Neetel Inside 文芸新都
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ハルカ
ハルカ〜決戦〜

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8.

 今回の作戦の要は、彼ら『第二機甲部隊』であった。
 故に、作戦の立案者も彼らに委ねられる。
 そして立案者に抜擢されたのは天才と謳われし科学者にして軍人のハルカ。
 冷戦後の幾つかの戦いを経て、軍内部で最も勲章を稼いでいる彼女であった。

 今回の陣地にはいかなる手段も通用しない。
 航空兵器は全く近寄れず、陸上兵器も近寄る事は出来ない。
 人間が近付くのも辛く、待ち伏せが容易な地形である事も加わって実質不可能。
 ミサイルは今や迎撃される確率の方が高く、砲撃をするにも敵陣地に届かないのでは話にならない。
 当然、届く位置まで移動すれば相手の砲撃で反撃されるのが関の山。
 そもそも、砦の耐久性が非常に高く、並大抵の兵器では砦を破壊する事など不可能。
 ただ、二度の突撃で砦前方の一部分だけは、対地、対空能力が減少していた。

 これに対するハルカの立案は、あまりにも大胆なものだった。
 超多数の無人機による神風アタック。
 敵の対空砲撃網さえ抜けてしまいさえすれば、穴を作ることが出来る。
 後はその穴に『亀』を投下し、対空砲台を優先して殲滅。
 殲滅が済み次第『亀』は退避、攻撃機を利用した爆撃で敵を無力化する。
 というもの。

 しかし、これまでの戦いの損害とこの作戦の成功率を考えると、爆撃機はそんなに出せないという話になった。
 爆撃機の数がもう残り少なく、これは海を越えた敵本土への攻撃に向けて、温存しておきたかった。
 そこで随伴機が二機残った『龍』を使うというプランに変更した。
 この場合、一部の対地砲台を潰さなければならない。
 砲撃の少ない場所。
 そこを狙う数少ない砲台を潰していけば『龍』は砲撃し放題という事になる。
 それを可能とする為に『亀』によって一部の対地砲台を潰す必要がある。
 その為、『龍』は険しい山を登る必要があった。
 これならば、鈍重な『龍』であっても敵の砲撃を受ける事無く敵に接近出来るからだ。
 ただこれは、敵重歩兵に『龍』が見付かった場合、その命の保証はされない。
「自分は、死ぬ覚悟があります!」
「ん……立派だね。でも、無茶はしちゃダメだよ」
「はい!」
 次の問題は、航空機を使用する場合とは異なり、短期決戦が不可能という事だ。
 当然奇襲という形を取る訳であるが、長引けば相手の迎撃体制も整ってくる。
 外骨格を装着した重歩兵は当然あらわれるだろうし、要所という事もあり、戦闘機が出てくる可能性もある。
 そうなった場合、突撃によって相手の迎撃機能を粉砕したとしても『亀』や『鴉』の安全は確保されない。
 試合に勝って、勝負に負けるというのではダメなのである。
 どちらにも勝たなければ。
「もしそうなっても、亀の装甲なら大丈夫だ。僕の事は心配いらない」
 力強く言う飛騨に、ハルカも呼応して大きく頷いた。

 その日、ハルカは風邪薬を服用していた。
 軽い吐き気があった。
「大丈夫ですか、ハルカ様」
 ニキータの問いに、笑みで返した。
「もう、明日には作戦なのに……」
「ちょっと緊張してるのかもね。でも大丈夫。むしろ、ちょっと体調悪いくらいの方がギリギリのテンションが出るのよ」
 ニキータの心配は明日の戦闘の事もあったが、辛そうにしているハルカを放っておけないという意味でもあった。
 そして翌日、体調があまり回復せぬまま、ハルカは戦場へと飛び立った。



 突撃は呆気無く成功した。
 大量に引き連れていた為、操作が困難だった多くの『鴉』は、体当たりによって敵砲台を潰していった。
 そして出来た砲撃網の穴から、低空飛行によって敵砲台をどんどんと潰していく。
 やがてその殆どが撃墜されたが、第二波を引き連れてハルカは二度目のアタックを試みる。
 一度目の突撃よりも段違いに少ない抵抗に、全員が勝ちを確信した。
 だが、そんな時、敵の航空機が飛来する。
「なんで!? こんなに速い訳が無いのに!」
 敵の対空ミサイルが飛んでくる前に『鴉』達は一斉に回避行動を起こした。
 自分の排出した誘導妨害弾の周りをぐるっと回って、ミサイルを回避する。
 ハルカはあえて、対空砲台の射程まで高度を下げた。
 ミサイルの対象から外れる為に。
 対空砲台の殆どはもう存在しておらず、高高度を飛んでいるよりこの方が安全であった。
「敵対空砲台はもう殆ど存在してません。味方の戦闘機はまだですか!?」
 ハルカの問いに、木場は息を飲んだ。
 レーダーにはスタンバイしている筈の味方の戦闘機が映っていなかったからだ。

 軍の内部では、彼女の部隊がこうも呆気無く対空砲台を潰すとは思わなかった者が多数居た。
 それというのも、その陣地は二ヶ月にも渡って無敵の強さを誇っていたのだ。
 それがたった一度のトライでこうも大打撃を与えるなんて、考えられなかった。
 それが、援護が遅れた理由だった。
 スタンバイさえしていなかったというお粗末な内容で、それでも『亀』を搭載した機体がオートパイロット状態で目標地点に接近していく。
 場は混沌を極めていた。
 輸送機を爆撃機だと勘違いした『北』は『鴉』を無視して輸送機を優先的に攻撃し始めた。
 結果としてそれは正解だった。
 中には爆撃と同程度の効力を持つ無人機が搭載されているのだから。
 ハルカは限界を大きく越えたテンションで敵の戦闘機を撃墜していく。
 超高速で飛び回る機体を機銃で追いまわすというだけでも至難の技であるというのに、ハルカはそれを落としてみせている。
 絶対に『亀』の指令機だけは守らなければならない、その一心で。














       

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