音楽をやりたい高校生が四人集まれば、自然とギター、ベース、ドラム、ボーカル、という感じにばらけて、アニメだったら最終話には学園祭ライブでいい感じに仕上がるものだ。だがアニメでも四コマ漫画でもない私たちの青春時代は、まったくいい感じにばらけることなく、全員がドラマー志望だった。
ツーバスを極め過ぎてスリーバスをやりたいものの、足が二本しかないことにいら立ち、ちんちんを三本目の足にしようと改造手術を目論むタカシ。
基本的なリズムパターンは全部無視してフィルイン(ドドタン、ドドタン、ドドタン、トコトコトコトコ←これ)だけやりたいタケシ。
ギターとベースの不在をギターとベースをドラムスティックの代わりにすることで補おうとするタダシ。
彼らが軽音部結成の書類を提出する際にたまたま通りかかっただけの私、高橋。
「ドラム部でいいんじゃないの?」とごくごく真っ当なことを言う教師に対して、その頃のタカシとタケシとタダシは「他の楽器のメンバーが入ってくれるかもしれないので」と軽音部で通した。
部の活動は、まずドラム初心者の私に三者三様の教え方でドラムを叩き込むことから始まった。上記のように癖の強い三人であるから、私は彼らに教えてもらったことを一旦全て忘れて、教則本を買って基礎から一人で練習することにした。結果、唯一まともな演奏をする人間として、外部から誘われてライブハウスデビューすることになるのだが、それは別のお話。
ひたすらドンドコドコドコやってるだけだった一年生の後半、一人の転入生が私たちの高校生活を変えてしまった。もう一人のドラマー志望者、高梨に、私たちは全員恋をした。
といった感じで青春ドラムストーリーが幕を開けそうになったところで一息ついてみよう。ここからどういう展開を選ぶかで、小説執筆者それぞれの個性が出る。
・本格的なバンド物にする。
それぞれの楽器の面子を追加し、冒頭にあげたように最終的に学園祭でいい感じに持っていくまでの過程、失敗と成長、悩みや事件などを書いていく。
・恋愛ものにする。
転入生を巡るそれぞれの恋模様。恋とドラムとどちらを取るか。あるいはどちらも取らないか。彼女を追いかけてきた元彼との殴り合い、高鳴る鼓動とバスドラのビートを重ね合わせる。
・バトルものにシフトする。
ドラムスティックを武器にして、警察やら地球外から飛来する怪獣と戦ったりする。
「いつからバンドものと勘違いしていた? これは戦隊ものだ」
・勝手に案件にする
各ドラムメーカーの違いや、どの教則本がいいかなどをさりげなく作中に書き込み、進研ゼミ漫画のようにみるみる上手くなっていく様子を書いていく。勝手にメーカーに持ち込み玉砕する。
もちろんそのまま「青春ドンドコドコドコ」を真っ当なドラムドラマとして書き続けても構わない。しかし字面が地味であるし、やはり他の楽器も絡まないと展開しづらい。
そこで私はどうしたか。賢明な読者なら既に察しているかと思われる。
「青春ポコポコポコポコ」と改題して、青春木魚ストーリーを書き始めることにした。
「青春ポコポコポコポコ」
祖父の法事の際に、お坊さんが木魚で刻むビートに感激したタカシは、親友のタケシ、従兄弟のタダシ、木魚屋の私、高橋と一緒に木魚部を結成することにした。始めは四人で集まってポコポコと木魚を叩いているだけで楽しかったのに、軽い気持ちで出場した木魚演奏大会で、世界大会優勝経験者の木魚の音色を聞いたことから、私たちは本気で木魚の演奏に取り組むことになった。美少女転入生の高梨が木魚に興味を持ってきたが、私たちは彼女に一切興味を持つことはしなかった。恋愛関係なら既に部内で、男同士で完結していた。
「この木魚では、全国には行けない」
父の店で売られていた最高級木魚であっても、全国レベルの大会では歯が立たないことを私たちは悟ってしまった。伝説の木魚制作のために中国の山地奥深くまで赴き、そこで木魚職人とも運命的な出会いを果たした。山中で滑落したタダシを諦め、私たちはその木魚職人と一緒に世界大会へと駒を進めた。
かつて私たちを打ちのめした対戦相手とは、世界大会決勝で相まみえることになった。準決勝で一人負傷(木魚爆裂により)した相手チームは、一人の選手を補充した。それは中国の山中で滑落して行方不明となったので放って帰った、あのタダシであった。改造手術を受けもはや知性を失い、三本目の足を操るタダシを、私たちは血と涙を流しながら打ち破った。
そうすることが、私たちにとっての真の友情だから。
高校卒業後はそれぞれ進学・就職・結婚して二度と木魚を叩かなかった。木魚職人も大会終了後すぐに中国へと帰った。
(了)
あとがき
「青春デンデケデケデケ」という映画がありました。ベンチャーズのコピーをする高校生の話でした。日々「青春とは?」を自らに語りかけている私の頭に自然とそのタイトルが浮かんできました。違うバージョンを書いてみようと思い、ドラムドラマ「青春ドンドコドコドコ」の構想が浮かびました。しかし、どうも話の展開が怪しくなり(三本目の足を生やしたいタカシあたりから)、途中で挫折してしまいます。ですがボツにして終わり、ではなく、この創作の危機に対してどう立ち向かったか、という姿勢そのものを書こうと思い立ちます。すると自然と木魚を叩く高校生たちの姿が浮かんできました。もちろんすぐに話の展開は怪しくなり(恋愛関係が部活内の男子だけで完結していたあたり)ましたが、もう気にしませんでした。