Neetel Inside 文芸新都
表紙

ヤング作家が文ゲイに挑戦しましょう
魔人の館 −静寂の血族−

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 -序幕-


ようこそ、魔人の館へ。

おっと、入口の石像には触っちゃダメだよ。
寝不足になっちゃうからね。
意味がわからない?
まあ珍しいものだから、壊されると大変な事になるんだ。


さて、ここは普通の占いの館とはちょっと違う……。
なんたって本物の悪魔を呼び出すんだから。

うん、その目は疑ってるね?
まあまあ座って、じきに信じるようになるから。

え、僕の年齢?
そんな事聞いてどうするのさ。

信じられない?

僕が幼く見えるからかい?
こう見えても二十歳過ぎてるんだぜ。

えーって、そんなに驚く事じゃないでしょ。
なんなら免許証見せようか。


左手を見てて……1・2・3、ほいっ!


あはは、驚いた?


……そんなに怒る事ないじゃないか。
え、帰る? 帰っちゃうの?

ちょっと待って、今のは冗談だってば。
ほら良く見て、免許証も本物でしょ。


ねえってば、ちょっと……。




 -第1幕-


「ちぇっ……本当に帰っちゃったよ」
僕は誰も居なくなった空間を見つめ、ため息まじりにつぶやく。
「ちょっと手品を見せただけなのに……。あーあ、久々の客だったのになあ」

「貴方のはマジックではなく、本物の魔法でしょ」

ふいに入口の方向から声が発せられた。
脇には悪魔をかたどったと思われる石像が、空ろな瞳で青年を見据えている。

僕はかまわず、誰も居ない空間に向かって返事をする。
「……そうだけど、素人目にはただの手品に見えるはずだろ。何も怒らなくたって……」

「あの閃光と煙は魔法特有のものだと思いますが……」

突然何も無かった空間に人が表れた。
すらりと伸びる白く、長い足。
ボディーラインがはっきり見えるタイトなワンピ。
全体的に赤と黒を基調にしたカラーリングは彼女のお気に入りだ。
肩口で切りそろえられた黒髪にも、赤いメッシュが入っている。
そして真っ白な肌に妖艶に浮かぶ真紅の唇。
その唇が踊り、言葉を紡ぎだしている。

「だけど、パッと見、分かる人なんていないよ」
「魔法は本来、むやみやたらに使っていいもんじゃないでしょう?」
「……だってあの人、僕の事信用してなかったし」
「まだまだ子供ねえ、童子は」
「子供じゃない! 僕はもう23才だぞ!」

童子と呼ばれた青年--どう見ても少年だが--が頬を膨らませて抗議の表情を示した。
机に置かれたままの免許証には、1984年生まれ23才と書いてあるが、
低い身長と童顔、子供然とした仕種などが彼を実年齢以上に若く見せている。

「そういう所が子供なのよ」女は声に出さずつぶやく。
彼女は免許証に一瞥をくれてから、机の上に腰掛けた。

「商売道具の上に座るな!」
すかさず童子が反応する。
「どうせ客なんか来やしないでしょ」
「さっき来てたじゃないか」
「怒らせて帰っちゃったじゃない。……それにしてもヒマねえ」
「世の中不景気らしいからな。同業者も厳しいらしい」
「童子ほどの力があれば、お金なんてすぐ稼げるでしょうに」
「そんな事ないさ、僕はこれが天職だと思ってる」
「客に逃げられる占い師が?」
「……そんな事より早く戻ってくれないか。客に見られるとマズいだろ」
「来やしない客の心配より、自分の事を考えるべきよ」
そう言って彼女は、人さし指を唇に当て、悪戯っぽく笑う。

「だからさっき来てただろ!」
からかわれていると分かりつつも、語気を荒げてしまう。
こういう所は自分でも子供なんだと思う。

「それは童子が……」
彼女の言葉を聞き終わる前に、入口に人影が見えた。
こんな所を見られたら、また客に逃げられてしまう。
童子の心配をよそに彼女の姿は既に無く、部屋には童子と2体の石像があるだけだった。

「やれやれ……」
安堵のため息をつき、客を迎え入れる。
「あっれ~? 先客が居たんじゃないんですか?」
そう言いつつも、声の主はずかずかと中へ入って来た。

どうやら新しい客のようだ。
「それみたことか」
童子は勝ち誇ったように心の中でつぶやいた。

       

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