Neetel Inside 文芸新都
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ハルカ
ハルカ〜遥か空へ紡ぐ歌〜

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9.

 僅かに残った『亀』が、勢いを殺す事無く対地砲台を潰していく。
 大多数の対地砲は対空砲と共に『鴉』が潰していた。
 後は活路を開く為に、岩山の間に隠れるようにして存在する対地砲台を潰せば良い。
 敵の砲撃網さえ弱まれば、後は『龍』の火力によって全てを破壊する事も容易い。
 例え『龍』が全てを破壊しなくとも、陣地に風穴さえ開けてしまえば、対地攻撃能力の減少した今ならば、歩兵による制圧だろうと可能だった。
 逆に言えば、航空機まで持ち出して守ろうとする砦だ。今、砦に決定的な打撃を与えられないと、粘られて、こちらが疲弊する恐れもある。

 遅れて味方の戦闘機がやって来て、交戦を始めた。
 飛騨は胸を撫で下ろす。
 これでハルカは安全だからだ。
 後は飛騨の部隊が敵対地砲台を潰して、薫の部隊が敵陣地に穴を開ければ作戦は成功したようなものだった。
 そう思った矢先、敵の外骨格部隊がついに現れた。
 飛騨は躊躇う事無く随伴機へと攻撃命令を出す。
 薄い鉄板程度なら引き裂いてしまう機銃。
 装甲歩兵の鎧も軽々と引き裂いた。
 だが『亀』の随伴機もある程度の貫徹性能を持つ攻撃には容易く破壊されてしまう。
 ましてや、通常の重歩兵とは比べ物にならない火力を有する外骨格部隊の前では『亀』の随伴機など亀ではなく、紙のようなものだ。
 そもそも『亀』というのは指令機の形と性質を言い表したもので、随伴機の特徴を現している訳ではない。
 随伴機はただ、特殊な形状をした薄い装甲で身を包んでいるだけの兵器だ。
 貫徹能力を高めた高速射出する小型弾や、ある程度重い弾を相手にすると歯が立たない。

 見る見る間に破壊されていく随伴機。
 応戦していては対地砲台を潰す前にやられてしまうと諦め、飛騨は対地砲台のもとへと複数の随伴機を向かわせた。
 一機、二機、敵の対地砲台が潰されていく。
「よし、最後の一機だ! それを潰したら、即砲撃開始だぞ」
 飛騨が通信で叫んだ。
 仮に傍受されていようと、もう敵に対抗する術は無い。

 大きな爆発音が起こった。

 薫が動き出す。
 二機の随伴機を率いて、木を薙ぎ倒しながらその姿を現した。
 しかし、目の前には砲台。
 砦を壊す以前に、まだ砲台が壊れていない。
 自分の命の危険を感じ、薫は機体を下げ始めた。
 が、木に足を取られて下がれない。
 それまで止まっていた砲塔が、ゆっくりと動き出した。
「撃て!」
 飛騨が叫ぶ。
 指令部からも撃てと命令が飛んだ。
 自分で敵の砲台を破壊すれば良い。
 そうすれば命は助かり、敵の陣地も破壊出来る。
 漸く木が足元から除かれ、後退出来るようになったが、薫は地面に杭を打ち込んで姿勢を安定させた。
 上部に搭載した超巨大砲塔を敵砲塔へ向ける。
「待って、ひだっちがそこに居るの!」
 通信が入る。
 ハルカの声だった。
 僅かな躊躇。
 敵砲塔を破壊する為に走り回っていたのだから、射線上に居たとしてもなんら不思議は無い。
「亀の装甲なら大丈夫だ!」
 それは確かだった。
 亀の装甲は、それこそまともな対戦車砲を直撃でもしない限りは貫けない。
 薫はその言葉を信じ、全機に発射を命令する。
 敵の砲塔が、あと少しで『龍』へと向きそうだった。

 ハルカは見てしまった。
 爆発によって横転し『龍』へと腹を向ける『亀』の姿を。
「ダメ! 撃たないで!」
 その叫びよりも数瞬早く、既に砲弾は射出されていた。
 爆音と、木々を燃やし尽くす炎が、その現実をハルカへ伝える。
 砦攻略用の砲として搭載した『龍』専用の大砲が全てを吹き飛ばしていく。
 砲は、ハルカ自身が改良に立ち会った、言わば彼女が作ったと言っても過言ではないものだった。
 それが、全てを、全てを吹き飛ばしていく。
 僅かに遅れて入った通信で、彼は愛してると叫んで散った。














       

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