフォースの紋章は生まれながらにあるわけじゃないの!? 使命を悟る時っていつ……? てことは、まだ本人も気づいてない可能性もある?」

 レキは残りのフォース達にまだ自覚がないかもしれないということは考えたこともなかった。
 グランドフォースのレキは生まれながらに紋章があるのが普通だったためそれは無理もなかった。
 だがそれなら自覚がないかもしれない残りのフォースを一体どうやって見つければいいというのか。これはかなり厄介な問題かもしれない。

「でもさ、お前グランドフォースなんだし、なんか同じフォースに会えばピピーンときて分かるとかなんじゃねーのか?」

 クローレンは適当に楽観的な意見を言ってみた。

「そう、なのかな……? わかるものなのかな……?」

 レキはちょっと自信なさそうに呟く。

「いえ、まだそうとは限りませんからね。それに既に目覚めている可能性もありますし、やはり街での情報収集が一番“堅実”ですね」

 フォンはクローレンの適当な意見が気に食わないかのようにピシャリと言った。
 その言い方にクローレンも面白くなさそうだった。

「ヘイヘイ、でも今までその“堅実”な方法で見つけられてねーんだろ。……つーか、噂になればモンスターが寄ってくるんだから正体隠すもんなのに、聞き込みで見つけられるか?」

 クローレンはクローレンでもっともな意見を言ってみた。二人が無言でバチバチと火花を散らす。
 なんで出会ってそんなに経ってないのにここまで仲が悪くなれるのか、レキにはよくわからなかった。

「レキが持ってる内の一冊、たった一行しか書いてない物もあるのね。私達が持っていた本も短いと思ったけど、もっと短いものもあるなんて……。せっかく苦労して集めたんだから、もう少しヒントを書いてくれててもいいのにね」

 リオーネがダンデリオンのフォースの花に封印されていた指南書を見ながら言った。

「あ~、その本はレキにはもっとビッシリ文字が浮き出て見えるみたいだぜ。リオーネもやっぱ見えねーか。なんかフォースにだけに見えるらしーぜ」

 クローレンがひょいとリオーネのほうに顔を向けながら口を挟んだ。

「……お前如きが姫を名前で呼ぶな」

 フォンが低い声で怒る。

「なんだよ、だって本人が姫とかつけねーでいいって言ったし」

「そうよ、フォン。今は身分を隠して旅しているんだし、仲間内でそういうのはいいのよ。ウェンデルで一緒だったゼット達もそうだったじゃない」

 ところでフォンはこの本に文字が浮かび上がる? と聞きながらリオーネはフォンに指南書を渡す。フォンにもどうやら見えないようだった。

「レクシス皇子、あなたにはどのように見えるのですか? 何がここに書かれてあるんですか?」

 フォンがレキに本を返しながら聞く。

「オレには全ページに文字が見えてて、紋章の力の概念やフォース解放の方法や応用方法を図解も含めて詳しく書かれてる指南書って感じに見えるよ」

 レキは本に書いている内容をいくつか抜粋して読み上げる。「魔力と似た感じなんですね」と言いながらフォンが聞いているそのやり取りを見てクローレンがボソッと呟く。

「フォンこそ、いつまでレキのことレクシス皇子って呼んでんだ? 本人がレキでいいっつってんのに。ほんと頭かったいよなー」

「……なんだと……」

 再び二人が火花を散らし、一触即発といった感じになったが、それを慌ててレキとリオーネが止めた。

「ちょっとちょっとやめなさいよ二人とも! どうしてそんなに仲が悪いのよー!」

「そうだよ、ケンカしないで!」

 なんとか二人を引き離し、宥める。

「でもフォン、もうオレのことレキって呼んでくれないの?」

 レキはちょっと寂しそうにフォンに尋ねる。
 あれから何度言ってもフォンの呼び方は変わらないままだった。

「……やはり亡国とはいっても皇族の方ですから、一介の剣士の私がそんなことは……。これは別に距離を置いてる訳ではなく、礼儀としてですね……」

 フォンがゴニョゴニョと言い訳をする。クローレンに言わせれば頭の固いフォンは、レキとの距離を測りかねていた。
 以前のように接したい気持ちはあるが、やはり染み付いた義理と礼儀を重んじる性格は、なかなかすぐには順応できなかった。

「………そっか、わかった。フォンが呼びたいように呼んでくれればいいよ。ちょっと……寂しいけど」

 レキは本をしまいながらシュンとして言った。
 なんだか物凄く悪いことをしてしまったようでフォンは慌てる。

「いや……。えっと…………れ、レキ……、のほうがいいんですか? ……本当の本当に?」

「!! うん! もちろん!!」

 ようやくフォンが今まで通りに呼んでくれたことにレキはすごく嬉しそうに微笑んだ。
 ここまで喜ばれてしまっては、もう取消すことはできないだろう。レキは皇族なのに変わっているなとフォンは思った。

「フォン、私のことも姫じゃなくて名前でいいのよ」

 リオーネが横から口を挟む。
 ああ、ここにも変わった王族がいたんだったとフォンは思い直す。

「私は姫に仕える剣士なので、主君だけには絶対にそれは出来ません」

「フォン~、ワタシもクロなんとかじゃなくて、ちゃんと名前で呼ばれたいナ~」

 クローレンが変なところから出したような声色で茶化す。フォンはそれを一切無視した。

「アハハ!」

 なんだか楽しくなってきたレキはつい笑いが溢れてしまった。自分の旅がこんな風に大勢でワイワイと軽口を飛ばしながらの旅になるとは思ってもいなかった。
 本当に、エレメキア崩壊以降ここまで楽しく感じたのは初めてかもしれない。仲間と共に旅することを望んでもいいという喜びをレキは噛み締めていた。
 心底楽しそうなレキの様子に、その場は少し和んだのだった。


————†


 フォルデラ郊外からさらに西・荒野。
 一行は立ちはだかるモンスターを倒しながら西へ進んでいた。
 リアス大陸の西にある大きな街・キャンディール。そこへ彼等は向かっていた。

「キャンディールはお菓子が有名な街みたいね。キャンディーが一番有名で、あとはクッキーとかチョコとか。それにお菓子の変わった慣習もあるのよ~。久しぶりの甘いものだし楽しみ~」

 リオーネがモンスターと戦闘して少し傷を負った三人にそれぞれ癒しの魔法をかけながら、ルンルンと楽しそうに言った。傷といってもほぼかすり傷程度で、この辺りに出没するモンスターはそれほど強くはなかった。

「観光に行くわけじゃないんですよ、姫」

 緊張感のないリオーネをフォンが諌める。

「甘いもんか~、あんま惹かれねーなー。な? レキ」

「キャンディーか……。オレもちょっと食べたいな」

 レキの答えにリオーネは「そうよね! 一番美味しいとこ探しましょ!」とノリノリだった。本来の目的は何処へ? クローレンはやれやれと「これだからお子様達は……」と呟いた。



「ジェイルって奴はあれで、死んだと思うか?」

 さらに西に進みつつ、人喰いキノコのようなモンスターを切り捨てながら、ふいにクローレンがレキに問いかけてきた。
 フォンとリオーネは少し離れたところで同じくキノコ型のモンスターと戦闘している。この辺りは人を喰うタイプのモンスターが多いようだった。

「どうかな……あの時はあれで精一杯だったから……倒し切れてない可能性もあるよね。そうなるとまた追ってくるかも……」

「敵側にはグランドフォースが生きてて、お前だってことが完全にバレてるって思ったほうがいいよな」

 仮にジェイルがもう生きていなかったとしても、リオーネ達から情報を得た時点で、レキのことは敵側に漏れていると思ったほうがいいだろう。
 今後さらに命を狙われたり追手がかかる可能性は高い。
 レキの表情が僅かに曇る。

「これ、フィルデラでお前が寝込んでる間に買ってきたんだ」

 クローレンは唐突に銀色のペンダントを取り出した。ペンダントトップには小さな紫色の石が埋め込まれている銀の十字架が揺れていた。

「やるよ。必ずつけておけ。外すな」

「え。なにこれ。なんでくれるの?」

 レキは不思議そうに聞く。まさか男からアクセサリーをプレゼントされるとは思わなかった。まぁ嬉しいのだが。

「んー……まぁ御守りみたいなもんだな。魔道具らしい。絶対に身につけとけよ」

「それならクローレンがつけてたほうがいいんじゃ……」

「だめだ。お前がつけろ」

 クローレンがいつになく真面目な顔をしていたので、レキは少し迷ったが素直にそのペンダントをつけることにした。クローレンがこういう様子の時は、言うことを聞いておくほうがいいことをレキは知っている。
 ちょうどその時フォンとリオーネがモンスターを倒してこちらに近づいてきた。

「なになに、なんでペンダントなんか渡してるの~。意外~」

 リオーネがなんだか面白そうにクローレンを見る。

「クローレンってそういうことするんだ~。でも相手よく見て。男の子よ」

「知ってるっつーの。御守り渡しただけだ」

「えー、私には?」

「ねーよ。従者に買ってもらえよ。レキ、それ目立たねーように服の中に隠しとけよ」

 クローレンはそう言うとサッサと歩き出す。
 レキは言われた通り、服の中にペンダントを入れる。

「レキってクローレンの言うことはすごく素直に聞くのね。彼のこと好き過ぎじゃない? 私の婚約者なのになー」

「………。だから婚約はしてないって……。クローレンはすごくいい人だよ。リオーネとフォンもすぐわかるよ」

 レキはにこっと笑った。
 そうかなーとリオーネはちょっと納得いかないように言う。グランドフォースのレキにそこまで言わせるほどの何が彼にあるのかはまだ分からないが、レキがそう言うのならそうなのかもしれない、とリオーネは思い直した。実際、レキに対してのクローレンの行動には誠意があるような気がする。

「じゃあ私はキャンディールでレキにお菓子いっぱい買ってあげるね」

「え、いいよ……自分で買う……」

 買うのは買うのか。と横で聞いていたフォンは心で突っ込む。

「まぁまぁまぁ……絶対私が買うから! ね!」

 ニコニコと有無を言わせない勢いのリオーネにレキは暫くして仕方なくコクンと頷いた。
 完全に子どもをお菓子で餌付けしようとしている図だなとフォンはため息をついた。


————†


 キャンディール。そこはお菓子と恋愛の街と呼ばれる派手な街だった。
 パステルカラーの可愛らしいハートや星のオーナメントを取り付けたファンシーなお菓子の家のような店から、ギラギラと魔法の光が煌めく怪しげな派手な店など様々だったが、街行く人は旅人はもちろん多いが、男女のカップルがかなりの割合を占めていた。
 この街がお菓子と恋愛の街と呼ばれるには理由があった。
 このキャンディールはキャンディーを始めとするお菓子が名産で有名だが、どうやらこの街のお菓子を異性にプレゼントすると恋愛が成就するというジンクスがあるらしい。
 異性にお菓子をプレゼント、または異性と一緒にお菓子を食べると恋愛成就。それは初めの頃は名産のお菓子をたくさん売るためのただの売り文句だったが、予想外に好評だったことにより今ではそのジンクスをより効果的にする商品が数々と売られていた。
 物理的な効果を高めるために実際に媚薬が入っているお菓子や怪しいまじないがかけられたお菓子も多く、何なら今ではこっちの方が主流だった。


「とんでもない街のようなんですが……」

 街の雰囲気から即座に異様なものを感じ取ったフォンは軽く聞き込みをし、この街の特性を理解した。
 フォンが戻って来るとリオーネは大人しく待ってはおらず、少し離れた店で既にレキにお菓子を選ばせているところだった。
 そのお店も例に漏れず、ジンクスを実現するために物理的な何かを施されたお菓子が売られているようだった。

「姫……ちょっと……」

 フォンがリオーネをちょいちょいと呼ぶ。

「姫、知ってましたね? この街のお菓子のこと……」

「え、フフフ……バレた? レキはまだ気づいてないから内緒ね」

「…………」

 フォンは無言のジト目でリオーネを見る。

「……お前んとこの姫さんヤベーな。男に媚薬盛ろうとする姫とか……」

 クローレンも呆れ気味だった。オレ、レキに教えてきてやろうかな~と店のほうへ行こうとする。

「ちょ、待って待って! そんな効果が強いものは選ばないようにするって! ……ただ、ちょ~っと、一緒にいてドキドキするくらいのお菓子をね……。それくらいいいじゃない、婚約者なんだし」

 リオーネはクローレンをガシッと捕まえた。

「ちょっとしたおまじないの延長よ~。もうちょっと心の内を見せてくれるくらいに仲良くなりたいし。もしも効き過ぎちゃったら癒しの魔法で正気に戻すから大丈夫だって」

「…………」

 フォンとクローレンは無言で顔を見合わせた。
 まもなくしてクローレンはリオーネに捕まっていた腕をスルッと抜くと、反対方向へ歩き出した。

「まぁ婚約者同士のことだっつーならオレは知らんし。取り敢えず酒飲んでくるわー」

 クローレンはあっさりと酒場へと向かって行った。真っ昼間から飲みに行くとはなかなかの酒豪である。二人はクローレンを黙って見送った。

「姫……」

「だ~いじょうぶだってフォン。レキには内緒ね」

 そう言ってリオーネはまたレキがいるお菓子の店に戻って行った。

「…………」

 フォンはどうするべきかわからず、暫くその場で立ち尽くしていた。


————


 リオーネに勧められ、レキはお菓子をたくさん買ってもらった。
 一人旅を始めて以降、路銀はモンスター退治により少し稼げてはいるが無駄に使う程のものはあまりなかった。
 モンスターは退治すると普通は消えてしまうが、消える少し前に魔法のかかった採取用の瓶に一部を入れたり、モンスター自体に特殊な魔法をかけること等によって消滅化を防ぎ、素材として採取することもできた。
 希少性のある牙や骨は武器の素材に、植物系のモンスターの蔓や実は薬の材料に使えることもあったので、そういったものを魔法瓶に入れ、売るなどしてお金を得ていたのだ。
 ただやはり無駄に使う分はあまりないため、お菓子のような嗜好品を買うことはほぼなく、レキにとってはすごく久しぶりの甘いものだった。
 城にいた頃はいくらでも食べれたのだが、なんだかその頃を思い出して少し懐かしい。

「ついいっぱい買っちゃったわね~。どれから食べましょうか」

 食堂で夕食をとった後、宿屋の一室のテーブルに、お菓子をいっぱいに並べながらリオーネが楽しそうに言う。他の街ではこういった甘い嗜好品自体が珍しいので、リオーネも食べるのは久しぶりでワクワクしていた。
 結局買ったのはフォン監修の下ほぼ、まじないや媚薬入りではない普通のお菓子ばかりだった。
 元々リオーネとしてもそこまでガッツリと薬を盛りたいわけではない。やり過ぎるとそれはただの悪意となってしまう。
 なので結局は一種類だけ、ほんのりとちょっと高揚感が出てドキドキする「媚薬」というほどでもないレベルのチョコレートを買ってみた。これくらいであれば理性が飛ぶこともなく、なんだか少しだけドキドキと楽しくなるお酒の延長くらいの効果のものだろう。
 これくらいなら仮に後でレキにバレたとしても、間違えて買ってしまったとも言えるし、笑い話になるレベルのことだ。

 今日取った宿は二人一室の部屋で、この街は特性上大体二人部屋の宿が多かった。
 わずかにある個室などは既に埋まっていたため、今日は二人部屋を二つ取った訳だが、おそらくレキとクローレン、それからフォンとリオーネで泊まることになるだろう。
 ただ、今だけは片方の部屋に全員が集まっており、そこでお菓子を広げていた。お菓子以外にも果汁ジュースやクローレンが大好きなお酒などの飲み物も置いてある。

「はーい、今からお菓子パーティーを開催しま~す。私達、新パーティー結成のお祝いも兼ねて、パーティー結成パーティーでーす! 今日くらいは楽しまないとね!」

 リオーネが相変わらず楽しそうに言いながらそれぞれのコップにジュースやお酒を注いでいく。

「お~、すげーじゃん! 酒まで用意してくれるとはなー」

 唐突な宴会モードにクローレンは急にノリノリになった。

「クローレン、昼間も酒場で飲んだんじゃないの? ほどほどにしなよ?」

 レキが少し呆れながら言う。ただ、レキもこの突然のパーティーにワクワクしているようなのが隠せていなかった。かなり楽しげな様子で終始笑顔だ。

「私は水で……。姫とレキ、二人も酒はダメですよ」

 フォンはリオーネとレキの保護者のように二人にそれぞれ果汁ジュースの入ったコップを渡す。
 え~私も一杯くらいは飲んでみたいわ~というリオーネの抗議をフォンは無視した。
 そしてクローレンは酒、それ以外のメンバーはそれぞれにジュースや水を手に持ち、準備が完成した。

「じゃ、これからの冒険の無事を願って……かんぱーい!!!」

 レキにとっては何もかも未知数のとても楽しいパーティーが始まった。



「ねぇレキ、どれから食べる~?」

 食べ切れないほどのたくさんのお菓子にキラキラと目を輝かせているレキの様子に笑いながらリオーネが聞く。
 いくらグランドフォースとしてすごい実力を持っていたとしても、こうなるとレキもただの子どもだ。年相応にとても無邪気だった。

「どうしよう、迷うな……。でもキャンディーが名産っていうからキャンディーから食べようかな」

 レキはキャンディールで一番有名な虹色のキャンディーを一つとった。七種類の味が混ざっており、とても美味しいと評判のものだった。ちなみにここに用意してあるのは通常バージョン、つまりまじないや媚薬のない普通のキャンディーだ。
 包みをとり、パクッと口に入れる。
 入れた瞬間、言葉にならない程の幸せな甘さが口いっぱいに広がった。

「……~~~~!!」

 口に入れてコロコロと転がすと色んな味の甘さが一度にレキの舌を刺激し、あまりにも美味しすぎてレキはとても幸せそうだった。
 その様子をリオーネとフォンは微笑ましげに見る。クローレンはそれどころではなく、酒を飲むのに必死だった。

 それからリオーネも名産のキャンディーを食べたり、他にもクッキーやチョコをレキと一緒にたくさん食べた。
 フォンとクローレンも少しは食べたがあまり興味はないようでだいたいのお菓子はレキとリオーネで食べてしまった。


「ねーねー、レキ! 見て~こんなチョコも買ったの。これもすっごく美味しいらしいのよ」

 パーティーも終盤になり、リオーネが満を持して例のチョコを取り出した。
 微量の媚薬とまじない入りのアレだ。
 緊張の走ったフォンがピクリと眉を一つ動かす。

「ピンク色のチョコだ。美味しそう。食べていいの?」

 レキは興味津々だった。
 そんなレキにリオーネはそのチョコを一つ渡す。

「いいわよ。はい、どうぞ! できれば、私を見ながら食べてね!」

「? うん!」

 ニコニコとチョコを渡してくれたリオーネの言葉を不思議に思いながらも、レキは素直にリオーネを見ながらピンク色のチョコを口に入れる。
 そして食べた瞬間——そのあまりの美味しさにとろけそうになる。

 ——なんだこのチョコ……? 初めて食べる味だ……。

 食べた瞬間とろけるような甘さが口いっぱいに広がり、レキは今までで一番幸せな気持ちになった。
 とんでもなく甘ったるい味なのに何故かそれがこれまで食べたどんなお菓子よりも美味しく感じた。
 同時に頭がぼんやりとしてきて高揚感が広がってくる。なんだかドクドクと鼓動も早くなっているようだった。すごくフワフワする。

「リオーネ……」

 頬が紅潮し、潤み始めた瞳でレキはリオーネを見る。

「あ、あれ……? なんだかすごく効き過ぎちゃってるような……」

 リオーネがレキの変化に焦るような嬉しいような複雑な調子で呟く。

「……もういっこ、たべていい?」

 レキがジリジリとリオーネに近づきながら聞く。そして熱のこもった視線でジィっとリオーネを見つめた。

「え、えっと……、多分これは一つのほうがいいかなー。ほんのり効果でここまでだなんて……」

 リオーネは焦りながらチョコを隠そうとした。だがレキにガシッとその手を掴まれ、さらに体ごと引き寄せられる。

「リオーネ……? あれ……なんで今まで気づかなかったんだろ……オレ……もしかしたらキミのこと……すごく……好」

 レキがそこまで言ったところでゴン!と後ろから盛大に頭を殴られた。
 クローレンが容赦なく、拳でレキの頭を殴っていた。ちなみにフォンは、婚約者同士の王族相手にどこまで介入するか決めかねてソワソワしておりクローレンに先を越されていた。

「レキ、目を覚ませ。お前チョコに酔ってるぞ」

「え……?」

 レキはぼんやりとクローレンを見たが、その瞬間、唐突に今のこの感覚が初めてではないような変な感覚に陥った。
 朦朧とする薄暗い意識のなかで妖艶に微笑む唇。漆黒の女。花畑の風景。そしてその女と何度も……。

「あれ……? オレ…………」

 レキはそこまで言うと、意識をハッと元に戻した。キョロキョロとし、自分が先ほど何をしていたか、何を感じていたかをよくわかっていないようだった。

「? オレ今何してた?」

「………ご、ごめんなさい、レキ……」

 リオーネはひたすら平謝りだった。


————


 その夜、キャンディールの宿屋で予定通り、レキとクローレンの二人部屋とリオーネとフォンの二人部屋に別れて就寝した。
 パーティー自体は楽しかったしお菓子もすごく美味しかったのだが、ベッドに入りながらレキはむーっと怒っていた。

「リオーネひどい……。絶対にもうお菓子もらったりしない」

 事の経緯を聞いたレキは非常にショックを受けていた。信頼していた仲間からもらったものに変なものが仕掛けられていたので無理もなかった。

「まーまー、可愛いもんじゃねーか。ほんとは効果はもっと薄いはずだったらしーぞ。ちょっと高揚する酒くらいのな。素直に白状したんだから許してやれよー」

 クローレンはフォローに回るがレキは相変わらずむぅっとしたままだった。そうだとしても黙ってそんなことするなんてひどい、と呟いて取り付く島もない。

「……お前はあの姫さんのことどー思ってんだ? 婚約者みたいなもんなんだろ?」

「婚約は結ぶ前だったの! だからそういうのじゃない」

 レキは相変わらずムッとしたまま否定する。その様子はなんだかすごく子供っぽいような幼さがあった。
 そんなに変わんなくねーか?とクローレンは思ったが言わないことにした。

「…………まー、お前には確かにまだ早そうだな。にしても、なんであんなに強力に効いたんだろーなー。効果が出過ぎる要因としては、体質もあるらしーが、既になんらかの魅了状態にある場合か、それか体調が著しく悪かった場合、まじないに対する弱体化状態にある場合……」

 クローレンがリオーネが持っていたチョコの効能と注意事項の部分を読み上げる。
 レキにはどれもピンとはこなかった。

「やっぱりクローレンとの二人旅のほうがいいかな?」

「……冗談だろ。許してやれよ」


————


 その夜、レキは夢を見た。
 どこかの街をそっと一人で抜け出し、郊外の街道を歩く夢。
 郊外にまばらに生えている木々の中、その一つの木陰に黒いドレスを着た一人の女が佇んでいた。
 その女の姿を見つけるなり、レキはそこへ嬉しそうに駆け寄っていく。レキが近づくと女は微笑んで、さらにレキを手招きした。
 そしてレキがその女の元へ辿り着くなり、二人は惹かれ合うように抱き合った。そして同時に熱い口付けを交わす。
 二人はそうやっていつまでも一緒にいた。


————


「!!?」

 レキはガバッとベッドから飛び起きた。
 そこは昨日みんなでパーティーをしたキャンディールの宿屋の一室だった。
 今はまだ夜中のようで、隣のベッドにはクローレンがむにゃむにゃと何か寝言を言いながら寝ていた。

「……変な夢」

 レキはボソッと呟く。
 木陰に隠れて女性と抱き合いキスする夢。
 別にそんなことをしたいと思っているつもりはないのだが、なぜこんな夢を見るのだろうか。自分では自覚はないが深層心理なのだろうか。
 それとも昨日の変なチョコの効果がまだ続いているのだろうか。
 だが夢の中の相手はリオーネではなかったような気もする。鮮明ではなく、なんだかぼんやりしてあまり思い出せなかった。

「……もう一回寝よ……」

 まだ起きるには早過ぎる。レキはもう一度ベッドに横になった。




 結局、あれからはあまりよく眠れなかった。
 宿屋一階の食堂で、クローレンと朝食をとりながらレキは大きな欠伸をする。

「なんだ? よく眠れなかったのか? めずらしーな」

 クローレンがパンを齧りつつ、眠そうなレキの様子を気にして聞いた。

「うん……なんか変な夢見ちゃって」

 レキはぼんやりとした目を擦りながら答える。
 ちょうどそこにリオーネとフォンもやって来てレキ達と同じテーブルについた。

「お……おはよ~。レキ、クローレン」

 リオーネは少しだけ緊張したような様子で挨拶した。昨日はあれからレキとは気まずくなったまま解散したのだった。

「………おはよ」

「お~っす。今日はこの街で聞き込みするんだろ? 早く飯くえよー」

 レキとクローレンはそれぞれ挨拶を返したが、レキのほうは少し間があり、最低限の返事だけだった。そしてそれ以上は何も言わず、朝食のスープに視線を戻し、食べ始める。

「レキ……まだ怒ってる?」

 レキの隣に座ったリオーネが、レキの顔をそーっと覗き込みながらおそるおそる聞く。

「怒ってないよ」

 そうは言ってくれたがリオーネのほうを見てはくれなかった。


 それから四人はキャンディールの街でフォースについての情報やこの街近辺で不思議な封印や噂がないかなどの聞き込みを行うことにした。
 全員で行くよりはそれぞれで回ったほうが効率がいいため、夕方にまた同じ宿屋で落ち合うこととして別行動をすることになった。
 ただ、いくら街の中とはいっても荒くれ者の旅人も少なくはないため、リオーネだけは一人では危ない。いつものようにフォンがつき、三手に別れて情報収集に行こうとしたところでリオーネはレキのほうへ駆けていった。

「今日はレキと一緒に回るわ。だからフォン大丈夫よ」

 リオーネの突然の行動にレキもフォンも驚く。

「……えっ、なんで」

「姫……?」

「たまにはいいじゃない。レキと私で回るから、フォンとクローレンもそれぞれ情報収集お願いね」

 結局リオーネに押し切られ、そのご要望のまま三手に別れることになった。
 まぁ別にいいかと取り敢えずレキはリオーネと一緒に街並みを歩く。

「……ねぇレキ、昨日は本当にごめんなさい。あなたの信頼を裏切ることをしたわ。……反省してる」

 二人になるとリオーネはもう一度改めてレキに謝った。レキともっとちゃんと話したかったため、リオーネはレキについてきたのだった。
 あまりにも一生懸命謝るその姿に、レキもなんだか毒気を抜かれてしまった。

「うん……。もういいよその話は。もう怒ってないから。……昨日はオレのためにたくさんお菓子買ってくれてありがとう」

 レキはようやくにこっとリオーネに笑いかける。いつもの笑顔だった。
 レキの対応が戻ったことでリオーネは心底安心した。

「う~~……。よかった……。このまま嫌われてレキがどっか行っちゃうかもって思ったわ」

「そんなことないよ」

 半分冗談ではあったが昨日クローレンに二人旅のほうがいいかなと聞いていたレキは内心ギクっとしていた。……バレてるなぁ。
 そんなことを思っているレキの横でリオーネはさらに喋り続ける。

「言い訳かもしれないけど……フィルデラから出発する時も置いていかれるかと思ったし、今も無理矢理レキの旅にくっついてるんじゃないかなって思ってて……。だから少しでも早く、もっと仲良くなってそんな心配しなくてすむようになれば……! って思っちゃって……」

 でもちょっと焦り過ぎたし、やり方が悪かったわ、とリオーネはしょんぼりしながら言った。
 確かに、そう思わせていた部分はあるだろう。実際にフィルデラから出発する時、最初はクローレンと二人で行こうとしていたレキには耳が痛かった。

「そうだね……確かに。……ごめんね、オレが悪かったよ」

 リオーネが言うことはもっともだとレキも思ったので素直に謝った。そして少し考えた後、突然真剣な表情をしてリオーネの目を見る。

「ごめん、もう絶対に置いていこうなんて思わないって約束する。オレにとって、リオーネもフォンも必要だよ。危険な旅だけど……一緒に来て欲しい。……これが、オレの本心だよ」

「……! も、もちろん! わかったわ!」

 リオーネは突然のレキの真剣な表情と言葉に、少しドキリとしながらもコクコクと頷く。ようやくレキから「必要」「一緒に来て欲しい」という言葉を聞けて安心した。最初からこうやってちゃんと話せば良かったとリオーネは思う。

 リオーネが承諾したことで、レキも嬉しそうだった。本音を言えたことで少しスッキリしたのかもしれない。見たこともないような優しい笑みを浮かべ、大事なものを見るような目でリオーネを見る。

「…………ッ」

 なんだかリオーネは急に顔が熱くなってくるような感覚を覚えた。昨夜レキに迫られた時のことを瞬時に思い出す。
 あの時のように紅潮してリオーネに惹かれていた時の表情とはまた違うが、今の表情もリオーネのことを大切に思ってくれているのが十分わかる表情だった。

 ——もう……、これだからいけないのよね。レキは……。

 レキに媚薬とまじないのこもったお菓子を食べさせたのは、やっぱりほんのちょっとだけは、シンプルにレキの気を引きたい気持ちがあった。

 初めて会った時からレキには何故か心を惹かれたし、知っていくうちにどんどん気になっていってしまう不思議な少年だった。
 しばらく離れた時は想像以上に寂しくなったし、婚約するはずだったレクシス皇子だったとわかった時も、何か運命的な思いを感じた。
 そしてレキがグランドフォースだったこと、危険に巻き込みたくないという優しさで自分達を遠ざけていたその思い、そして何より……リオーネが最大のピンチだった時に駆けつけ、ボロボロになりながらも助けてくれたこと。

 そんなことをされてしまっては、前よりももっと……本当の意味で惹かれてしまう。
 レキにも、リオーネのことを少しでも好きになってほしいという気持ちが出てしまった。
 こんな怪しげなまじない、誰にでもするわけない。レキにだから……した。

 二人は再び歩き始めた。さっきよりも心なしか距離が近くなったような気がする。
 キャンディールの街並みは相変わらずお菓子を売っている店ばかりで、若い男女が色めき立ちながら異性に渡すと思われるお菓子を選んでいた。

「結構危ないよね、この街のお菓子……。リオーネはもう誰かにあげたり貰ったりしたらダメだよ」

 レキが店に並ぶたくさんのお菓子を遠くから眺めながらふと言った。
 昨日食べたチョコの効果はすごかった。
 急に頭がぼんやりしてモヤがかかったようになり、見るもの全てが魅力的に美しく映った——ような気がする。正直、その先のことははっきりとは覚えていない。ただ、リオーネを抱き締めたくてたまらなくなった感覚はわずかに覚えている。
 もしもあのまま誰も止めてくれる人がいなかったら一体何をしていただろうか。

「……クローレンがすぐ止めてくれて良かったよ。オレとしてはみんなに変なところを見られて恥ずかしかったけど……まぁそれだけで済む話だけどさ、リオーネは女の子だしお姫様なんだから、もっと気をつけないと」

 なんだかフォンみたいなことを言うなとリオーネは思った。
 というか、もしも誰も止める人がいないところでレキに食べさせていたら、何か危なかったというのか? そう思うとなんだかソワソワした。
 ちょっとくらい危なくてもよかったんだけど……と不埒なことを考える。

「別に誰にでもあんなことするわけじゃないわ。レキは婚約者だし……ちょっと気持ちが緩んだっていうか……」

「…………。その“婚約者”ってやつなんだけど……婚約はまだしてなかったと思うんだけどな。仮に婚約が成立してたとしても、オレはもう皇子じゃないから無効だよ」

 レキは、ハハと少し自嘲気味に笑う。

「リオーネにはもっと相応しい人がいると思うよ」

 その言葉に、リオーネは楽しかった気持ちが急激に萎んでいくかのように悲しくなった。
 レキ以外に相応しい人というのは全くピンとこなかった。

「……相応しい人なんて、他にいないわ。婚約話が出たあの時よりも……今のほうがもっと、私はあなたと婚約したいと思ってるわ」

 かなりストレートな物言いになってしまった。
 レキは一瞬えっ、となる。
 もうここまで言ってしまった以上、恥ずかしいがリオーネは自分の思っていることを全部言うことにした。

「エレメキアが亡国だろうと関係ないわ。元々は私がエレメキアに行くはずだったけど、こうなったならあなたがセルフォードに来て私と結婚すればいいだけの話よ」

「!? な、なに言ってるの……」

 唐突なリオーネの提案にレキはぽかんとした。

「それはないでしょ。オレにはもう何もないのに……」

「資格はあるわ。亡国とは言ってもちゃんと皇族の血筋を持ってるし。それにあなたはグランドフォースだわ。グランドフォースとの結婚を許さない国はないと思うけど」

 人々の希望であるグランドフォース。そんなグランドフォースが自分達の国の人間、さらには上に立って人々を導く立場になれば国民の士気はかなり高まるだろう。そういった意味ではどこかの国の王子という肩書きよりも余程貴重な存在だ。

「……でも忘れたの? グランドフォースがいるって知れ渡ったらセルフォードだって滅ぼされちゃうよ。ただの災いでしかないんだよ」

 レキが居たせいでエレメキアは滅んだ。そのことをレキは絶対に忘れることはできない。あんな惨事はもう二度とゴメンだ。自分のせいで次はリオーネの国セルフォードが滅んだらと思うと、恐ろしくてたまらない。
 するとリオーネは、そうね~それなら……と少し考える動作をした。

「なら、“世界を破滅へといざなう者”を倒して全て終わった後ならいいでしょ。あなたの旅に私はついて行くって決めたんだし、もう私達は一連托生よ。もしも二人とも無事に帰ってこれたら……セルフォードで結婚式! これでどう?」

「…………えっ……いや、でも……」

 なんだか承諾していないうちにどんどん勝手に話が進められている気がする。
 それに全てが終わったらなんて、まだ何もやり遂げられていないうちからそんなこと、想像の範疇を越え過ぎていて全く現実感が湧かない。
 そんなことを約束も何もできない。

「……やっぱりそれはないよ」

 レキはきっぱりと言った。

「じゃあレキ、あなたは全てが終わったらどうするつもりなの……? 帰る場所は……?」

「…………え?」

 リオーネのその問いに、レキはすぐに答えることが出来なかった。そして同時に、自分でも驚くほど動揺する。
 確かに、今まであまり深く考えたことはなかった。
 この瞬間を生きるのに必死で、グランドフォースとしての使命を全うすることにも必死で、その後のことなんて……何もなかった。

 ——確かに、オレはどうするんだろ……。全てをやり遂げて終わった時……。

 エレメキアはもうないのだ。レキには帰る場所なんてない……。


「……ね、今すぐ決めろなんて言わないから……考えておいて。全部終わった後、あなたが一人ぼっちだなんて、私も悲しいわ」

「…………」

 リオーネは、そっと優しく言ってくれたが、レキは何と返していいかわからなかった。
 全てをやり遂げたとしも、大事なものは何一つ戻っては来ない。
 最近の旅が楽しかったのでその現実を少し忘れかけていた。他のみんなにはちゃんと帰る場所があるし、旅が終わればやがてバラバラにそれぞれの場所へと戻って行くのだろう。
 だが、レキには帰る場所がないままだということに、改めて気づかされた。

「レ、レキ……?」

 黙り込んでしまったレキに、リオーネは遠慮がちに呼びかける。
 レキの今後を心配して言ったことだったが、逆にレキに現実を思い知らせてしまったような気がして焦る。

「………ごめん、ありがとうリオーネ。オレのこといっぱい考えてくれて」

 レキはにこっと笑った。いつもより元気がない精一杯の笑顔だった。

「ううん……。だから、ね。そういう道もあるわよってことを、あなたに知っておいて貰いたくて。まだ先は長いから……ゆっくり考えてみて」

 なんだかレキの寂しさにつけ込んでしまっているような気もしたが、だが心配する気持ちは本物だ。

「…………うん。ありがとう」

 レキはもう一度笑った。なんだかこっちまで切なくなるような笑顔で、リオーネは胸の奥がキュウとなるような気がした。
 少ししんみりと沈んでしまった空気が二人の間を流れる。

「え~と……」

 リオーネはしばらく何と言おうか考えたが、やがて、しんみりとした空気を吹き飛ばすようにわざとちょっと元気な声を出した。

「じゃ、それまでは私達は今までどおり婚約者(仮)ってことで……! そろそろ真面目に情報収集を始めましょうか」

 リオーネはニコッと笑いかけるとレキの手を引いて駆け出した。

「わ! ちょっと、リオーネ!」

 レキはびっくりしながらも、笑顔で笑いかけてくるリオーネを見ていると、なんだか少しだけ元気が出て来た。
 手を繋ぎ二人並んで駆けていく姿は、確実に二人の距離が縮まったことを物語っていた。

       

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Neetsha